#8 挫折すること風のごとく、浪費すること炎のごとく

 orz

 俺はギルドでうな垂れ悩んでいた。

 

(生き物を殺すの無理だ!)

 

 未だに生々しい感触を思い返しながら思う。

 そもそも現代でまともに喧嘩もしたことないような自分に、息を吸うように生物を殺害して日々の糧を稼げということ自体が無茶なのだ。


 先ほどの戦いでは結局、傷を癒すためにポーション1個(1000DP)を使うはめになった。

 収支でいえば、ログインボーナスを抜けば完全に赤字なわけで。

 一番最弱のモンスターでこれでは、今後が思いやられる。


(現代人には無理ゲーだろこれ)

(バイトでも探して暮らすかなぁ)


 そう思い詰めていた矢先だった。


「ただいまー」


 血まみれになったイハルがドアを開け帰ってきたのである。


(こいつ、めっちゃ殺してるやがる!)


 しかもなんていい笑顔、シリアルキラーか?


「お、地道さんじゃん。ダンジョンいった?」


「……いって、さっき帰ってきた」


「ダンジョンってめちゃくちゃ面白いな!」


 彼は血まみれのまま、非常にいい笑顔を浮かべた。めっさ怖い。

 ホラー映画の1シーンみたいだ。

 しかも、行きでは見なかったショートソードを掲げて


「炎の剣すごいぜ。敵がばっさばっさ焼ける」


 と、剣を振って武勇伝を語って聞かせてくれる。

 なんとかに刃物。血がこびりつく剣を掲げる彼は明らかに危険人物だった。

 しかし、見た目はともかくダンジョン攻略が上手くいってるのは羨ましい。


「ネズミ、めっちゃ見てこなかった?」


 あれ見て切り殺すことなんてできるの?と暗に訴えてかけてみる。


「敵の姿は暗くてあんまり見てねぇ」


 しかし、彼の回答は全く予想しないところにあった。


(しまった。俺が逆に見えすぎてたのか)


 たしかにイハルは暗視ゴーグルをつけていなかった。

 どうやって進んだのか聞いてみると、炎の剣で炎を出し、洞窟照らしながら進んだそうな。ものすごい力業だ。

 彼はかっこいいから衝動買いしたらしいけど、遠近対応で松明の役割も果たせるなら確かに強いのかもしれない。


「確かに使えるなぁ。その剣いくらした?」


「長さと鞘を削って10万!」


 全財産じゃねぇか、よく買ったな!

 俺の残高は5万ちょい。

 長さと鞘を削っても無理だが期間限定カスタマイズなら手が届くかもしれない。

 頭で採用の可能性を検討しつつ、使い心地を確認する。


「その剣って、一振りごとに炎がでるの?」


「そうそう、イメージ通りの形になるから、すげぇ面白いの。俺、竜の形できるようになったぜ」


 炎が自由自在となると、かなり自由度の高い戦い方ができそうだ。

 これは本格的に買いかもしれない。


「これでDPかからなきゃなー」


 ん?


「振るたびにDPが?」


「俺魔力扱えないからさぁ」


 聞くと魔力チャージ型、炎の使用回数制限型と、DP消費型の3種類があったらしい。

 彼は無制限運用したかったから、DP消費型一択だったとか。


「それって、燃費悪くないか」


「炎の出し方で消費が変わるし。慣れればいけるって」


「残りDPいくつ?」


「……0」


 破産してんじゃねーか。その一言で俺は買うのをやめた。

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