第6話 炎上
たどり着いた島は、私が住む国と隣国とのちょうど境目にある島で、領土問題で物議を醸している。
そういうこともあって、誰も住んでいない無人島となっているが、昔は住んでいた人達がいたそうだ。昔に使われていた船着場が残っていたり、少し島の奥へ入ると森の中に廃屋があったりと、僅かながらに名残りが残っていた。
私は海岸の上に降りると、砂浜へ大の字に寝転がった。
「あ〜、つかれた〜」
仰向けになりながら空を見ると、少し赤く染まり始めた。
「暗くなってきたな~。もうこんな時間か……」
そんなことを言っていると、「ぐぅ〜」っとお腹が鳴ってしまった。
「お腹減ってきたな〜。そういえば昼にサンドイッチしか食べてないや。今日は外食にしようかな~」
居候中の身だが、後で先生に連絡しておこう。
「アル、今日の晩ご飯は何がいいかピックアップして」
既に球体に戻っていたアルは、ぷかぷかと浮いて私の前にやってきた。
「イブキ様、今日は街へお戻りになるのはやめておいた方がよろしいかと……」
「えっ……どうゆうことよ?」
何か言いにくそうな雰囲気を見せるアル。
「なに? なんなのよ、言ってみなさいよ」
ちょっとキレ気味に問いただしてみた。
「……はい。大変申し上げにくいので、こちらをご覧ください」
そう言ってアルは、ホログラム映像を出してきた。
私は起き上がると、その映像を注視する。
「ん? ただのニュース番組じゃない」
その番組は毎日夕方に放送されている報道番組で、ちょうど今日起きた事件の数々を報道していた。
「――それでは次のニュースです。今日午後2時頃、◯◯◯の住宅地路上で人が倒れているとの通報があり、地元の警察官が駆けつけたところ、近所に住む60代男性が頭から血を流し、倒れているのを発見しました」
あらら、一体何があったんだろ?
「近くの病院へ搬送された男性は命に別状はなく、全治2週間の怪我と診断されました」
命に別状はなかったんだ。良かったね~。
「目撃者の証言によりますと、男性が倒れていた付近の住宅内より何かが爆発するような破裂音があり、音がした住宅から人が飛び出したと証言しています」
――ん? 人が飛び出した……?
「付近の防犯カメラに写っていた映像を確認すると、ヘルメットをかぶった女性らしき人物が空へと飛んでいく場面を捉えていました」
……。
「地元警察は、最近何かと話題を呼んでる『グラビティガール』ではないか? との見方をしており、今回の事件との因果関係を調べると共に『グラビティガール』の行方を追っています」
……………………。
「……イッ、イブキ様? なんか体が震えてますが……」
「なんじゃこらああああああ!!!!」
私は叫んだ。
そりゃ叫びましたよ。これでもか!ってぐらいにね。
「はぁ、はぁ、なっ……なんなのよこれは……。なんで私が犯人扱いに!」
「あの……イブキ様。実はまだあるのですが……」
私は鋭くアルを睨みつけた。
「まだあるってなによ……」
「はっ!はい! 実はネット上でも大騒ぎで、検索ランキング1位です」
なっ! なんだと……。
アルがホログラム映像でネット画面の検索ワードランキングを見せてくれた。
『グラビティガール 女』『グラビティガール 男』『グラビティガール 怖い』『グラビティガール 臭い』
「臭いって、なんじゃいいいいいい!!!!」
叫んだと同時に周りの砂が多く舞い上がった。思わず能力を発動してしまった。
「殺す! 臭いって検索した奴殺す!」
アルはおろおろとして、私の周りをぐるぐる回っている。
「アル! ネット上にある私の悪口は全て削除して!」
私の声にびっくりしたアルは、ビクッとして動きを止めた。
「!! じっ! 実はもうすでに火消しにまわったんですが、書き込みが速すぎて全然間に合いません! 落ち着くのを待って、徐々に消していくしか……」
私はへたりと座りこんで、これでもかというぐらいに溜息を吐いた。
「はぁぁぁ、なんでこんなことになってる? 信じられない……」
仕事の依頼を受けて、ウェールズの行方をただ探すだけだったはずなのに……。
このままじゃあ、しばらく活動が出来ないじゃないか……。顔は常に変形したアルをかぶって素顔を隠しているから、普段の生活には支障はないけど……。
「そもそも、なんで『グラビティガール』なの? 誰が言い出したんだ?」
「それはたしか……イブキ様が記者にインタビューされた時に、言った名前だと……」
「うぅ……」
そうだった。適当に言った名前がこんなことになるなんて……。
そうして憔悴しきっていると、突然アルからコールが鳴り響いた。
「イブキ様、社長からですが出ますか?」
「あたりまえよ! 繋いで!」
アルはすぐに繋いでくれると、画面からは険しい表情の社長が出てきた。
「イブキ! これは一体どうなってるんだ? 説明してくれ!」
「どうなってるも何も、聞きたいのはこっちの方よ!!」
お互いに睨みあう。
文句を言いたいのはこっちのほうだ。
会社側がちゃんと裏をとってくれてれば、こんなことにはならなかったかもしれないんだから……。
「はぁ……、とにかくまずは説明してくれ……。こっちの話はそのあとだ」
それから私は事のいきさつを話した。
捜索を開始するのに、まずはウェールズの自宅に行ったこと。自宅に着くと5人の男達に襲われ、空へ逃げたら今度は戦闘機に襲われて逃げまくってきたことを……。
「戦闘機ってお前……。なんで軍隊が絡んでくるだよ。どうなってんだ……」
社長は信じられない表情ではあったが、何か思案している様子だった。
「1つ聞きたいんだけど、今回の依頼人って何者なの? 気にはなってたんだけど……」
今回の依頼には何か裏があるとしか思えない。依頼人が何者かによっては、見えてくることがあるかも……。
「依頼人なぁ……。ウェールズが勤めていた企業の重役だということは分かっている。音声通話でしか打ち合わせをしてないから、どんな人物かは分からないんだが……」
「じゃあ、その重役って奴を片っ端からあたるしかないね!」
「おいおい、ちょっと待て! もうこれはお前だけの問題じゃない。勝手なことはするな!」
社長の目が鋭く私を射抜く。こんな社長を見るのは初めてだ。
「ウェールズの件は、企業にとっては非常にデリケートな問題だ。超極秘に動いていることは間違いない。当初はウェールズを早々と見つけて、事なきを得ようとしてたのかもしれないが、今回の報道で関係者には明るみになったかもしれないな」
社長の話しを聞いていると、メールが届く着信音がアルから聞こえた。
「今メールを送信した。そこに記されてる場所でしばらく身を隠しておいてくれ。ほとぼりが冷めれば、元の生活ができるようにしてやるからな」
えっ? なんで私が隠れなきゃいけないの……?
フツフツと怒りがこみ上げてくる。
「ちょっと待って! なんで私が隠れ」
「イブキ様!」
突然アルが叫びだした。私は言葉を遮られたことに不快感をおぼえながらもアルを見る。
「何よアル! 今大事な話しをしてるのに!」
「何かがこちらへ高速接近してきます! お気をつけください!」
アルが接近してくる何かを、ホログラムで拡大表示してくれる。戦闘機ではないようだ。
鳥のような感じに見えるが……
「なんだ! なにが起きてるんだ!?」
社長が焦りながら、私に問いかけてきた。
「何かは分かんないけど、こっちに向かってきてるみたい。とにかく通話を切るから、話しはまた後で!」
「おい! ちょっと待っ」
社長の静止を無視して通話を切る。
「アル! 私の顔を隠して!」
「はい!」
アルはすぐさま液体化し、私の頭に飛びつきながらヘルメット型へと変形していく。
そして、ゴーグルから見える拡大映像を確認すると、もう目の前まで迫っていた。
「あれっ!? えっ? なんで!?」
私は驚愕した。そして信じられなかった。
そいつは上空から急降下し、着地と同時に砂煙を上げた。
砂煙の中、人物のシルエットと共にちょうど目の辺りが光って見えた。
煙が晴れてくるとその姿が露わになる
「――よお、また会ったな」
「なっ、なんであんたがここに!」
ウェールズ宅で、私を襲ってきた男達の1人。赤い仮面を被った男がそこに立っていた……。
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