第2話

 ――数時間後。


 すでに日が暮れており、現在はもっとも気温が下がる時間帯であり、昼頃から降り始めた雪はいまだに降り続けている。

 幸い城内は、始祖魔術師が作り上げた結界により一定の温度が保たれており、寒さを感じることもない。


 ただ、クレイクは数時間、ずっと落ち着きがなく右足を揺らしていた。


「まだなのか?」

「陛下。まだ、王妃様は産気づいたばかりでございます。私のときなど、10時間近くかかりましたぞ」

「……そ、そうなのか? そんなに時間がかかるものなのか?」

 

 平時は賢王と呼ばれていたが、そんな姿など今は微塵も感じ取ることができない。

 そんな国王を見ていた宰相であるアズルドは小さく溜息をつくと。


「陛下、来月の使節団の話は聞いておりますか?」

「……う、うむ? それが、どうかしたのか?」

「いえ。何でもございません」


 どうやら、クレイクは自身の妻の身を案じるあまり、頭の回転が遅くなっているようであった。

 そのことに気がついた宰相アズルドは、どうしたものか? と頭の中で対応を考えていたが、仲睦まじい国王夫妻のこと。

 余計なことを言えばかえって混乱すると思い、何もいわないことを心の中で決めたのであった。


 ――それから10時間に無事に子どもが生まれたのだった。




 東京都千代田区神田。

 

 灰色の空が高層ビルの隙間から見ることが出来る。

 

 いつ、雨が降るか知れない空を女性は見上げて「雨が降ったら困る」と小さく誰にも聞こえる事のない声量で言葉を紡いでいた。

 そして空を見上げたまま、始めての出勤だったこともあり呆然としていた女性は、信号機が青くなるのを漠然と確認してから歩道を歩きだした。

 すると赤色のスポーツカーが赤信号を無視して歩道に突っ込んできた。

 信号が青に変わったばかりで、渡り始めた人ばかりだったため、怪我人は出ることはなかったが――。


 ……いや、一人だけ早めに歩道を渡り始め、信号無視をした車に驚いて転んだ女性がいた。


 ハイヒールを履いていた女性は、信号を無視して突っ込んできた車を辛うじて避けることが出来たが転んでしまったようだ。

 

「痛っ――。もう! 信号無視なんて最低!」


 小さく愚痴を言葉にしながら、女性は立ち上がる素振りを見せが、足首に痛みを感じてしまい立つことが出来ずにいる。

 そこで、女性は気がつく。

 周囲の人間が、頭上を指差しながら何か叫んでいることを――。


「一体、何が?」


 女性は呟きながら空を見上げる。

 彼女の瞳は灰色の雲が、一面に広がっている空と落下してくる物体を映していた。

 そして、彼女は危険だと理解する前に、落下してきた鉄骨の下敷きになった。

 危険だと理解する間もなく、落下してきた鉄筋の下敷きになった。



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