悪魔の国〔タデイロン〕

 真っ暗闇に、大きな三日月が浮かんでいる。

 悪魔アルザ・フォン・ジャヴァウォックは、こんな夜が一番好きだ。

「アルザ様」

 巨大な協会の屋根に座るアルザに、一人のサキュバスが声をかける。

「ケンリ国の悪魔から伝達です」

「……うん?」

 豊満な胸を肌が見える程露出した服装でも、アルザは見向きもせず、ただ月を眺めている。

「ケンリ国王子と王女の成人にあたり、王子が意味不明な言語を述べていた、と」

「……うん」

「更に王子はつい先日、帝国との国境付近に住まう地龍を討伐した、とのこと」

「……うん」

「あの、アルザ様」

「聞いてる。……それだけ?」

 依然として月を眺めるアルザに、サキュバスは呆れてしまった。

「アルザ様。確かにあなたはフォンの位を持ち、史上最年少で神官に選ばれましたが、やはり発生してまだ十七年しか経っていないのです。古代よりの悪魔からすれば、生意気極まりないのですよ」

「……それってただの負け惜しみ」

「アルザ様!」

 サキュバスはとうとう怒鳴りつけた。

「まったく、お姉様が甘やかすから……」

 そう呟いきながら、サキュバスは室内に入った。

「ケンリ国王子……、ヘンゼルくんねえ……」

 ニヤリと笑った口には、鋭い牙が生えている。白い髪は風にたなびき、傷のある頬が顕になる。

「やっぱ、今日ちゃんかな」

 アルザ・フォン・ジャヴァウォック。

 彼の前世での名前は、入鹿障二である。

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