第6話 約束
襲来予定までの間、三輪は戦い続けた。苦戦することもあるが、持ち前の頭脳で善戦し続けた。
泉は、学校には来ていたが、言葉を発さなかった。
そして、襲来予定日がやってきた。武器の製造は間に合わず、三輪一人だけで戦うことになった。
「……ここね」
三輪はホールにいた。箱を手に持ち、臨戦態勢を取る。
しばらくすると、三輪の目の前に煙が現れる。煙は人型になり、隣にもう一人人影が現れる。
「えっ……!?」
三輪はその人影に驚く。それもそのはずだ。目の前にはコユキがいたのだから。
だが、コユキはいつも着ていた白いワンピースではなく黒いワンピースを身に着けていた。
「あら、今日はあんた一人なのね」
「ええ」
箱が変形し日本刀の形を取る。そして構える。
「あいつを殺れ」
「分かったわ」
コユキは右手に剣を作り振りかぶる。三輪はそれを防ぐ。
「コユキちゃんって意外に単純? 攻撃が単調すぎるわよ?」
「言うじゃない」
三輪とコユキは攻撃と防御を繰り返す。
「はぁ!」
三輪がコユキの腹を蹴り、開いた距離をすぐに詰め、攻撃する。コユキは壁に当たり床に崩れ気を失う。
「次はあんたよ。覚悟しなさい」
三輪は刀を構えて言う。
「良いだろう」
悪霊は、両手に剣を作る。すると、三輪の視界から消える。
「消えた?」
三輪は周りを見渡すが誰もいない。
「ここだよ」
後ろから声がして、三輪は吹き飛び、置かれていた机に直撃する。
「がっ……」
三輪はすぐに武器を構えるが、目の前には悪霊の姿はなかった。だが、また後ろから衝撃が走る。
「ぐっ……」
すぐに体勢を取り直し、三輪は悪霊が消える寸前に刀を振り下ろす。悪霊は攻撃を防ぐ。
「ほう、よく見破ったね」
「コユキちゃんは返してもらうわよ!」
三輪は後ろに下がりすぐに突っ込む。悪霊はその攻撃を防ぐ。すると、甲高い音が響く。
「無駄だよ。彼女はもう我のモノだ」
そう言って悪霊は三輪を弾き飛ばす。三輪は柱にぶつかる。
「……っ!」
意識を失いそうになるがなんとか立ち上がる。
「負ける訳には……いかない。泉君の為にも絶対!」
三輪は悪霊に向かって飛び掛かった。
◆
◆
三輪が戦闘を開始した同時刻、泉は自宅にいた。
「どうすりゃ良いんだ」
暗い部屋で泉はベッドに腰掛けて呟く。
「コユキと約束したのに。外の世界を見せるって」
泉は目を閉じる。だが、何も見えない。目の前には暗い空間が広がるだけだった。
そして、今日があの悪霊が襲来する日だと思い出す。泉は居ても立っても居られず家を飛び出した。後ろから母の声が聞こえた気がしたが泉は気にしてなどいられなかった。
走って行けば十分ぐらいで学校に着く。泉は休むことなく走った。幸い、信号は全て青で止まることなく走れた。
学校に着き、昇降口を抜け、ホールを目指す。ホールに近づくにつれ音が聞こえる。三輪が戦闘している音だと泉は考える。
ホールに着くと、そこには倒れた三輪とあの悪霊がいた。コユキが倒れているのも見えた。
「三輪!」
泉は叫んだ。
「ご、ごめんね……約束、守れな……かった」
三輪は意識を失ってしまう。
泉は、とっさに目の前に転がっていた三輪の箱を手に取る。箱は、日本刀の形に変わる。
「俺がお前を倒す。三輪が果たせなかった約束、コユキとの約束は俺が果たす!」
泉は地面を蹴り悪霊に向かっていく。悪霊は泉の攻撃を防ぐが、泉はしゃがみ、悪霊の右足を斬る。悪霊はバランスを崩してしまう。
「死ねっ!」
泉は悪霊の首を斬ろうとするが、悪霊は左足で泉を蹴る。泉は近くにあった自動販売機に当たるが、すぐさま体制を立て直し悪霊に突っ込む。
「同じ攻撃しか出来ないのか!」
悪霊は攻撃を受け止めながら言う。
「うるさい!」
泉は叫ぶ。そして、また壁に飛ばされる。
「ぐっ……」
床に倒れる泉。立ち上がろうとするが、立てない。
「これで終わりだ。人間」
悪霊は、泉の首を斬ろうとする。しかし、悪霊の目の前が光に包まれる。
「な、なんだ!?」
悪霊はあまりの眩しさに目を覆う。
光が晴れるとそこには白いワンピースに身を包んだコユキがいた。
「な、なんでもとに……」
「三輪ちゃんの攻撃もあったけど、泉の言葉が聞こえたの。私も負けてられないなって。だからよ。あんたの洗脳なんて私と泉がいれば効かないのよ!」
コユキは普通出すことの出来ない衝撃波を出し悪霊を飛ばす。
「コユキ……」
「もう、大丈夫。ありがとね。泉」
「……」
泉は涙を流す。
「泣くのはあと。立てる?」
コユキは手を差し伸べる。泉は手を掴み立ち上がる。
「行くわよ」
「ああ」
「さっ、私と意識を融合させましょ」
そう言ってコユキは泉の体に入る。泉の頭の中には無数の景色が映る。そして、一瞬で現実に戻ってくる。泉の目は右目が黒、左目が赤になっていた。
「すげーなんか力が……」
『当然よ。私のリミッターが外れてるんだから』
「マジで!?」
『ええ。下手したら暴走するかもね』
「そんな大事なことサラッと言うなよ……」
『でも、私の思考も共有されるわ。それに、あんたと私なら、暴走なんてしないわ』
「自信もってそんなこと言われたら行ける気しかしないね」
『ええ!』
泉は両手に剣を作る。刃はどちらとも真っ直ぐではあったが、バチバチと音を立てていた。泉は床を蹴り悪霊に突進する。
「かかってこい!」
悪霊は泉の攻撃を受け止める。
「うぉおおおおお!」
「人間如きがぁああああ!」
泉が吹き飛ばされ壁に激突する。
「かはっ……」
泉は衝撃で口から血を吐く。
『速さで突破するわよ』
「あ、ああ」
「私もやるわ」
泉の右には、武器を持った三輪が立っていた。
「三輪!」
「泉君ばっかりに任せてられないわ」
悪霊は泉たちに向かって突っ込んでくる。泉と三輪はそれぞれの武器で攻撃を受け止める。
そして、泉は悪霊の右手を弾き切り飛ばす。
「泉君! 今よ!」
三輪が叫ぶ。
「死ねぇえええ!」
泉が悪霊の首を飛ばそうとした時、悪霊が消える。
「なっ……」
「……っ!」
泉は誰かに吹き飛ばされる。視界には、攻撃しようとしている悪霊と三輪の姿があった。
「三輪!」
泉が叫ぶと同時に、悪霊の攻撃が三輪に当たる。泉の視界には三輪から噴き出る血液が入る。三輪はその場に倒れる。悪霊はすぐさま距離を開けたところに現れる。
「三輪! 大丈夫か!?」
泉はすぐに三輪に駆け寄る。
「え、ええ。大丈夫よ」
「なんであんなこと……」
「言ったでしょ。泉君ばっかりに任せてられないって」
「だからって……」
泉は涙を流す。
「泣かないで……泉君にはまだやることがあるで……しょ?」
三輪の息遣いは荒くなる。
「……分かった。絶対に助けるからな。終わるまで生きてろよ」
泉は悪霊に向かっていく。それを三輪は見つめる。
『行っちゃった。この戦いが終わったら、泉君に告白しようかしら』
三輪はそんなことを考える。血は流れ続け、体は寒くなる。
『寒い。……死ぬのかしら。でも泉君との約束を破るわけにはいかない』
すると、箱が変形し、三輪の傷口を包み始める。
『死ぬな。生きるのよ』
幽霊の声が聞こえる。
『ありがと。頑張る』
三輪は意識を失った。
泉は悪霊と剣をぶつけあっていた。すると、悪霊がまた消える。泉は周りを見渡すが誰もいない。
『後ろよ!』
コユキが叫ぶ。後ろをすぐさま向き、対応する。
「あっぶねぇ」
「早く死ね! 人間!」
「嫌だね!」
泉は、悪霊を吹き飛ばし壁にぶつける。
「ぐはっ……」
泉は一瞬で悪霊に近づき、首に剣を突き刺す。
「終わりだ」
泉はそのまま首を斬り飛ばす。
「ぐぉおおおおお!」
悪霊は叫びながら消滅していく。完全に体が消滅したことを確認しコユキは泉の体から出てくる。
「終わったわね」
「ああ。……あっ!」
泉は三輪の元へ急ぐ。幸い、息はあった。
「すぐに運ぼう」
泉は三輪を抱えてリペルへ向かった。なんとか一命を取り留め、泉も治療を受けた。
そして、夜が明けた。
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