第33話 真里姉とイベントの考察
私の新しい相棒の名前がクーガーに決まり、乗ることにも成功した後。
せっかくなので、私達はイベント前日の情報交換をすることになった。
「そういえば以前ルレット経由でお前から伝えられた、黒い包帯仮面についてだが、第2の街周辺で他のプレイヤーからも目撃情報が出てるぞ。掲示板の様子だと、その目撃頻度はイベントが近付くにつれ増えてるみてえだ」
マレウスさんの言葉に、私は嫌な予感が当たったと思った。
あの言い方だと他にも住人の方を狙っていても不思議じゃないし、その目撃例が増えたということは、住人の方が何かをされた可能性が高い。
黒い包帯仮面、長いので黒仮面と略すけれど、黒仮面に遭遇してから次にログインした際、エステルさんには私が見聞きした事を伝え、注意するよう促してはいる。
今のところエステルさんや子供達、そして知り合った住人の方に影響はないようだけれど、黒仮面の口からエデンという名前が出ているからね、油断はできない。
「黒仮面が現れてから、第2の街の様子はどうですか?」
「黒仮面とは言い得て妙かもしれませんねぇ。私が住人の方に聞いたところぉ、その黒仮面が現れると住人の方がいなくるという噂でしたよぉ。こちらもいなくなる頻度は上がっているようですねぇ」
いなくなるって……それじゃもし、私がライルと出会ってなければライルもいなくなっていた可能性が?
それがもしエステルさん達に及んだとしたら……。
ぞくりと、冷たい恐怖に体が強張った。
「きな臭くなってきたわね。これだけ明からさまに動かれると、イベント絡みなのは確定として、それがどんな意図を持つかよね」
「どんな意図、ですか?」
「そうよ。例えば、最初は警戒して企んでいたのに対策がザルで、大胆な行動に移るようになった。目的のために、より効率を求めたって意図があると解釈できなくもないでしょう?」
「現状にも合っていますし、そうですね」
「でも、マリアちゃんから聞いた黒仮面に対するワタシの印象だと、それではちょっとズレるのよね。どちらかというと、目的はもう達成していて、実は遊んでいるんじゃないかって思うの。意図は、ワタシ達をおちょくって楽しむためとか、ね」
「おちょくる、ですか」
慇懃無礼な態度を思い出し、思わず納得してしまった。
あの黒仮面ならやりかねない。
「しかしもうイベント前日だ。いずれにしろ、どうにもならんだろ」
「まあね。ワタシ達にできることといえば……そういえばマリアちゃん、パーティー戦ってしたことある?」
パーティー戦って、こうして他の人と一緒に協力して戦うことだよね。
誰かと一緒に戦った記憶は……うん、ないね。
いや、私にはネロがいたからね?
実際はパーティー戦をしていたといっても、過言ではないと思うんだ。
「ネロとなら…」
「つまり”他の人”と戦ったことはないのね」
ぐっ、何もバッサリ言い切らなくてもいいじゃないですかカンナさん!
「それなら当日ワタシ達はパーティーを組むのだし、連携を確かめるのもありじゃないかしら」
「連携つっても、俺もカンナも生産メインで、そんなPS高くないだろ」
PS?
疑問に思っていると、それが顔に出ていたのかルレットさんが説明してくれた。
「PSはプレイヤースキルの略ですよぉ。スキルやステータスの強さとは別のぉ、知識・判断力・体の使い方といったぁ、いわばその人のセンスを指す言葉ですねぇ。もっとも、私はPSの要素は他にもあると思ってますけれどぉ」
なるほど、前者の3つは分かりやすいけれど、他ってなんだろうな。
「あれ、それならルレットさんは?」
「ルレットはPS以前の問題だ。そもそも連携できた試しがねえ」
「失礼ですねぇ、私だってパーティー戦くらいできるようになったぁ……夢を見たことがありますねぇ」
「夢かよ! 少しはマシになったとか言ってくれ頼むから!!」
マレウスさんの若干泣きが入った声に、一緒に苦労したのかカンナさんがホロリと泣いていた。
まあ、あれだね。
私1人が不慣れじゃなさそうで、良かったかな?
結局、パーティーでの連携は出たとこ勝負となった。
ただ、情報としてマレウスさんのジョブが騎士の上位職で、守りに秀でた重装騎士。
カンナさんのジョブが聖職者の上位職で、回復や状態異常を治癒する司祭だと教えてもらった。
ルレットさんのジョブは、どこか言い難そうにしていたので尋ねなかった。
フレンドだから見ようと思えば見れるらしいけれど、ルレットさんの意思を蔑ろにしそうだから見ていない。
私は空気を変えるように、気になっていたことを相談してみることにした。
「ネロは魔石の属性を継いで雷を扱えるんですけれど、それならクーガーも同じことができるんじゃないかって思うんです」
「無くねえな。試してみたらどうだ? 今なら周りに誰もいねえし」
「そうですね……何が起こるかわからないので、少し離れていてください」
私はクーガーと一緒に3人から距離を取り、クーガーにお願いした。
「クーガー!」
「グオオゥッ!」
咆哮と共に生み出されたのは、目の前で激しい勢いで渦巻く風の……盾?
むむ、発動したらMPが1割近くもっていかれている。
現実では風単体を視認することは難しいけれど、MWOでは緑色をしており、はっきりと見ることができた。
風の盾はその場で安定しており、暴発とか、周囲を吹き飛ばすような様子はない。
それを確認して3人が近付いてくる。
「また凄え技が飛び出してきたな。見たところ防御系っぽいが…」
言いながら風の盾に触れたマレウスさんが、次の瞬間、竜巻を食らったかのように切り揉みしながら遠くへ弾き飛ばされた。
「「「……」」」
全員、絶句。
クーガーだけは得意げに、俺の技は凄いだろうとその大きな胸を張っているように見える。
マレウスさん、生きてるかなあ? 20mくらい飛んだように見えたけど。
「ひとまず迎えにいきましょうか」
私はクーガーに乗せてもらい向かおうとすると、羨ましそうに見つめるルレットさんとカンナさんの姿があった。
白熊乗って移動なんて、できるならしてみたいもんね。
自分が生んだ子ならなおさら。
でも2人は【ライド】持ってなかったと思うし……そうだ!
私は【纏操】で使っている糸を5本から4本に減らしてみた。
クーガーに変化はない。
次、4本から3本、こちらも変化なし。
しかし3本から2本に変えた瞬間、クーガーが動かなくなってしまった。
私の【纏操】のスキルレベルだと、まだ3本扱わないとクーガーを生かせないんだね。
けどそれなら2本糸が余るわけで。
私は【操糸】で糸を鞍状に編んでみた。
拙さは目立つけれど、ちゃんと鞍っぽく見える物が2つ出来上がる。
それをクーガーの背中に乗せる。
さて、上手くいくかな?
「ルレットさん、カンナさん。よければこの鞍もどきに乗ってみてくれませんか?」
「ワタシ達は【ライド】を持っていないわよ?」
「ですね。でも、椅子とかには座れますよね? これは私が作った椅子と同じ扱いになると思うんです。装備品ってわけでもないですし。その上に乗ったとして、クーガーに乗ったことにはならないんじゃないかなって。強引な解釈ですけれど」
ルレットさんとカンナさんは顔を見合わせ少し悩んだようだったけれど、好奇心が勝ったようだった。
2人を背中に乗せ、先頭に私が座りクーガーに指示をだす。
「クーガー!」
「グオッ!」
短い返事をして、クーガーは走り出した。そして、問題なく後ろの2人も乗れている。
「これは、思った以上に凄いわね! やばいわ、テンション上がる!」
「本当ですねぇ。高い目線とこの疾走感は癖になりそうですよぉ」
成功して、そして喜んでもらえて良かった。
でもマレウスさんが飛ばされた所まではそんなに遠くないから一瞬なんだけれどね。
着いて、マレウスさんを介抱しようとしたら。
「マレウスなんてどうでもいいわ! もっと走らせてマリアちゃん!!」
「私からもおねがいしますぅ! マレウスはモンスターに食べられても構いませんからぁ!!」
でも怪我人を放置していくのもどうかと……。
そう思っていたら、カンナさんがマレウスさんにヒールをかけて、ルレットさんがダメ押しにHP回復ポーションを投げつけていた。
これで問題ないと、そうですか。
キラキラした眼×2に押し切られ、私はクーガーを発進させた。
ごめんなさいマレウスさん、後でジャーキーあげるので許してくださいね。
こうして3人を乗せたクーガーは、平原を思う存分駆け抜け、2人共大いに満足したのだった。
ちなみにマレウスさんは放置されたこと、というより自分だけ乗れなかったことを遠回しに怒っていたけれど、ジャーキーを渡したらぴたりと止まった。
「おっ、お前はまたとんでもない物作りやがって!!」
えっ、お詫びで渡したのにそれで怒られるって理不尽じゃないかな。
そこから私は、なぜかカンナさんとルレットさんにも拘束され、料理スキルの現状を洗い浚い吐かされることになったのだった。
(マリア:マリオネーターLv20)
STR 1
VIT 5
AGI 8
DEX 80
INT 5
MID 23
(スキル:スキルポイント+24)
【操糸】Lv18
【供儡】Lv10
【クラウン】Lv13
【纏操】Lv1
【捕縛】Lv7
【料理(中級)】Lv2
【下拵え(中級)】Lv1
【促進】Lv8
【暗視】Lv5
【瞑想】Lv8
【視覚強化】Lv5
【聴覚強化】Lv6
【ライド】Lv1 →Lv3
(供儡対象)
ネロ(猫のぬいぐるみ)
クーガー(白熊のぬいぐるみ?)
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