第12話 箱根の古民家へ
三度目の東京駅、東海道線下りホームでの待ち合わせだ。私は、動きやすいパンツにTシャツ、靴はスニーカーを履いてきた。ここから小田原まで電車で行き、小田原からはバスで山を登り仙石原に入る。山荘は人里離れたところにあるという。
「おっ、お待たせ! 寂しかったでしょ?」
響さんは、会うといきなり肩をすり寄せてきた。前回のミッションで、だいぶ距離が縮まったような気がしていたのは響さんだけではなかった。彼は、スラックスにシャツ姿というラフな服装で現れた。
「ええ、まあ。お久しぶり。でも、一週間しか経っていませんが」
私にとっての一週間はあっという間だった。
「また始まるね。いつもより緊張する」
「私も、何かスリルがある、というか嫌な予感がします……」
「なぜ?」
「なぜって、今回はお金が絡んでいますので、責任重大なのではと思います。私の方が緊張してるみたい!」
上野東京ラインの列車は十分おきぐらいに到着する。東京駅は乗降客が多いので、列車の中の人の入れ替わりが多い。朝の混雑する時間帯に列車がホームに滑り込んできて、大勢の人が吐き出され、空いた席に二人で座った。
「伊豆へ行ったときは特急だったけど、今日は各駅だ」
「一時間ぐらいだからどうってことないでしょ」
「この電車では、食べにくいな」
「あれ、響さんまた何か食べ物持ってきたの?」
「今日はサンドイッチ」
「じゃあ空いてきたら食べましょ」
私たちは、東京からかなり離れてから、サンドイッチを遠慮がちに食べた。小田原で下車してバスに乗り換え、更に一時間ほど山を登っていく。乗客が次第に少なくなり、私たちは人家の殆どない場所で降りた。あたりはススキの原が広がり、遠くには杉林が見えた。
「寂しいところね。明るいうちでよかった」
「ここから少し入ったところにある」
バスを降りてからに十分以上は歩いているだろうか。私たちは口数が少なくなってきた。
「ひょっとしてあの家?」
「可愛い民家でしょ?」
「一度目に負けず劣らず、不気味です。和風の古い民家ですね」
「ああ、周囲一キロぐらいは他の家はない」
「執事の早坂さんは先に来ているの?」
「そうだと思う。食料の準備があるから」
早坂さんの年齢は、四十ぐらいだろうか。気が付かないうちに準備をし、タイミングよく食事やお茶などを用意してくれている。
「早坂さんは普段はどこで仕事されているの?」
「普段は、自宅でうちのことを取り仕切っている。親父も、すごく信頼しているんだ。普段は料理はしないけど、ここへは一人で来ているから。すべての準備をしてくれている」
扉を開けて中へ入ると、案の定早坂さんが迎えてくれた。
「ここには初めて来た」
「そうでしたか。幼いころに来たことがあると伺っておりましたが」
「かなり小さいころかな?」
「記憶にないのですね。ここは会長の秘密基地のようです」
「秘密基地というと」
「遊び心が詰まっているようです。後でお部屋を回ってみてください」
「ふうん。楽しみだな」
「まずは、お部屋に荷物を置いて、昼食を召し上がってください」
私たちは、早坂さんに案内されて二階へ上がり、響さんと私は隣り合った部屋へ入り荷物を置いた。響さんの部屋の向こうが早坂さんの部屋だった。荷物をベッドのそばに置きクロゼットに着替えを入れるために扉を開け、持ってきた服を置いた。十分な広さがあった。
机の上に小物入れがあったので、開けようとするとどこにも取っ手がない。よく見ると、木目の間に切れ目があるので、何回かスライドしてみると何十回目かにようやく箱が空き中が見えた。複雑な細工がしてあるようだ。箱根の秘密箱の細工と同じね。遊び心って、これのことを言っていたのだ。
ほかにもどこかに細工がしてあるのだろう。
ノックの音がして、響さんの声がした。
「食事の時間だよ!」
「今行きます」
食堂で、箱の話をした。
「机の引き出しにも細工してある。一つだけ開かない引き出しがあって、ほかの場所を動かさないと開けることができない」
「開けられたの?」
「何回かつまみを移動させたら開けられた」
「からくり細工がいろいろな場所に施されているようね?」
「この部屋にも会長のコレクションがいろいろあります」
早坂さんが、私たちに教えてくれた。棚の上には、様々な秘密箱やパズルなどが置かれている。食事を終えると二人で次々に仕掛けを探るために、あちこちをひねったり引っ張ったりした。箱ごとに仕掛けが異なっていて、試行錯誤しながら秘密を解明していった。
「めぐるさん、小判の探し甲斐がありますね」
「ハイ、知恵比べですね」
私は興味津々でうなずいた。
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