#3 カタログリスト

 目の前に浮かぶ発光する本。

 表紙にはタイトルもなくただ数字が 100000 とだけ書かれていた。


「手に取ってみろ」


 言われるがままに手をとるとパラパラと最初の数ページがめくれる。

 文字は全て日本語だった。見出しに『はじめに』と書かれている。


「まずはリストの説明がでるはずだが、それは後で読め。とりあえず中をめくってみろ。アイテムが並んでいるはずだ」


 ペラペラとめくると、確かにポーションや剣が並んでいる。

 カタログリストということは、これらを買えるということだろうか。


「すげぇ、ドラゴンスレイヤーだって、俺これほしい!」


「DPはいくつって書いてある?右上のやつだ」


「いちじゅう……3億……」


「表紙の数字がおめぇの持ちDPだ」


「10万。全然たりねぇ!」


「はじめに10万は多いほうなんだがな……」


 なるほど、初期DPは10万なのか。

 ポーションは1000だから、だいぶ余裕がありそうだ。


 ギルマスは、この本の説明を続けた。


「このリストは、他人が見ることはできない」


 顔を上げギルマスの手をみてみると、先ほどと同じく何もなかった。

 なるほど、あの手は本を持っていたのか。

 イハルの手元も同様だ。手は本を持つ形をしているが、何も見えない。


「そして、このリストから買ったものは他人が使うことはできない。あくまで自分だけのアイテムだ。例外は金だけだな」


 リストに購入できるものの一つにこちらの世界通貨(リップ)もあるらしい。

 リストをめくると確かに1R(リップ)が2DPと出てきた。

 聞くとパンが100Rらしいので、おそらく1R=1円程度の価値があるではないだろうか。


「そしてDPは譲ることができない。ドラゴンスレイヤーを手に入れるためには自分で稼ぐしかないわけだ」


 ユーザー間のお金のやり取りを禁じていると。後期のMMOかな?

 ギルマスが「昔はできないこともなかったんだがな」とこぼす


「悪用する奴が多すぎて今は完全にできなくなった」


「昔と今が違うって、変更がかかることがあるんですか?」


「あぁ、このリストは日々更新されている。今話したルールも将来的には変わっているかもな」


 ここからは少し雑談が続いた。

 俺もイハルもこのカタログリストに夢中だったせいだ。

 危なくない不思議なものは、人を興奮させるのだと、この時知った。


「さて」


 雑談中はだらけていたギルドマスターだが、ここで少し改まりゴホンと咳ばらいをする。

 どうやら大事な話をするらしい。


「お前たちの今後の生活に必須なこのリスト、実は元の世界に帰る方法もここにある」


 帰れるのか!俺はイハルと顔を見合わせた。


「リストの最後にある『帰還チケット』を購入しろ。それで元の生活に戻れるはずだ」」


 最後のページをめくると、確かにそこにはゲートの絵と共に『帰還チケット』というアイテムを見つけることができた。

 説明もちゃんとついている。

 このアイテムは、落ちた瞬間へのゲートを開くもので、元の世界、元の時間に元の姿で戻してくれるらしい。

 値段は、300万。


「たっか!」


「金額は人によって違う。200万のやつもいれば1000万のやつもいる。世界の位置関係で違うんだそうだ。世界の位置関係は変動することもあるらしい。その時にはチケットの額も変わるから注意しろ」


「俺、300万なんですけど、どれくらいで稼げるものなんですか?」


「真面目にやれば初めの方でも一日5000は稼げる。少し進めば1万もいけるだろう。そうだな、1年ぐらいじゃねぇか?」


 1年。衣食住が確保されてるなら、異世界観光としてアリな期間だ。


「あ~、なんかほっとした。俺もう帰れないのかと思ってた」


 イハルがよかったと大きく伸びをし、後ろの背もたれに倒れる。

 俺も全く同じ気持ちだった。

 帰れると聞いてから一気に緊張が溶けていくのを感じる。


「2人とも不幸な事故に見舞われちまったが、神も見放しにはならなかったってことだな。結構なエネルギーが必要だからタダでとはいかんらしいが、真面目にやりゃあちゃんと戻れるぞ。俺もそれなりな人数見送ってきた」


 戻った実績もあるのか、なんとも嬉しい情報だ。

 数百万DPは決して稼げない額ではないのだと、自然と前向きになれた。


「さて、じゃあここからが無事やってくための諸注意だ」


 それ以降は注意点がずらずらと続いた。

 細かい内容が多かったが、ギルマスが特に気をつけろと念押しして説明したのは以下の2つだ


1.通貨の購入レートは高いので、最初はなるべく抑えたほうがいい

2.ポーションは購入のたびに価格が1割ずつ増える。驚異的な回復力があり必要があればためらわず使うべきだが、使い過ぎるとポーション代だけで赤字になるので注意すること。


 確かに、初心者にはすぐには気づけない仕様だ。

 なにげないところだが、助かるなと素直に思った。


「あと、これはお前たち堕ち人特有のものだが、リストの最初に『ガイド』が売っている」

 

 さきほどページをめくるときに見送ったが、確かに始めのほうに天使の絵とセットで『ガイド(10DP)』というアイテムを見かけた。

 

「そいつは、堕ち人専用のリストガイドだ。俺も話に聞くだけだが、あると便利らしい。とりあえず買っとけ」

 

(リストガイドがいるなら、今までの説明はいらないのでは?)


 そう思ったが、どうやら質問は受け付けても、ガイドから積極的に説明をしてくれるわけではないそうだ。

 そいつが俺の代わりに説明してくれりゃ楽なんだがな、とギルマスが小さくぼやいた。


「リストについてはこんなところか」


「内容多すぎ。俺、もう疲れてきた」


「もう残りはダンジョンの事だけだ、これを聞いたら自由だから我慢しろ」


 生死にかかわるからなと前置きして、ギルマスは切り出した。


「我々が挑まなくてはならないのは『魔神アクバアルのダンジョン』だ」

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