第49話 真里姉と第1回公式イベント(支える手)


「マリアさん! マリアさんっ!!」


 悲痛な声音になっていても、私への思い遣りが伝わってくる。

 

 分かるよ、エステルさんだね。


「しっかりしろよマリア!」


 この喧しい感じは子供達の年長者、ヴァンかな。


「「「マリア(ねえちゃん)(おねえちゃん)!!!」」」


 覚えているよ、一緒にご飯を食べて掃除もした、教会の子供達。


 ……暖かい、はずだ。


 みんなの手が、私の体を支えてくれていた。


 その掌から、体温だけでなく、まるで優しい気持ちまで流れ込んでくるよう。


 …………そうだね、私はまだ、倒れている場合じゃないよね。


 起き上がろうと手足に力を込めようとしたら、ぐっと強く背中を押され、支えられた。


 この弾力と力強さは、クーガーかな。


 たぶん鼻先で押してくれているんだね。


 ちょっと冷たくて、湿っている感じがする。


 肩に乗るこの重さは、ネロしかいないね。


 頬を舐めてくれてありがとう。


 でも舌がざらっとして、ちょっと痛いよ。


 ルレットさん、再現度がおかしいと思うんだ。


 心の中でルレットさんにツッコミを入れていると、私は口を開けられ、とろりとした温かい何かを入れられた。


 粘性があったので最初はお粥かと思ったけれど、それよりも固形感がないこの舌触りは、お粥をさらに濾した重湯?


 噛む必要もないくらい丁寧に濾されたそれを、私は喉から胃へと、落ちるに任せ嚥下した。


 ほんのり香る麦の香りに、蜂蜜の甘さと擦り下ろしたショウガの風味。


 それを牛乳が優しくまとめ、隠し味の塩気が全体を引き締めている。


 胃に落ちた重湯が体を中から温めてくれて、労りに満ちた美味しさが疲れを癒してくれる。


 こんな料理を作ってくれるのは、バネッサさんしかいないね。


 気力が回復し、目をしっかり開くことができるようになると、私が思い描いていた人達が、私が思っていなかった表情で、そこにいた。


 みんな、ずるいよ。


 みんなに泣かれたら、私は泣くに泣けないじゃない。


 私は俯き垂れた前髪で表情を隠し、自分の足で、立ち上がった。


 ……うん、立ち上がれるんだよね。


 現実ではまだ難しい事も、今の私には、出来る。


 立ち上がれたなら、あとは進むだけだ。


 ここに、こんなにも守りたいと思える人達がいて、私には守れる術があるのだから。



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