討伐

 明朝みょうちょう日が昇ると同時にコプ村を出て、太陽が真上に来る頃にはドラゴンの住処付近に来ていた。


 もう数百メートルで到着するというところ。ヘンゼルは騎士達に向けて言い放った。

「皆聞け! これより我々はドラゴンの討伐を行う! 戦いであるからには勿論、危険が伴う。しかし! これは帝国との外交に関わる重要な戦いだ。命を捨てろとまでは言わないが、捨てる気で戦え!」

「「おおおおおおおお!!!!!」」

 騎士達の声が辺り一面に響き渡る。これでこちら側に勢いがついた。古風な戦法だが、元の力量が違いすぎるドラゴン、それも龍が相手では勢いで押し切る戦い方しかない。

 ドラゴンは耳がいい。今住処にいるのであれば、今の大声はドラゴンに聞こえているはずだ。それも、脳に直接響くレベルで。

 案の定ドラゴンは住処から体を出した。地龍の為飛ぶことは出来ないが、それでも巨大な体に数人の騎士はしり込みをしている。

 ドラゴンの姿を確認したヘンゼルは、再び大声で叫ぶ。

「行けぇぇえ!!!」

「「うぉぉおおおお!!!」」

 騎士達が一斉に地龍に向かっていく。

 勿論闇雲に走っている訳ではなく、ヘンゼルにはちゃんとした作戦があった。

「ギュウォオオオオオオオオオ!!!!」

 ドラゴンの声と共に、ヘンゼルも走り初めた。

 まず一班がドラゴンの右前脚を攻撃。地竜、地龍は四足歩行ながらも右利きという言い伝えを参考に、まずは弱点をつく算段である。

 勿論これだけではなく、そのうちに二班は尾を、三班は分担して両後脚を、四班は肉が柔らかく弱点も多い腹部を、五班は他の援護という分担だ。

 ……ヘンゼルにはこれが限界だった。

 初陣が龍討伐の指揮とはやはり荷が重く、最適策を見いだせないでいた。こればかりは鍛練や勉強ではなく、実践でこそ身につけるものだろう。

 そんな事をこの二週間、ヘンゼルは考えてきた。そしてふと、思ってしまったのだ。

 王は、父はこの部隊ごと自分を殺してしまいたいのでは? と。

 根拠が無いためそれ以上考えないようにしたが、この旅の中でヘンゼルはずっと不安に駆られていた。

 そして、今も。

 しかし、今は駄目だ。

 いよいよ戦いの本番である。余計なことを考えてはいけない。

「気を張れ、山田今日! 俺ならできる!」

 日本語でそう叫び、再びドラゴンを睨みつける。

 流石訓練された騎士だ。ヘンゼルの指令をしっかりとこなしている。殆ど駄作であるにも関わらず、騎士達はヘンゼルをこんなにも信頼しているのであった。

 ヘンゼルもすかさず一班の右脚攻撃に加わる。

「王子はトドメを刺す重要な役割があります! どうかお休みなさっていてください!」

「何を言っている! 皆が戦っているのに、俺だけ安全に休んで美味しいところだけ持っていくのは分が悪い!」

「しかし王子!」

「俺は今、王子ではなく一人の騎士として戦っている」

 それは、ヘンゼル自身が自分に言い聞かせた言葉でもある。

「俺は、皆の仲間として戦っている!」

 そう言い放ったと同時に振ったヘンゼルの剣が、地龍の右前脚を切断した。

 血しぶきが、辺り一面に飛び散る。

「王子! やりましたよ!」

「まだ喜ぶには早い! 次の作戦に移行だ」

 この後一班はバランスを崩して前傾姿勢となったドラゴンの頭を直接狙う。他の班は各部位を攻撃し続け、切断に成功次第頭に移る。

 そういう作戦だ。

 そういう作戦のはずだった。

 しまった、と直感した。

 ヘンゼルは勉強を、自己満足のためにしていたのだと悔いた。

 忘れていた。龍となったドラゴンの特性を。

 時間がやけにゆっくり進む。

 しかしヘンゼルは、その倍遅く動いているように感じた。

 ヘンゼルの叫びが声にならないうちの、一瞬の出来事だった。

 頭を攻撃しに行った一班の騎士が、ものの一瞬でただの肉塊に成り果てた。

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