再開

 地龍の四肢が切断され、討伐まであと少しというところだ。丁度銃弾がきれたらしい。

「王子様! こっからはあんたの見せ場っすよ!」

 少女の声に、ヘンゼルは直ぐには反応出来なかった。

「あ、ああ!」

 ワンテンポ遅れ、ヘンゼルは剣を握りしめる。

 そのまま地龍の首まで走った。

「喰らえ!」

 ヘンゼルが地龍の首を切り落とそうとする。

 その時だった。

「ぎょぅおおおぉっ!」

 地龍の声とともに、地龍の体が発光し始めた。その光はヘンゼルだけでなく、その場全員の目を眩ませた。

 目が回復し、全員が一度にそれを見た。

 あちこちから絶望の声が聞こえる。

「あああ」

「終わりだ……」

「いやだあああああ!」

 ヘンゼルも、目を疑った。

 ボロボロになっていたはずの地龍が、回復している。

 そして更に、地龍であるにも関わらず、それは空を飛んでいたのだ。

 ヘンゼルは今、山田今日の人生から数えて初めて、本気で諦めた気分だ。

 それはそうだ。分かっていた。伝説級のモンスターに、初陣で勝てるわけがないのだ。

 ヘンゼルはその場に膝をついた。

「俺は……ここまでか」

 感嘆かんたんを漏らした。

 しかし、後ろからヘンゼルの肩を叩いた者がいた。

「諦めるんすか?」

 それは、助太刀に来た少女だった。

「諦めていいんすか?」

 よく見ればドワーフの少女だ。

「もう戦えないんすか?」

 ヘンゼルはもう、言葉すら受け止められなくなった。

 と思いこんだ。

「あんた、そんなに諦める人じゃないでしょう!」

 この言葉には、ヘンゼルも反論したくなった。

「君に何がわかるって言うんだ!」

 それはヘンゼルがこの世界に生まれて、初めて怒りを込めた言葉だった。

「俺がどんな思いで今まで頑張って来たのか、それを知らない奴に処分されそうになるのがどんな気持ちか、君は知らないだろう!」

「知らねえよ!」

 ドワーフの少女の、怒鳴り声だ。

「あんたがどんな気持ちで今まで王子様やって来たとか、そんなんあんたの勝手だろ! 私の知った事じゃねえ!」

 少女はヘンゼルの胸ぐらを掴んだ。「でも、私はあんたが何者かちゃんと知ってんだ。テレビであんたを見た時に気づいたよ! あんたの真面目な噂聞いて確信したよ!」

 テレビで……。それはおそらく、三週間前の成人式のことだろう。

 それがこの少女に何が関係あるというのか。

『お前、今日ちゃんだろ』

 その言葉に、耳を疑った。

 日本語だ。

『俺は橋本らいとだ。なあ、山田今日だろ』

 橋本らいと……。それは小学校以来の付き合いをしている五人の中で、唯一話の合わない奴だった。

『お前……らいとって』

『十七年ぶりだな! 今日ちゃん』

 今日ちゃんというあだ名も、久しく聞いていなかった。

 まさか……だ。

『本当に、らいとなのか?』

『まじまじ。もしかして最初に再開したの俺? だとすればアンラッキーだな』

『お前、だってその姿、女』

『ああ、美少女転生だよ。今はミナカミ・レイナって名前だ。同人誌じゃありがちだけど、いざ自分がなってみると慣れるまで結構きついもんだ』

『どうしてここに?』

『お前を探しに来た』

『なんで』

『そりゃあ……。ああ! 質問は後だ! 今はやるべき事があんだろ!』

 らいと……レイナは空を指さす。

 そこには空飛ぶ地龍。

『お前なら殺れる』

『いや、無理だ。何を根拠にそんなことを言えるんだ』

『お前が間違いなく、主人公だからだ!』

 主人公。それもらいとの口から久しぶりに聞く言葉だ。

『いいか。異世界転生モノの主人公ってのはだいたい、チート能力を持ってんだ。最近は流行りじゃないけどな』

『流行り……?』

『お前だってそうだ。あのローブの男にここ連れてこられたんだから、チート能力あるに決まってる!』

『やっぱりお前もローブの』

『まず聞け!』

 あれ。前世と立場が逆な気がする。そこまで自分は冷静さを欠いているということか。

『チート能力持ってて努力までしたお前が、たまたまドラゴンに生まれただけの奴に負けるわけがねえ!』

『だが、そのチート能力とはどうやって使うんだ?』

『知らん』

 は?

『けど、お前ならできる。絶対だ。』

『意味がわからん。なんで言いきれるんだ』

『なんでって、決まってんだろ』

 らいとは、今はレイナの可愛らしい顔で、しかし悪意のある表情で笑ってみせた。

『お前が大っ嫌いだから、誰よりもお前を知ってるんだよ』

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