#32 壊滅と訃報

 翌日、昼に街を歩くとあたりはお通夜モードだった。

 なんでも最前線の冒険者パーティ十組あまりが壊滅したらしい。

 今の最前線は160~170階。

 以前攻略されたダンジョンは200階だったそうだから、もう少しで魔神に届くと期待が大きかったみたいだ。


 町中に関係者も多く、色んな人が悲しみにくれていた。

 俺がバイトする酒場の看板娘ローザもその一人だ。

 なんでも今回死んでしまった冒険者の1人と付き合っていたらしく、ひどくふさぎ込んでいるらしい。

 俺は酒場のマスターに、彼女の代わりにバイトに出てもらえないかと打診された。

 ローザはほとんど、俺が出ていない日に働いている。

 つまり、休み返上でしばらく連勤してほしいってことだな。

 この街の人間は仕事熱心ではないから、嫌がられる頼みだ。

 だがしかし、復帰するまでだから、どうせ数回。

 俺としてはなんの苦でもなかったので快諾したところ、マスターからは「悪ぃな」と殊勝な言葉をもらえた。

 どうにも、マスターも彼らに入れ込んでいたみたいで、堪えているようだった。

 最前線の冒険者とは、人気スポーツ選手に似ている。

 町の人たちは、直接彼らの戦いをみるわけではないが、間接的に話をきき、ときには映像をみせてもらい、英雄の戦いを追憶して楽しんでいた。

 冒険者たちも、しぶることなく話を聞かせていたし、稼いだDPで大いに街を潤わしていた。


 それがある日ぱったりと壊滅。

 地球でだって、人気スポーツ選手数十人がのった飛行機が墜落したら、世間は悲しみ一色に染まるはずだし、ニュースは訃報で占拠されることだろう。

 

 今まさに街を覆う雰囲気はそれだった。

 飛び交う噂も壊滅原因に関係するものばかり。

 どことなくどんよりと暗い雰囲気が漂い、少しやりにくい感じがした。

 

 壊滅原因についてだが、生き残った2,3名から話が出まわっている。

 口伝てだから、どこまで信憑性があるかわからないが、なんでも数百体の悪魔が急に発生し、冒険者に襲い掛かったそうな。

 これは今までの常識を覆す事態であり、学者たちは、ダンジョンの防衛本能が危機的状況を察知し、持てる全ての余力を投入してきたとみている。

 事実、遠視と過去視の魔法で状況を追跡したところ、無理のある進攻だったせいか、最前線の冒険者を壊滅させた悪魔は冒険者を駆逐した後で”全て溶けてしまった”のだとか。


 ダンジョンの防衛本能、なんとも恐ろしい話である。

 俺のやっていることも防衛本能を刺激するとヤバイことになるかもしれない。

 いざというときために、俺は改めて保険となる装備の購入を決意した。

 今回生き延びた冒険者がどのようにして危機を脱出したか、酒場で情報収集することにしよう。

 

 ちなみに俺は、スポーツに興味がないタイプである。

 当然最前線冒険者に知り合いもいない。つまり今日も平常運転に変わりはなかった。

 むしろ今日はいつもより敵の発生が早く、稼ぎがすごいことになっている。

 周りの落ち込みとは反対に相当気持ちが上向いているので、鼻歌がでないか少し心配だ。





■魔法解説「過去視」

系統   :魂

呪文構成 :認識5以上

目標   :認識している空間

消費魔力 :300+α(遡る時間によって変動)


概要:

 知覚している空間において、過去に起こったことを知ることができる。術者はその場にいるかのように、その空間内の過去を知覚することができるが、味覚嗅覚触覚に関しての情報は得ることができない。過去を遡るほどに認識レベル、必要とされる魔力と集中力、時間が跳ね上がる。

 断罪官には必須とされる魔法であり、街以上の集落には必ず使用できるものが在中している。

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