第31話 真里姉と新たな相棒
あれから数日が経ち、イベントはもう明日に迫っていた。
私はレベルを上げつつ、教会に行ってエステルさんと子供達と過ごし、時々バネッサさんに拉致されていた。
……最後のはほんと、もう勘弁して欲しい。
私はある約束のために、現実の午後9時ぴったりにMWOにログインし、エデンの街の西にある”始まりの平原”に来ていた。
その約束とは、ある成果を確認するためのものだ。
待ち合わせ場所には、既に3人が待っていた。
「こんにちは。すいません、待たせてしまって」
「マリアさんこんにちわぁ。いいんですよぉ、私達が楽しみで早く来過ぎただけですからぁ」
私の中でトレードマークになっているぐるぐる眼鏡を身に付けたルレットさんが、安定のおっとりした声で返してくれる。
「こんにちはマリアちゃん。ルレットちゃんの言う通りよ。正直、生産していてこんなに夢中になったのは久しぶりだわ!」
カンナさんは相変わらず完全に女性な見た目と、ダンディーなベテラン声優さんが演技で出す、高い声音とのギャップが激しい。
木工を得意としているのは知っているけれど、実は現実の本業は声優です、と言われても私は驚かないと思う。
「そんなことよりさっさと試そうぜ。こっちはイベント前で、まだまだやること溜まってんだ」
いつものぶっきらぼうな態度で言っているけれど、この中で誰よりもソワソワしているのはマレウスさんだったりする。
指摘するとめんど……じゃなかった、ムキになって否定してきそうだから口にはしない。
あれ、訂正した意味があまりない? まあいいよね、心の声だし。
「そんなせっかちだと、冒険者ギルドで受付しているマルシアちゃんに嫌われるわよ?」
せっかく心の声に留めたのに、カンナさんあなたという人は。
「おまっ、だからなんで知ってるんだよ! いや、ってかそんなことねえし!!」
お決まりの流れになりかけたのを止めてくれたのはルレットさん。
「はいは〜い、そこまでですよぉ。では出しますからねぇ?」
それを聞いて、2人仲良く静かになった。
私も固唾を飲んでその瞬間を待つ。
「ではいきま〜す」
ルレットさんの指がすっと動いた、直後。
私達の前に現れたのは体長3mはあろうかという、白熊だった。
「凄い、映像で見た白熊が目の前にいる!」
「骨格を作ったのはワタシだから、大きいのは予想していたけど、これは予想以上ね」
「ああ、それにこのリアルさ。ルレット、お前どんだけ手間かけやがった」
「1日のログイン時間の大半をこの子に費やしましたねぇ」
「とんでもねえな。ってことはその間プレイヤーの依頼は一切受けなかったんだろう? 裁縫連盟の奴ら泣いてたんじゃねえか」
「構いませんよぉ、私が対応しなければいけない依頼ならぁ、面倒な方達からのものがほとんどでしょうからぁ」
「それはまあ、確かにな……で、マリア。肝心のお前の準備は大丈夫なんだろうな?」
「はい、ちゃんと覚えてきましたよ、”死にスキル”。”使えないスキル”って意味の他に、”死にながら覚えるスキル”って意味もあったとは知りませんでしたけれど」
私が特訓と称して覚えたスキル。
それは【ライド】。
覚えるためには、住人の方が指定する馬を一定時間乗り熟す必要があるのだけれど、これがとんだ暴れ馬で、私は何度も何度も振り落とされた。
しかも落下によってHPが減り、落ち方が悪いと即死するという心憎い設定がされていた。
死んだ数は、数十回を超えてから数えるのを止めた。
おかげで装備の耐久値が減り、何度もルレットさんに直してもらう羽目になったのだけれど、耐久値のない初心者セットに替えてからやれば良いんだと気付いた時には、もうスキルを覚えていた。
そんなやりきれない思いがたくさん詰まったのが、【ライド】という、モノに乗ることが出来るスキル。
ただし、現状では乗れるモノが存在しないため”死にスキル”、良くて”ロマンスキル”と呼ばれていた。
このスキルの存在を知り私が提案したのが、”乗れるモノが存在しないなら作ってしまえばいい”というもの。
そこに生産連盟の長3人の興味と情熱が加わった結果、出来上がったのがこの白熊だ。
なぜ白熊かというと、強くて表情が可愛いから。
あと昔の洋画で、女の子が白熊に乗る映画があったというのも決め手になったかな?
実はパンダも候補に挙がったのだけれど、素早く走れた場合、みんなの持っているイメージとの乖離が激しいという理由から断念された、残念。
「ではまず、この子を動かしてみますね」
1本の糸を【操糸】で伸ばし、【供儡】を発動する。
『対象と連携するためには、糸から伝わる思念強度が足りません』
あれ?
白熊はピクリとも動かない。
通知には糸の思念強度が足りないってあるけれど、思念強度って何!?
相変わらず説明が足りてないと思うよこの文章作った人!
ふぅ……落ち着こう、足りないってことは増やせばなんとかなるんじゃないかな。
良く考えてみれば、ネロとは大きさが全く違うのだし、大きな子を操るならそれだけ糸が必要になっても不思議じゃない。
今度は糸2本で試してみるけれど、結果は変わらず。
さらに糸を増やしてみるも、今の私が同時に出せる限界の5本でやっても、動く気配はなかった。
通知の内容も変わらない。
どうしよう……。
まずい、焦る。
そして私の様子がおかしい事を察して、3人も怪訝な表情をしている。
みんなで頑張ってきて、”オチ”がまさかの私が動かせませんでした! ではいくら謝っても謝りきれないよ!!
何か解決してくれるものはないかと探していって、ようやくそれを見つけた時、私はこっそり歓喜した。
【纏操】
複数の糸を纏め、対象へ伝える思念強度を強化する。
纏める糸が多いほど思念強度は強化され、
スキルベルによって思念強度は強化される。
こ・れ・だ!
クラスチェンジの時に見た気がするけれど、より自然に動くようになったネロに気を取られて忘れていたよ。
『【纏操】を取得しました』
取得ポイントを確認するまでも無く取得取得!
5本の糸を全部使って、改めて【操糸】からの【供儡】を発動すると、ようやく動いてくれた!!
緑色の瞳に光が宿り、その大きな体で身震いを一つすると、
「グオオォッ!」
ビリビリと周囲が振動する程の咆哮を放った。
3人共ビックリ。
私もビックリ。
ついでに近くで草を食べていたホーンラビットもビックリ。
付け加えると、ホーンラビットはビックリし過ぎたのか泡を吹いて倒れてしまっている。
「ネロちゃんを見た時も驚いたけど、本当に凄いわね。まるで生きているかのようだわ」
「ですよねぇ、ああもぅ、感動し過ぎておかしくなりそうですよぉ」
カンナさんとルレットさんの意見に全力で同意だよ。
あれからスキルレベルも上がっているせいか、”生きているかのよう”という表現では足りないくらい。
3人の技の高さもあって、もうね、これは”生きている”と言っていいと思う。
「……」
やけに静かだと思ったら、マレウスさんは呆然としていた。
その眼から、つーっと滴が。
あれ、泣いている?
「ばっ、俺は泣いてねえ!」
「何も言っていないでしょう? 自爆しなくていいわよ」
素直じゃないマレウスさんだけれど、実は激情家なのかもしれない。
「マレウスは放っておいてぇ、マリアさん早く乗ってみてくださいよぉ」
珍しく落ち着かない様子のルレットさんの言葉に頷いて、私が糸越しに意思を伝えると、大きな体を伏せ乗りやすい姿勢になってくれた。
近付いて、もふもふの背中によじ登る。
私が腰を落ち着けると、見計らったかのように起き上がり、目線がぐっと高くなった。
「うわぁ!」
夢にも思っていなかったことが、本当に叶ったよ!!
新鮮な視界を堪能した後、私が走り出すよう伝えると、再び咆哮を発し、その大きな体は平原を駆け出した。
(マリア:マリオネーターLv16→Lv20)
STR 1
VIT 4 →5
AGI 6 →8
DEX 67 →80
INT 4 →5
MID 18 →23
(スキル:スキルポイント+19→+24)
【操糸】Lv15 →Lv18
【供儡】Lv7 →Lv10
【クラウン】Lv10 →Lv13
【纏操】Lv1
【捕縛】Lv5 →Lv7
【料理(中級)】Lv1 →【料理(中級)】Lv2
【下拵え】Lv8 →【下拵え(中級)】Lv1
【促進】Lv6 →Lv8
【暗視】Lv3 →Lv5
【瞑想】Lv3 →Lv8
【視覚強化】Lv2 →Lv5
【聴覚強化】Lv2 →Lv5
【ライド】Lv1
(供儡対象)
ネロ(猫のぬいぐるみ)
??(白熊のぬいぐるみ?)
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