#7 ダンジョン攻略はじめました(1日目)
【本日のログインボーナス!1000DP獲得しました!】
リストガイドが最初に発した言葉はソーシャルゲームお決まりの一言だった。
俺は寝室へ案内された後、さっそくダンジョンに潜ることにしたのだが、ダンジョンの入り口を前にして、ギルマスにおすすめされたリストガイドの購入を忘れていたことを思い出した。
便利だというので、とりあえず購入してみたところ、はたして光と共に小型の天使が飛び出してきたのだ。
そして開口一言、ログインボーナスである。
もっと可愛らしいセリフを予想していた俺は、はじめ何をいっているのかわかららず、びっくりした。
しかも、はじめましてとか、自己紹介とか、そういった人間味あふれるセリフは一切なく、彼女は先ほどのメッセージの後はだんまりである。
(これ、なんだろう?)
ひたすら見つめるが小天使はただ黙ってふわふわ浮くばかり。
とりあえず邪魔ではないので、俺は小天使をそのままに(じゃっかん白けた感じにはなったが)改めてダンジョン内に踏み込むことにした。
魔神ダンジョン地下1F、小悪意の巣。
モンスターとしては小物ばかりだけど、細かに人を傷つける悪意が蔓延している階層だという。
初心者の中には怪我をして帰るものも多いというから、十分な注意が必要だ。
事前の調査から、俺はこの1F攻略に最適な装備
・暗視ゴーグル(5000DP 2週間の期間限定カスタマイズ)
・こんぼう(10000DP)
・索敵リング(2000DP 2週間の期間限定カスタマイズ)
を購入し、さっそく装備して突入した。
ちなみに、2週間の期間限定カスタマイズというのは、アイテムが2週間で消滅する代わりに、元の価格の5分の1の値段で買えるようになる調整である。
攻略書におすすめされていたカスタマイズで、初心者の頃はこれで節約しながら進むのが良いとあった。
暗視ゴーグルをかけると、全く見通せなかった洞窟の暗闇がくっきりと映し出される。完全に松明いらずだ。
そして、索敵リングを操作すると、周囲の敵の位置が感覚的に伝えられる。
すでに曲がり角にはいくばくかの敵が待ち構えていようだった。
ごくりとつばを飲み、ゆっくりと歩みを進める。
やがて敵の圏内に踏み込んだらしく、ヤツはトテテテテテと曲がり角から姿を現した。
それは、デフォルメされた可愛らしい灰色のネズミだ。
つぶらで大きな瞳に、ふさふさな毛におおわれた体。
無駄に脂肪のついたぽよぽよボディに、生きるのに不向きな短い手足。
そして、役割を果たしているのか怪しい短い尻尾。
すごく女子受けしそうなその生き物は、後ろ足で立ち上がると短い両手を広げ、見ようによっては歓迎しているような仕草をみせた。
そして、短い手足で一生懸命こちらにトテテテと駆け寄ってくる。
ぱっと見は、これから仲間になりそうな雰囲気すらある。
それぐらい漂わせる気配はフレンドリーだった。
だがしかし、ここは小悪意の巣。
仕草見た目は全て罠だ。
俺は固唾をのみ、覚悟を決め、全力でこん棒を振り下ろす。
ぶぎゃ、ごりっ
生々しい手ごたえと共にネズミの頭はつぶれ、脳漿と血反吐をあたりにまき散らした。みごとなグロ映像だ。
ピクピクと痙攣しながら、ネズミは少し前の可愛らしい風貌を消し、未成年お断りのスプラッタな姿をあらわにている。
なぜだろう目がそらせなかった。
即死はしなかったのだろう、気持ちの悪い痙攣が10秒も続くと、やがては、命の終わりと共に、何もなかったかのように静かに消えていった。
【32DP獲得しました】
そして、そこでずっと黙っていた小天使がメッセージを告げた。
俺は突然の挙動に驚きつつ同時に理解する。
(え、こいつシステムメッセンジャーなの?)
見た目が可愛らしいから、想像もしていなかった。
ネズミほどではないが、もっとフレンドリーであっても良くないか?
敵が謎の親しみやすさを発揮し、味方が謎の冷徹さを表現している。
すごくチグハグな状況に、複雑な心境になった。
それから何匹か遭遇してはつぶした。
ダメージを受けることはなかったが、吐き気がこみあげてくるのは何故だろうか。
俺は知り合いが飼っていたハムスターを思い出しかけては頭を振り、忘れろ忘れろと呟いていた。
そして、ある程度進んだとき、索敵リングを作動させると少し先からひとまとまりの反応が返ってきた。
これは敵が複数いる反応だろう。
武装が貧弱な状態で団体はまずい。
俺は全力で逃げる準備をしながら敵の姿を凝視すると、大大小のネズミが3匹身を寄せ合って姿を現した。
(……倒せなくはない気がする)
敵の反応は今までと同じだ。
ご主人様お帰りなさいと言わんばかりの愛嬌たっぷりのしぐさの後、トテテテテと駆け寄ってきた。動きは速くない、というか遅い。
俺はゆっくり待ち構えると、射程内に敵をとらえるまで少しまつ。
そして、敵が届く位置になると、全力でこん棒を振り下ろした。
ベキョ
嫌な手ごたえを感じる。
しかし、余韻に後悔する暇はない。
敵は3匹だ、俺はすぐさま後ろに走り、距離をとる。
みょーみょー
3匹は親子だったのだろうか。
残った2匹は潰れた1匹に駆け寄り、悲しそうに鳴いていた。
【36DP獲得しました】
そのとき、小天使が無感情にDP獲得メッセージを囁いた。すごく邪魔。
やがて死んだ1匹の姿が溶けるように消えると、残りの2匹は静かにこちらを見つめてきた。
まるで「なんでこんなことをするの?」と語り掛けてきているかのようだ。
・・・痛い、なにかが少し痛い。
今日、これまで何度か感じている、ソレは、しばし俺を束縛した。
2匹は俺が動けずにいることを察したようだ。
やがて2匹は様子を見ながら、再びトテテテテとこちらに駆け寄ってきた。
しかし、その歩みは非常に遅い。
これまで同様に、余裕で俺でも対処できる速度だ。
当然、俺は再びこんぼうを振り上げた。
そのとき、小さいほうのネズミが止まり、俺のほうを見あげる。
「やらないよね」と。
……ぐ。なにかが軋んだ音がした。
少し遅れて振り下ろし、大きいほうのネズミをつぶした。
ぶぎゃと鈍い音がする。生物が潰れる音というのは想像より全然汚い。
また悲しい声で鳴くのかなと思ったときだった。
小さいのがこっちを見ていた。
……痛い、なにかがすごく痛い。
【34DP獲得しました】
小天使が消滅をつぶやく。ほんと邪魔。
小さいネズミは弱弱しそうにトトトトとよってきた。
先ほどよりも心なしか少し遅い。
なんか動けなかった。
少しずつネズミが近寄ってくる。
下がらなくては。このネズミは酷い病気持ちだ。理性は強く叫んでいた。
しかし、体が思うように反応しない。
そして、こん棒が届く圏内に敵が入ったときだった。
小さいネズミが急に加速する。
そして
ガブッ
「いってええええええええ」
……
……
……
【47DP獲得しました】
「やってられるかっ!!」
俺はこんぼうを地面に叩きつけた。
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■モンスター解説「病鼠」
1Fの主モンスター。状態異常攻撃に特化している。
その可愛らしい見た目とは裏腹に最悪の病気持ちで、体液に触れるのはご法度
もしかみつかれたならば、即座になんらかの手を打たないと、短時間で病死する。
幸いにも動きは遅く柔らかいので、かまれる前に倒すことは容易だが、複数体あらわれたときには注意が必要。
通常個体に紛れて、見た目が同じな上位個体が混ざっていることがある。上位個体は命と引き換えに瞬間的に素早く動く機能をもつ。
油断しているところに上位個体にかまれてしまう冒険者は非常に多い。
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