#50 ドワーフとおしゃべり

 ドワーフは半精半人と言われる。精霊でもあり、人でもあり、どちらでもない。

 要はエルフのバージョン違いみたいなやつだ。

 そう考えると不思議と嫌な気分になるから世の中は神秘に溢れている。


 そんな彼らが人里に降りてくることは少ない。

 大概は鍛冶、採掘、酒に没頭しており、世間で見かけるのは冒険者になった一部だけだ。

 彼らにもカタログリストのアイテムは魅力的に映るらしく、自分の鍛冶や酒造りに役立てるために街に降りてくるという。

 事実、俺はダンジョンに入っていくドワーフを幾度となく見かけたし、酒場での交流も結構ある。

 彼らは酒なら何でも好きだ。そして酒にあうつまみも。

 つまり、酒場に置いてあるものなら何でも好きなので、何をもっていっても喜んでくれる、俺としてはすごくやりやすい客だ。

 

 俺は今日、酒場のバイト中にドワーフにエールを奢った。

 もちろん、下心ありあり、土精霊についてなにか聞けないかと思ってのことである。


「こちらは俺からのおごりです」


「ふむ」


 彼は頷くと、静かに俺の顔を見た。

 いつも酒を運んでいくと喜ぶドワーフが、えらく重々しい。

 

(なにかまずったか?)


 前回の例もあったので、この時点で俺は非常に嫌な予感がした。

 また奢らされるのだろうか。


「とりあえず、エール3つと肉、あとオススメつまみを何点かもらおうか」


 ほらきた、このパターン。

 また奢れというのだろう。

 前例と同じならタダ払いになるだけかもしれないが、仕方がない。


「……わかりました。エール3つと肉、あとオススメですね。では、ダガイモのチップスとミシャ鶏肉をお持ちします。少々お待ちください」


「うむ、まかせた」


 俺は急いで品をとりに戻る。

 今は空いているが、急に混みだすこともあるので油断はできない。


「エール1500リップ、ミシャ鶏肉1200リップ、ダガイモのチップ400リップです」


 俺は奢る準備をしながら金額を告げる。

 だが、しかし……


「うむ、ではこれで」


 ドワーフは普通に支払ってくれた。


(あれ?)


 想像と違う挙動に思わず固まる。


「こいつはワシの奢りだ。さぁ兄弟、エールをとれ。今日は一緒に飲もうじゃあないか」


「!?」


 俺は驚きに目を見開いた。その様がドワーフは面白かったようだ。

 彼はニヤリと笑うと。


「さぁ、どうした兄弟。席に就け」


 ドワーフ、イケメン!!


「お、おおぉ、兄弟!そうだよな、飲もう飲もう!!」


 俺たちはカーンとエールを打ち合わせると、グビッグビッとエールを開けた。


「ほほぅ、いい飲みっぷりだ。どれワシも」


 グビッ、グビッ、グビッ、プハー


「「わっはっはっはっ」」


 俺らは顔を見合わせて笑った。

 そして、その後ガシッと手を取り合って、互いに力いっぱい握り合った。

 

「いいなぁ、兄弟。こうでなくっちゃ」


「どうした兄弟。なにかあったのか?ワシに話してみろ」


 なにか、か……。

 俺は頭にエルフがよぎった。

 しかし、もうどうでもいい。


「ん?あぁ、もういいんだ兄弟。それより飲もう。いま俺が酒をもってくる」


 そういい俺は、マスターのところへ引き返すと、30000リップを置き、エールを両手でいっぱいつかんで席に戻る。

 店主は酷く驚いた様子だったが、俺の様子を見て、なにかを諦めたようだった。


「……今日だけだぞ」


 彼はこんな日もあるかと呟くとため息をついた。

 好きにやれということらしい。


「さぁ、無礼講だ!」


 ドワーフはやるなという顔をすると、俺の肩をバシバシと叩いた。


「「わっはっはっはっ」」


 俺とドワーフは顔を見合わせると、2人して大いに笑った。

 陽気な笑いが酒場に響き渡る。

 この晩、俺はこれまでの人生で一番飲んだ。

 途中、ドワーフと肩を組んでテーブルの上で踊ったような記憶もあるが、細かくは憶えていない。

 ちなみに、本来聞く予定だった土精霊については、すっかり忘れていて、完全に聞き逃したままこの日は終わった。

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