助太刀
正直、戦況は最悪だ。
騎士の七割を失い、残った戦力はヘンゼルと騎士団長、三班の班長と一般の騎士数名だけだ。
やはり、龍相手に初陣は無謀すぎたのだ。勢いも作戦もどうにもならない。
戦力不足だった。ヘンゼルはそうやって自分を責め立てる。そうしたところで龍が突然倒れてくれる訳でもないとは勿論分かっている。しかし、自己嫌悪に走っていた。
折角の異世界生活も、これで終わりか。
思えば異世界という言葉を聞いたのは、前世の友人であるらいとからだったか。
らいとはアニメ好きで、俺は興味が無いと言ってもひたすらアニメの話をしてきた。
鬱陶しかったが、今思えばそれも平和で幸せな日々だったのだろう。
あいつも、この世界に来ているのだろうか。
「ぎゅおおおおおおおおお!!!!!」
地龍の叫び声が響き渡る。
戦力の消耗が激しい。
ここまで、か。
ヘンゼルは構えていた剣を地面に突き立て、叫び続ける地龍をじっと睨んだ。
信仰の国の王子だ。最後くらい、神の加護とかなんかで、もう一度奇跡を起こせないのだろうか。
……無理だとは分かっていた。
ヘンゼルはもう、諦めてしまった。
地龍の叫び声の中に、地龍とは違う声が混ざる。どこか懐かしい、機械的な音だ。
『ギュルルルル!!!!』
ヘンゼルは閉じかけた目をカッと見開いた。
その目に写ったのは相も変わらず叫び続ける地龍。
そして、宙を舞う自衛隊の高機動車のような車。
そこから身を乗り出し、巨大なマシンガンを地龍に向かって構える、一人の少女だった。
少女はマシンガンを連射した。
硬い鱗は殆どの銃弾を跳ね返したが、腹部など柔らかい部分には見事銃弾がくい込んだ。
「ぎゅええええええええ!!!」
地龍が苦痛の叫びを上げる。
「野郎ども! 撃てええええええええ!」
少女の声に続いて、車内から休ませていた騎士が飛び降りる。その手に持つのは少女と同じく銃火器。地面に着陸したと同時に、地龍に向かって乱射し始めた。
地龍の住処となっている窪地に、車はガダンッと大きな音を立てて着陸した。
銃撃を受け、地龍はこれまで以上の消耗をみせた。
「よう。テレビで見た以来っすねえ、王子様」
車から降りた少女が銃を構えてヘンゼルの元へ歩み寄る。
「もう諦めてんすか? 私らのターンはこっからっすよ」
その眼には、地龍と戦う前の自分と同じ光が宿っていた。
「さあ! 撃って撃って撃ちまくれ!」
騎士と少女の撃つ銃弾は着実に地龍を弱体化させている。
これは、勝てるかもしれない。
その時のヘンゼルは、やはりまだ経験のない王子様だった。
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