第41話 真里姉と第1回公式イベント(混沌)


 これまでとは一線を画すモンスターの出現に、抵抗を試みる人、逃げ惑う人、その場で立ち尽くす人が入り混じり、辺りは大混乱となった。


 ちなみに抵抗を試みた人の多くが、さっきの人達と同じ末路を辿っている。


 そんな中、攻略組と呼ばれる強い人達は、オーガ達から慎重に距離を取っていた。


 味方ではないかもしれないけれど、同じ冒険者が倒され、混乱している様子に、手助けするどころか一切の興味を示す事なく、ただ、モンスターの動きを観察していた。


 私はこの時初めて、攻略組という人達の価値観がどこにあるのかを知った気がした。


 って、今はそれどころじゃないか。


 ルレットさんの様子を伺うと、落ち着いたみたいだけれど体に力が入らないのか、私に体重を預けきっていた。


「ルレットさん、一度マレウスさん達に合流しに行きますね?」


「…はいぃ…おねがいぃ…しますぅ……」


 途切れ途切れで口調も弱々しいけれど、意識はしっかりしているみたい。


「と、その前に」

 

 私はルレットさんの許可を得てぐるぐる眼鏡を取り出すと、緋色の瞳を隠すようにかけてあげた。


 うん、私はやっぱりいつものルレットさんが好きだね。


 私はクーガーによじ登ると、【操糸】で鞍を作りルレットさんを乗せ、私の後ろに着いてもらった。

 

 念のためネロはルレットさんの肩に。


 そしてもう1本自由に操れる糸で私とルレットさんの体をぐるっと巻き、落ちないようしっかり固定する。


 よし、これで準備は整った!



 けれど……。



 周囲は、依然として混乱が続いていた。


 おかげで私達に注目する人は多くないし、オーガ達の注意も分散している。

 

 クーガーの速度があればその隙間を縫って駆け抜けることは、きっと難しくない。



 でも、ね。



「……ごめんネロ、クーガー」

 

 私が2人をそっと撫でると、全てを察したように力強く応えてくれた。


「ニャッ!」


「グオゥッ!」


 その頼もしい鳴き声に背中を押してもらえた気がして、私は思わず涙が零れた。


 真人と真希といい、ネロとクーガーといい、私は本当に家族に恵まれているね。


 涙を拭って、私はこれまで生きてきた中で一番の大声を張り上げた。


「これからオーガ達の間を強行突破します!! ついてきたい人は後ろへ、余力のある人はダメージを負った人を支えてあげて下さい!!!」


 私はしっかり前を向くと、ほんの少しだけ視界の通った瞬間を見逃さず、クーガーに風哮を展開させた。


「クーガーッ!!」


「グオオオオオオオオゥッ!!!」


 大気が震えるほどの大音声にネロが発動した【クラウン】が重なり、オーガ達の刺すような敵意が私達に集中する。


 それだけの敵意に微塵も臆する事なく、クーガーは大地に突き立てた【魔鋼】の爪に力を込めて、爆発的に加速した。


 視界の通った空間を、クーガーの大きな体が疾走する。


 引き付けられたオーガ達が立ち塞がるけれど、風哮を纏った今のクーガーはそれ自体が凶器だ。


「突っ込めクーガー!」


「グオオゥッ!」


 オーガの剣を風哮で防ぎながら、姿勢を低くしてぶち当たり、風の勢いも借りて吹っ飛ばす。


 よし、オーガにもちゃんと通用するよ!


 私は密かにほっとしながら後ろを見れば、呆気に取られていた冒険者達が、はっとした様子でついてくる様子がちらりと見えた。


 クーガーに全力で走ってもらい、私は風哮が解けると展開し直し、正面外からの攻撃はネロが飛びかかり猫パンチで牽制してくれた。


 走り続けた時間は、数秒なのか数分なのか……。


 時間の感覚を忘れて突き進んだ私達は、固まって後退しているマレウスさん達の姿をようやく捉えた。


 と、安堵しかけた私に猛烈な気持ち悪さが襲ってきたかと思ったら、クーガーも突如動きを止め、勢いに押されるまま地面を転がった。


 衝撃で地面に投げ出された私は、状況が理解できずにいた。


 攻撃も受けていなかったはずなのに、どうして……。


 けれど、答えはあまりにも簡単だった。


「なっ」


 私のMPゲージが、0になっていた。


 【操糸】も【供儡】もどちらもジョブスキル。


 つまりMPを消費する。


 加えて私はMP消費の大きい風哮を何度も使っていた。


 投げ出された衝撃によるものか、MPが0になった影響なのか、遠のく意識の中で、迫り来るオーガ達の足音が聴こえていた。。。

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