#46 異世界歓楽街

 この街では意外と娯楽が充実している。酒場、BAR、ナイトクラブ、ギャンブル。夜にひと時の夢を見せてくれる大人の店。

 冒険者が多いので、むしろそちらのほうが多いくらいだ。

 さすがに変態ジャパンを超える多様性はないが、魔法という圧倒的なアドバンテージが、要所要所では色々と上をいっていた。


 ダンジョン3番入口近くには、そういった系統のお店がたくさん集まっていた。

 歌舞伎町ほどではないが、それなりに規模があり、冒険者がひっきりなしにたむろしている。

 

 水交流の店『スィクルージュ』

 

 青く涼やかなデザインで隠しているがまごうことなき夜の店。

 こういう系列のお店は、どこも似たようなネーミングセンスをしている。

 俺はそのお店の前の客引きと、雑談を楽しんでいた。

 

「じゃあ、この辺にはエロ本を扱うお店は全くないってこと」


「お兄さんが求めるものはないだろうねー。王都までいかないと無理じゃないかな?」


 俺は夜の御供、エロ本を探し求めていた。

 だがしかし、この街のどこを探しても影も形も見えない。

 すでに2時間歩きまわったが、見つけることのできなかった俺は、業を煮やして客引きとコミュニケーションをとる道を選んだのだった。


「見つけられたとしても、うちの店に入るより高いからオススメできないよ。たぶん初級の魔法具くらいの値段するんじゃないかな」


 客引きは女性だったが、実にフランクに答えてくれた。

 チップを渡していることもあり、それなりに饒舌だ。

 どうにも、こちらではエロ本はマニアックな趣味に分類されるらしい。

 ほとんど需要はないとのことだった。


「初級の魔法具って、12万とか」


「あはは、さすがにそこまでじゃないよ。その半分くらい」


 エロ本が6万R。恐ろしい世界にきてしまった。

 俺は目の前の夜のお店の値札を見てみる。

 4000R。安い、居酒屋の飲み代くらいだ。


「ここって、BAR?」


「いやいやいや、水交流の店って書いてあるでしょ。うちは水交のお店」


 話を聞くと、最初から最後までお相手してくれるらしい。

 システムを聞いてみると、日本にはまるでないタイプのお店であった。

 扱っているものは、『水中交差』というサービスで、魔法を使って水中で男女が交流できるらしかった。

 お店の横の水槽では、ナイスバディなお姉さんが泳いでいるのだが、彼女がお相手の姫ということだろう。

 

(うわー、面白そう)


 魔法『水中呼吸』と『水中会話』を使えば、水の中でも陸上と変わらずに過ごすことができる。そこに水流操作も絡めれば、無重力の中で気持ちよくなれるって寸法だ。考えたやつは天才か。


(これで4000Rか)


 ゴクリと唾をのむ。


 最近割かしたまっているので、非常に魅力的に見えるが、俺は力いっぱい踏みとどまった。

 この手のお店は、はまってしまえば最後だ。

 きっとタガが外れてしまうと、俺は止まることができない。

 一度の失敗で終わってしまう悪魔のお誘い。

 先日のココットの誘いと同じだ。


(昨日のえろえろココットのアプローチは危なかった)


 後もう少しでついていくところだった。

 ジーナさんが一緒にいなかったら踏みとどまれなかったことだろう。

 別にのっかっても良かったのだが、理性が今のところはやめておけとささやいていたのだ。

 ちなみに本能は全力で俺を背中から押していた。手の跡が付くぐらい全力だ。次回があれば断れない気がする。

 なので、なんとしても上手いこと日々処理して、賢者でいたい。

 できればエロ本程度のマイルドさで対応したいのだが、それがないとすれば、どうしたものか。


「も、もうちょっとマイルドなお店はないかな」


「じゃあ、向かいの夢交流はどう? あそこは気晴らしに女性もよく入るよ」


 そういって、客引きが目の前のお店を指さす。

 

 そちらも店構えはスタイリッシュで、売り文句も『自由なリラクゼーションタイムをお届けします』と書いてあった。

 値段も2500R。手ごろな値段だ。

 

 確かに女性3人仲良く談笑しながらお店に入っていくのが見えた。

 しかし、彼女達の会話が少し聞こえたが不穏当な単語が飛び交っていた気がする。


(今、触手って言ってなかったか?)


 ぱっと見はマッサージ店っぽいのに、会話が不穏すぎだろう。


「夢交流ってなに?」


「夢交流は夢交流。そのままだよ。夢の中で交流するの」


 魔法のなかには、人の夢の中に入ることができるものがあるそうだ。

 それを活用したものが『夢交流』。

 実体ではなく、夢の中で大人のコミュニケーションができるそうだ。

 リアルではできないようなことが無制限で楽しめるらしい。

 これは女性にも人気で、女性同士で楽しまれることも多いんだとか。

 つまり、さっきの3人組もそういうことだろう。

 

(触手か、やべぇな)

 

 ライトに見えて、上級者向けだろう、あの店。

 深入りするとやばそうなので、俺は慌てて別のお店を指さした。


「あっちはまた別のお店だよね。相互魅了ってなに?」


「あれはハマる人が多いから、最初はオススメしないなぁ」


 お互いに魅了の魔法をかけあって楽しむのが『相互魅了』なんだとか。

 お相手はもちろん店のプロになるが、客と店員の関係を超えてものすごく燃え上がるそうだ。

 スタミナと精を無限チャージする魔法も併用するそうなので、夜が明けても続くことがあるらしい。

 基本的に一晩丸ごとの契約になるので少々お高めだが、月単位の契約も多いのだとか。


(うわぁ、一番行っちゃダメなとこだな)


 時間が終わると魅了の魔法は解除してもらえるが、相手への好意はそれなりに残るそうだ。

 ほとんどの姫が、一人の男性専属になることも多く、そのままゴールインしてしまう例もあとをたたないらしい。

 俺はそのゴールインを避けにここにきているのに、逆ははまってどうする。


「ごめん、もっとライトなものってないの?」


「さすがに夢交流より軽いのはないなぁ、こっちは種類少ないしね」


 ぱっと見、まだまだ色んな店が見えるのだが、客引きは王都に比べれば全然少ないという。

 どんだけすごいんだ、王都。

 これ以上踏み込むのは、危険かもしれない。

 今でも結構好奇心を刺激されるのだ。

 もし俺にどんぴしゃな店を見つけてしまったら、拒絶できるかわからない。

 俺はここらで客引きに礼を言うと、さらに追加で5000Rを握らせた。


「お兄さん、景気がいいねぇ。お店で遊んでいかないの」


「自重できなくなりそうだから、やめとくよ。また話を聞きにくるかもしれないからその時は頼む」


「いいよぉ、私は王都のお店も詳しいからね。あそこはここの10倍はあるんだから」


 10倍。俺は夜の闇の深さにおののきながら、必死にギルドへと戻った。

 魔法と夜の組み合わせは、俺の想像を超えすぎている。




―――――――――――――――――――――――


■世界観設定:『意識交換風俗』

 交流者同士が意識を交換して楽しむ交流。一般的には性を入れ替えて楽しまれる。『相互魅了』と併用されることも多く、互いに互いのことより深く理解できるようになるので、その後の通常交流がより深くなると言われている。同性同士でも楽しまれることが多い。


■世界観設定:『認識変化風俗』

 一時的に、互いの関係性を変化させて楽しむ交流方法の一つ。親戚、兄妹、親子や上司部下など望む関係性になることができるが、完全に認識が変わっているので、交流に至らないことも多い。『相互魅了』でサポートする店が多いが、オプションになっており追加料金がとられるものがほとんど。


■世界観設定:『魂域交流風俗』

 肉体を伴わない交流の一種で、夢交流に近い。こちらは魂と意識、記憶が交じり合うことが特徴。精神の一体感が他の交流よりも深く、女性に人気が高い。互いに互いの意識と記憶を覗き見るので、交流後に相手のことを意識する時間が長くなる。この交流は、多人数と行うことが禁じられている。国や街によっては1回ごとに役場への申請が必要になることもある。


■世界観設定:『憑依交流風俗』

 片方もしくは両者が、それぞれ特殊なものに意識を憑依させ楽しむ交流。

 一般的には、スライム、触手、馬。マイナーなところでは下着、床、机などがある。両者がそれぞれスライムと机になり楽しむ領域になると、他の風俗にはいけなくなるという。

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