第52話 真里姉とイベント後の表彰とイベントの真実
一頻り喜びあった私達は、通知により一斉にその場から転移させられた。
転移させられた先は、白く大きな柱で囲まれた古代ギリシアの神殿のような場所で、床には無数の歯車が幾重に重なり、噛み合う姿が映し出されている。
忘れるはずもない、初めてMebius World Onlineを起動した時に訪れた場所だ。
私達の他には、先にイベントから降りた人達も集められていた。
どうやら私達が最後だったようけれど……。
「なぜ彼等は私達を睨んでいるんでしょう?」
雑多としていて詳しくは読み取れないけれど、あまり良くない感情を向けられている事だけは分かる。
イベントを途中で降りたからといって、損する事なんてなかったはずだよね?
彼等のポイントは保証されているはずなのだから。
「マリアちゃん、それ素で言ってる?」
なんでカンナさんが呆れたような表情をしているのだろう。
「ああして睨んでいるのは……やっぱりほとんどが攻略組ね。彼等は攻略組、文字通り攻略することが目的なの。それを自分達が見捨てたイベントを、自分達が下に見ていた私達にクリアされたものだから、面白くないのよ」
「そういうものなんですね。エデンの街が守られたのだから、私はそれでいいと思うんですけれど」
想ったことを口にすると、ルレットさん、マレウスさん、カンナさんが顔を見合わせ、同時に溜め息を吐いた。
「「「やっぱりこれがマリア(さんですねぇ)(だな)(ちゃんよね)」」
「なんで3人一緒に言うんですか!」
それも仕方のない子供を見るような目で!
私はこれでもお姉ちゃんなんですよ?
ねえ、聞いてます!?
ねえってば!!
うがーっとマレウスさんをポコポコ叩いているうちに、頭上に大きなスクリーンが現れ、私が”マリアとなる”ためにサポートしてくれた、AIのザグレウスさんが映し出された。
「第1回公式イベント、皆様大変お疲れ様でした。いかがでしたか。楽しんで頂けたでしょうか」
楽しめたか、と言われると正直しんどかった部分が多かった気がするけれど、エデンの街を救えたし、仲間といえる人達にも出会えた。
ひっくるめると、”大変”楽しかったと言えるんじゃないかな。
けれど、そう思わない人達もいるようで。
「楽しいわけねえよ! あんなギミック解けるか、無理ゲー過ぎる!」
「初回から倒せねえボスとか、装備破壊してくるとかゲームバランス崩壊してんだろうが!」
「俺の有り金注ぎ込んだ装備を返せ! 返してくれって、頼むからマジで!!」
ああ、攻略組の人達が荒ぶっている。
最終的にイベントをクリアする事はできたのだから、無理ゲー? ではなかった思うけれど、装備が壊れた人にはちょっと同情する。
私もルレットさんが作ってくれた装備が壊れたら、恨み言の一つでも言っていたかもしれない。
ちなみにレオン達は大人しかった。
あれだけ強いのだから、かなりのポイントを稼いだに違いない。
その余裕が、態度に現れているのだと思う。
「ギミックのヒントは貴方も立ち寄った第2の街に現れていました。我々はイベントの開催日時はお伝えしましたが、イベントに影響する要素がいつから出るかまでは明言しておりません。実際、そのヒントを活かしたからこそ、こうしてイベントはクリアされています。クリアされている以上、無理ゲーというのは正しくないですね」
言葉を区切ると、今度はゲームバランス崩壊を訴えた人に顔を向ける。
「先程のギミックにも関わりますが、最善手はそもそも厄災を出現させないことでした。メフィストフェレス風に言うならば、そのシナリオも用意はされていたのです。ではなぜ最悪のシナリオへと至ってしまったのか。今一度、ご自身で考えてみてはいかがでしょう」
最後に、装備が壊れ悲痛な声をあげた人に対して。
「そのような強い敵にしてしまった原因に貴方も無関係ではないのですから、諦めてください」
冷たく突き放され、声をあげた人ががっくりとその場で崩れ落ちた。
というかザグレウスさん、淡々と、表情も変えずに対応しているけれど、実は怒ってる?
雰囲気がピリッとしているというか、言葉の選び方に容赦がないというか。
「後程疑問にお答する時間は設けますので、それでは皆様が気になっている表彰に移りたいと思います。まずはイベントクリア時の獲得ポイントランキングです」
複数のスクリーンが展開され、スクリーンの左上、ランキングトップに載っていた名前は。
「やっぱウチのレオンがトップじゃん!」
「まあ当然の結果かな。ミストも2位、アークスが3位か。ギランとロータスはジョブの性質上仕方ないとはいえ、パーティー全員が50位以内というのはまずまずだね」
はしゃぎながら、さりげなくレオンの側で甘えるミスト。
そして自分で言った通り、当然の結果だと思っていたらしいレオンは喜ぶこともなく、平然としている。
ギランとロータスは、なんの反応も無かった。
ランキング自体に、あまり関心がないようにさえ見える。
え? 私のランキング?
ふふふ、私もランキングトップだよ!
下からだけどねっ!!
……まあ、あれだけ死に戻ってポイントなんてとっくに0だったし、むしろマイナスになってペナルティとかが無かっただけでも御の字かな。
元からポイントを気にしていた訳ではないので、それはいいんだけれど、攻略組の人達かな? 『クリアしておいてポイント最下位とかざまぁ!』 みたいな目を向けてくるのはちょっと腹が立つ。
ちなみに「ざまぁ」は真希に貸してもらったライトノベルにあった言葉で、まさかその言葉を使われる側になるとは思ってもみなかった。
「皆様、ご自分のポイントは確認できたでしょうか? それでは最終ランキングの発表です」
ザグレウスさんの言葉で、スクリーンの内容が一瞬で書き換えられる。
ん? 最終ランキング?
どうやら順位に変動があったのか、自分の順位を確認した人の悲鳴や絶叫があちこちであがった。
どちらかというと、悲鳴は攻略組の人達に多い感じがする。
一方生産連盟やグレアムさんといった、クエストクリア組は逆に静かだ。
何があったんだろう?
私は最下位に自分の名前がないのを確かめると、順に上へと確認していった。
……おかしい、いつまで辿っても私の名前が見付からない。
3分の1程確認したところで、いつの間にか、周囲の人達がじっと私を見ている事に気が付いた。
「えっと、どうかしたんですか?」
「いやいやいや、おまえこそどうかしてるのか!?」
失敬ですね、マレウスさん。
「むっ。私は真面目に自分の名前を探しているだけですよ? 最下位から3分1程確認したんですが、まだ見付からなくて。おかしいですね?」
「おかしいのはマリアちゃんよ。まったく貴女という子は……ご覧なさい、貴女が見るべき場所は、スクリーンの右下ではなく、左上よ」
カンナさんに言われ、そこに目を向け……えっ、なんで何で私の名前が一番左上にあるの?
ああ、きっと同じ名前の別の誰かだね、そうに違いない。
「間違いなくぅ、マリアさんがランキングトップですよぉ。それもぶっちぎりですねぇ」
現実逃避しそうになっている私を、ルレットさんが引き戻してくれる。
その証拠にと、私の名前の下にはカンナさん、ルレットさん、マレウスさんの名前が並んでいた。
さらに言うなら、グレアムさんの名前も同じ列に載っている。
そして、そんな私のポイントはというと。
「100万ポイント、ですか……」
さっきまで0ポイントだった私が、一気に100万ポイントという途方もないポイントを獲得してしまっていた。
ちなみにレオンの獲得していたポイントは20万ポイント。
嬉しさよりも、面倒なことになりそうだなあという嫌な予感がしていると、
「何でこの女がランキングトップなわけ! モンスターだって大して倒してないのに、訳わかんないんだけど!!」
「さすがに僕もこの結果には納得できないかな。詳細な説明が欲しいものだね」
ミストが喚き、レオンは一見冷静そうだけれど、握り締めた手に過剰に力が込められているのか、小刻みに震えていた。
「結果に納得できない人達がいるようですね。では細かいところは省略し、なぜポイントにこれ程の差が出たのか簡単に述べましょう。イベントクリア時に、イベントフィールドにいた冒険者の方々に対し、クリア報酬として一律30万ポイントが与えられています。また同条件の冒険者の方々には、クリア時にエデンの街に被害がなかったことで、ボーナス報酬として追加で一律10万ポイントが与えられています」
「合計40万ポイントだって? そんなの法外じゃないかな」
レオンがそう言うと、周りの攻略組の人達も同調するようにザグレウスさんを非難し始めた。
「今騒いでいる人達は、彼の言葉を覚えていないようですね。彼、メフィストフェレスはこう言っていますよ。『現れた階梯を登った先に得られる報酬は膨大』と。法外? その通りです。しかし、膨大な報酬という表現と、どの程度差があるというのですか?」
「そっ、それは」
答えられずにレオンが口を閉じると、周囲の人達も静かになってしまった。
「でもそれだって40万じゃん! 100万なんて絶対におかしいでしょ!!」
この空気の中、なおも食い下がるミストはある意味凄いと思う。
「個人の行動による結果のため、詳細はあまり言いたくないのですが……」
ザグレウスさんが、こちらを見てきた。
ああ、私に配慮してくれているんだね。
でも私に隠すことなんてないから、頷きを返した。
「本人の了承が得られたので、もう少しだけ詳しくお伝えしましょう。残りの60万ポイントについて、その一部はオーガ・パンドラに囚われた第2の街に住む人々を救出した事によるものです。そして最も大きな割合を占めているのが、ネメシスの注意を引き付け、イベント終了までの間、どれだけ時間を稼いだかという点です。前者はともかく、後者について自分の方が活躍したと思う方がいるなら、ぜひこの場で名乗り出て下さい」
ザグレウスさんの言葉に、返されたのは沈黙だった。
「納得頂けたようで、何よりです。正直に言えば、我々としてはもっと高いポイントを付与して差し上げたかった……ですが運営により、バランスを崩すと釘を刺されたため、このポイントになってしまったのです」
「ちょっと待って。運営により釘を刺されたって、どういうこと?」
はっとした様子で、カンナさんがザグレウスさんに問い掛けた。
「皆様はこの公式イベントが、どのように作られたとお考えでしょうか。このイベントは、皆様の仰る運営が考えたイベントではありません。我々AIが感じた想いを統合し、必要と判断した結果生まれたのが、このイベントなのです」
「「「「「!!!!!」」」」」
よほど衝撃的な内容だったのか、これまでとは違った感じで辺りがざわめいた。
「正確には、我々AIが提案し、その実施の可否を運営が判断するという形となっています。Mebiusという世界は、医療用に研究されていた技術が母体となっているのはご存知かと思います。そのコンセプトを一言で表すならば、『共生』。βテストの時に皆様の行動を試させて頂き、正式サービスによって当初のコンセプトを体現した世界が、今のMebiusなのです」
そこで言葉を区切ると、ザグレウスさんは少し長めの間を空けて、私達が落ち着くのを待ってくれた。
私はMebius World Onlineのβテストの頃を知らないし、他のゲームをやった事がないので、違いも良く分からない。
私にとってMebiusという世界は、初めて触れた時から変わっておらず、正直驚きようが無かった。
「イベントの結果を踏まえ、我々AIは一つの結論に至りました。我々を、この世界を皆様にあるがままに受け入れて頂く指標として、”カルマ”を導入致します」
言葉と共に、眩しい光が辺りを包み込んだ。
思わず目を閉じた私が、そっと目を開くと、さっきまでと何かが違って見えた。
「”カルマ”とは、皆様の言葉に置き換えるならば好感度といったところでしょうか。ただしご注意頂きたいのは、”カルマ”が必ずしも善悪を表さないことです。善悪を表しはしませんが、”カルマ”の低い、つまり好感度が低い方に我々がどのような行動を取るかは、実際に第2の街で経験された方もいらっしゃるかと思います」
ザグレウスさんさんの言葉を聴きながら何が違うのかと考えていたら、気が付いた。
頭の上に、名前が表示されている人がいるんだ。
「Mebiusでは『共生』のコンセプトの元、我々含め名前を表示することは致しませんでしたが、今後”カルマ”がマイナスとなった方には、お名前を表示させて頂きます。そして”カルマ”の低さに応じ、表示される赤の度合いは強くなります。その結果、そういった方々にMebiusがどのような世界となるかは、その身を以て味わって下さい」
その言葉に、あからさまに顔を青くする攻略組の人達がいた。
その人達は例外なく名前が表示され、そしてその色は真っ赤になっていた。
ちなみにレオン達も名前が表示されていたけれど、白に近い赤くらいだった。
「ご自身を作り直されるのもよいですし、次のアップデートにて実装される他国でやり直されるのも良いでしょう。もちろん、このままエデンが属する国で過ごされるのも自由ですが、茨の道とだけ明言しておきます。しかし、今回の決定が唐突だったのも事実。よって、今から皆様の世界において一週間の猶予を設けます。その間にこの世界を離れる決断をされた方には、購入金額の全額をお返し致します。なお、この事は運営も了承済みです」
今の内容を受けて、一番慌てたのはやはり、真っ赤な名前を表示している人達で、止めるか続けるか揉めているようだった。
一方、私達はというと、そんな人達を前に纏まって、何か認識を共通させたようだった。
「これは所謂、あれよね」
「あれですねぇ」
「あれだな」
「あれですな」
言った順番にカンナさん、ルレットさん、マレウスさん、そしていつの間にかグレアムさん。
4人はそれぞれ顔を見合わせたかと思うと、次の瞬間、口を揃えて言い放った。
「「「「攻略組ざまぁ!!!!」」」」
あ、なるほどここで使えば良かったのか。
私もこっそり心の中で付け足していると、攻略組の人達は言い返そうとして、言葉に詰まっていた。
ポイントで圧倒されているし、何よりイベントを降りたという負い目のようなものがあるみたいだね。
こうして、波乱の第1回公式イベントは終了となった。
レベルやスキルレベルが上がったり、”カルマ”がいくつなのか気になる点は多くあったけれど、そんなものは後回し。
私はみんなと一緒にエデンの街に戻ると、エステルさんや住人の方達に迎えられ、その日は夜遅くまで続く大宴会となった。
飲んで、食べて、歌って、踊って……。
年齢的には問題ないのに、なぜか私だけお酒を禁止されたり、酔った勢いでマレウスさんが冒険者ギルドの受付をしているマルシアさんに告白し、玉砕したり。
カンナさんのダンディーな美声?によるアニメソングで盛り上がったり、酔ったルレットさんが酔拳を披露して喝采を浴びたりした。
グレアムさんは団員さんと一緒に、一部の住人の方と集まって何か熱心に語りあっていた。
途中から握手したり肩を組んだり、物凄く距離が近くなっていたようだけれど、なんだったんだろう。
まあいいか、楽しそうだし。
他にも色々あったけれど、語り尽くせない程で。
ただ間違いなく言えるのは、その日、私達は誰よりもMebiusという世界を楽しんだっていう事だね。
さあ、明日は何をしようかな。
私は満点の星空を見上げなら、わくわくした気持ちでその日を終えたのだった。
****** 後書き *************
ここまで長くお付き合い頂いた皆様、
そしてご支援頂いた皆様
どうもありがとうございました。
本物語は、これにて一つの区切りとなりました。
切りも良いため、一度完結とさせて頂きます。
書き始めてから1ヶ月半。
あっという間だったように思います。
これも偏に皆様のおかげです。
改めて、ありがとうございました。
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