薬師シャルロット
なつめ猫
第零章
第1話
アルトウス大陸北部に存在する小国――クレベルト王国。
クレベルト王国の周辺は、険しく高い山々に囲まれており、食料の需給率はとても低く、産出される鉱物の質も低い事から、戦略的価値がない場所と思われており侵略を受けることもない。
人口は3万人程度であり、周辺国家と比べても、その影響力は、とても小さい。
長年、無視されてきた国であったが……、新しい王であるクレイク・ド・クレベルトが王座についてからというもの外交政策、食料政策と共に成功を収め、彼が国王になる前よりも確実に実り豊かな国へと変貌を遂げた。
――初冬の到来の日。
クレベルト王国の王都には、現在、冬の訪れを知らせるごとく雪が降り始めていた。
雪は、煉瓦で作られた町並を、舗装された道を白く染め上げていく。
そして雪が降り始めると薄暗くなることもあり、建物から漏れ出る明りが町を彩っていく。
幻想的な町の中心にそびえ立つ白い大理石で作られた王城は、白亜の城と、クレベルト王国だけではなく周辺の国から呼ばれていたこともあり、雪が降り始めると、霜が出来て輝くことから、とても美しく映える城であった。
「……まだか? ……まだなのか?」
王城内の通路で、一人の男が呟きながら落ち着きもなく歩きまわっていた。
そんな男の様子を、初老の男性が見つめながら溜息をつくと――。
「クレイク陛下! 少し落ち着かついてくだされ」
「だ、だが! アズルド、そうは言うがな……」
クレイクは苛立ちを含ませた声でアズルドに問いかけに答えながら、目の前に見える王妃の部屋に続く扉を見て溜息をつく。
「陛下――」
「分かっている!」
ムスッとした表情でクレイクはアズルドへ視線を向ける。
そして、大きく溜息をついてから椅子に座ると何度も足を揺らし始めた。
クレイクは、恵まれた体格をしており身長が2メートル近くもあり、彼の動作は否応でも目ついてしまう。
そんな彼をアズルドは、眉間に皺を寄せながら見ていた。
そもそも、どうしてクレイクが、この場所にいるかと言うと産気付いた自分の妻を心配して自主的に来たからであった。
「くそっ!」
初めて味わう緊張感に、恐怖そして心配とクレイクの悩みは尽きない。
「こんなことなら、戦場に出て大国と戦っていた方がマシだな……」
「お戯れを――。戦争は最後の手段でございますぞ?」
「分かっている! 分かっているが……」
いくら優秀な王と言われ民からは賢王と呼ばれていても、彼が修めた物は、戦術、文学、経済学、帝王学であった。
出産に関しての知識はまったく無い、素人同然。
自分が何も出来ないことに苛立ちながらアズルドに窘められたクレイクは、気分を紛らわそうと王城通路の窓から外を見る。
窓からは、城下町が一望することが出来、雪が降り積もっていた。
その様子を見た彼は「今日は、冷えているだろうな――」と呟いた。
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