戦争しましょうか?

プロローグ

 悪魔の国〔タデイロン〕は、謎に包まれた土地である。

 悪魔のみが生活をしている国。多くの者はタデイロンについてその程度しか知らない。

 悪魔という種族も誤解されている場合が多く、悪逆非道の種族だと思っている者が殆ど。

 つまりタデイロンという国は、自らの快楽の為に殺害を繰り返す種族が住まう常夜の国。その認識が一般的である。

 その事実について、若き神官長アルザ・フォン・ジャヴァウォックは神殿の一室で思い悩んだ。

「んー……。どうにかして、悪魔のイメージアップ……できないかな?」

「無理ね」

 即答したのはサキュバスの少女、ザーリン・フゴ・トール。ザーリンはアルザが発生した頃からアルザの面倒を見ている。人間ならば幼馴染に当たる。

「無理って……」

「サタン様の時代から悪魔は他の種族の為に、をモットーに生きてきたのよ?」

「……それは勿論、知ってるけど」

「それでもイメージアップは出来なかった。もう手の施しようがないのよ」

「……」

 アルザは悪魔の象徴である頭の角を触り、自分の生い立ちについて考えた。

 そもそも悪魔とは生き物とは言い難い種族で、母体から生まれるのではなく何もない空間に発生することで誕生するのだ。寿命も無いに等しく、殺されたり封印されたりしない限りは永遠を生きる。

「もっと詳しく知りたいのなら、ベルフェゴール様にお聞きなさい」

「生き神様に聞くなんて、……恐れ多いよ」

「アルザ、仮にも神官長の立場なのよ? そのくらい大丈夫よ」

 悪魔は信仰深い種族でもあり、古代に発生した「原初の悪魔」と呼ばれる七柱を神として崇めている。神々の名はキリスト教やユダヤ教における七つの大罪と共通しているが、信仰の形は日本の神道に似通っている。

 ベルフェゴールはそんな神々の中で、唯一現在も生きている悪魔。生き神と呼ばれている。

「まったく……。発生して十七年の僕が、神官長だなんてね。……他の悪魔は、どうなってるんだか」

「生まれつきに教養と魔力があったあんたが異常なのよ。普通の悪魔は二十年かけてようやっと魔力量が決まるものなのに、発生した時点で平均以上あったアルザは、悪魔の中でもバケモノよ。まだ増え続けてるし」

「僕としては、なんで他の悪魔が二十年もかかるのか、分からないんだけど……」

 アルザが転生者であることを考慮しても、最初から成人している悪魔がなぜ二十年かけて教養を得るのかが未だに解せない。魔力に関しては、転生特典とかチートだとかで妥協している。

「そういう所が、他の神官長に嫌われる原因なのよ?」

「……気をつけるよ」

 そう言ってアルザは窓から外へ飛び去った。

「ちょっと! 本題がまだ……」

 ザーリンの言葉が終わらぬうちに、アルザの姿は見えなくなっていた。

「あいつ、どんだけ魔力があればあんなスピードが出るのよ」

 それから数日、アルザが神殿に戻ることはなかった。

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