第7話 別れと出会い
数日後の放課後、泉と三輪は塚地に呼ばれリペルにいた。
「この組織を解体することが決まった」
『えっ!?』
二人は同時に言う。
「あの悪霊を倒したことで、悪霊の反応が消えた。だから、私たちの存在は意味をなさなくなったんだ」
「えっ、じゃあコユキはどうなるんですか」
「彼女に関しては、永久凍結になる予定だ」
「……そんな」
「なんとかなりませんか!?」
「三輪……」
「泉君、彼女との最後に今日の夜屋上に行くと良い。私から校長先生に言っておいたから」
「校長先生とお知り合いなんですか?」
「じゃなかったらこんなところに基地置いてないよ三輪君」
「そう、ですよね。あはは。ごめんなさい」
「とにかく。彼女とはさよならだ。今日はもう帰っていいぞ」
そう塚地に言われ、泉と三輪は部屋を出ていく。
「……」
「……泉君」
「なんだよ。私も屋上に行って良いかな」
「好きにしろ」
そう言って泉は屋上へと向かう。三輪もそのあとを追う。
屋上には、コユキが静かに立っていた。
「来たわね」
「コユキ……」
泉はコユキの側に歩いていく。三輪は扉の前に立つ。
「ついに来たわね。お別れの時」
「……」
「どうしたの? 泣きそうな顔して」
「なんでもない」
「もしかして、私とお別れするのが寂しいの?」
と、コユキは笑って言う。
「お前は寂しくないのかよ!」
泉は叫ぶとコユキの顔が暗くなる。
「寂しくないって言ったら嘘になるわ。でも、もうどうしようにもないのよ」
「……」
「コユキちゃん……」
「でも、あんたと過ごした時間は忘れないわ」
「……最後ぐらい、名前で呼んでくれよ」
「それもそうね。でも、もうすぐ時間切れ」
「そっか。じゃあな、コユキ。楽しかったよ」
「ありがと。バイバイ泉」
「コユキちゃんまた会えるよね?」
「ええ。バイバイ、三輪ちゃん」
コユキは、笑顔を見せて消えた。
「行っちゃったね」
「ああ。……っ」
泉は涙を流す。それを見た三輪は泉を抱きしめる。
泉の静かな声が夜空に響いた。
そして、夜が明けた。
◆
◆
悪霊がいなくなり平和な日常を過ごしていく二人に、ある出来事が起こる。それは、十月の末だった。朝のホームルームで担任が
「えぇ、今日は転校生が来ています」
その言葉のあと、教室が少しざわつく。
「入れ」
教師がそう言うと、教室の前の方の扉が開く。教室に、背中まで伸びた黒髪に花のように細い体の少女が入ってくる。泉と三輪はその姿に見覚えがあった。
『あっ!』
二人は同時に立ち上がり叫ぶ。その瞬間、教室中の視線が集まる。
「なんだ二人とも知り合いか?」
「い、いえなんでもありません。なっ?」
「えっ、ええ。すいません」
二人は席に座る。
「初めまして、宮坂小雪です。生まれてから海外に住んでて日本のことあまり知らないのでよろしくお願いします」
小雪はお辞儀をする。あまりの可愛さに男子生徒が騒ぐ。
「静かにしろ。えっと……席は水上の後ろだな」
「へっ?」
教師の言葉に泉は素っ頓狂な声を出す。
小雪は歩き出し、席に座る。そして、泉の肩を突き。
「よろしくお願いします!」
と、元気に言った。
「よ、よろしく」
泉は頬を赤くして言う。
休み時間、小雪の席は人でいっぱいだった。男子と女子に囲まれ、小雪はあたふたしながらも対応していた。泉は、うるさいのを我慢していた。
昼休みになり、泉と三輪はいつも通り食堂に向かおうとする。
「ねぇねぇ、泉!」
と、小雪に声を掛けられる。
「な、なんだよ」
「ちょっと着いてきて!」
と、小雪に手を引かれる。
「ちょ、ちょっと!」
泉は為す術なく引きずられる。三輪もそれに付いていく。
小雪が足を止めたのは屋上へ続く階段。
「なんだよいきなり……」
「まさか、忘れたなんて言わせないわよ」
「忘れるわけないだろ。……コユキ」
「やっぱりコユキちゃんなのね」
小雪は胸張って、
「どう? 可愛いでしょ?」
と、言う。そして、クルクル回る。
「でも、どうやったんだ? お前は永久凍結されたはずじゃ……」
「里美がね、私用に体を作ってくれたの。特殊な素材で出来てて、人間と同じように成長も出来る凄い代物よ」
「凄いわね。里美さん」
「お前、鍵はどうしたんだ?」
「うーん。なんかあの時三輪に蹴られて気絶してる時に神様が言ったのよ。もう大丈夫だって。それから鍵は私の体内から消えたの。里美が何度も検査したけど結果は変わらなかった」
「そうなのか。じゃあ家は?」
「里美と二人暮らししてるわ。ねっ、お腹空いたから一緒にご飯食べに行きましょ!」
そう言って、小雪は食堂に向かって走って行く。
小雪は泉が頼んだラーメンセットを頼む。
「美味しい!」
小雪は笑顔で言う。
泉は、楽しそうに食べる小雪を見て微笑む。
「なんか不気味ね、泉君が笑ってるの」
「なんだと!」
そんなこんなで、昼休みが終わり、あっという間に放課後になる。
三輪は、この日に泉に告白することを決めていた。三輪は、委員会の仕事が終わったあとに告白するつもりだった。教室までの距離にずっとイメトレをする。
「よし、頑張るわよ」
そして、教室を覗くと、泉がいた。いつも一緒に帰るため、待っているのを知っている。だが、もう一人いた。小雪だ。何か話しているようで、会話の内容が聞こえてくる。
「なぁ、小雪」
「何?」
「……俺と付き合ってくれないかな」
「……!」
三輪は言葉を漏らそうとするが、こらえる。
「……私で良いの?」
「お前じゃないとダメなんだ。お前とずっと一緒にいたいんだ」
「……分かった。良いよ。よろしくね。泉」
そんな会話が聞こえてきた。三輪の頬にはいつの間にか涙が出ていたが急いで拭いて、教室にある荷物を取るために教室へ入る。
「あっ、三輪……もしかして今の話聞いてた?」
「えっ!? う、ううん。聞いてないわ」
「そっか。なら良かった」
「な、なんの話してたの?」
「……内緒」
「そ、そう。なら、私先に帰るわね」
そう言って、三輪は急いで教室を出ていってしまう。
「あっ、三輪! どうしたんだよ……」
「泉は鈍感すぎるのよ。三輪ちゃん、あんたのこと好きだったのよ」
「えっ!?」
「私たちも帰るわよ」
「お、おいちょっと待てよ!」
そう言って、小雪は教室を出る。泉もそれに続く。
◆
◆
「失恋しちゃった」
三輪は自室で呟く。そして、机からハサミを取り出す。
「切っちゃおうかな」
そう言って、三輪は長く伸びた髪をハサミで切っていく。切られた髪が床に落ちる。
そして、鏡を見る。そこには、髪の毛が肩までの長さになった三輪の姿があった。
「もう、忘れよ」
翌日、泉が気まずそうな顔をしていた。
「何?」
「……髪どうしたんだ?」
「切った。邪魔だったから」
「そ、そうか」
「あのことは気にしてないから。普通に話してくれない? 気持ち悪い」
「ご、ごめん」
泉が謝ると、三輪はクスっと笑う。
放課後、三人はコンビニにいた。
「このチキン美味しい!」
小雪はチキンにかぶりついて言う。
「良かったわね、小雪ちゃん」
三輪はホットコーヒーを飲みながら言う。
「俺は帰る」
そう言って泉は自宅へ向かって歩いていく。
「ねぇ、小雪ちゃん」
「ん? 何?」
小雪は口にチキンを含みながら言う。
「コラ、食べ物入れたまま喋らない」
「はーい」
しばらくして、三輪と小雪は別れる。
そして、夜が明けた。
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