第11話 ミッションその3

 響さんはスマホで撮った写真を、おじいさまに送ったところ、カンタという名のオウムが生きていたことを大変喜び、私たちのひらめきに大変驚き感心したということだ。


「せっかく海に来たんですから帰る前に、ビーチでデートしよう」

「デートですか?」


 初めて響さんから聞く言葉に驚き、慌てた。


「この前みたいに、達成できたお祝いをしなきゃね」

「いいですね。水着も持ってきたことだし」


 私は気持ちが軽くなり、ビーチへ向かい、波打ち際で波と戯れたり、浮き輪を使ってゆらゆらと海の中を漂ったりした。

 水着姿になると、普段はほっそりと痩せて見えた響さんは、思ったより筋肉質で引き締まっていた。一しきり遊ぶと体が赤くなってきたので、パラソルの下に移動した。ワンピースの水着から出ている太ももも真っ赤になってしまい、響さんの視線がそこに向かうと恥ずかしくなった。


「膝から上が真っ赤になっちゃったね」


 タオルを足にかけて、響さんの視線から隠した。


「綺麗な足を隠しちゃって、残念。でも日焼けしすぎると後でいたいからね」


 響さんは、ビーチチェアーに座って日差しを避けている私の上から顔を覗き込み、素早く私の唇にキスした。咄嗟のことだった。周囲に人はまばらだったが、一瞬どきりとして響さんの顔を見た。目と目が合った瞬間響さんは、私からちょっと離れて視線を逸らした。


「響さん、今、私にキスしました?」


 何という間の抜けた反応をしてしまったんだろう。そんなことを聞かれたら、困ってしまうだろう。


「うん、今までのお礼のキス」

「ああ、お礼のキスだったのね」

「まあ、そう」


 濡れていた体は、次第に乾いてさらっとしてきた。響さんも隣の椅子に座った。


「僕、めぐるさんのことあまりよく知らずにいたんだけど、このミッションに参加する前は、どんなアルバイトをしていたの?」


「飲食店のウェイトレスや、コンビニの店員をやってたの。看護助手をやったこともあるのよ」


「へえ、色んなバイトをしたんだね。卒業してからアルバイトしていたのはどうして?」

「やりたいことが、見つからなかったから。仕事をしてから、本当にやりたいことを探そうと思ったの。なんだか甘い考えだったかな」

「そんなことはないんじゃない。それで、やりたいことはもう見つかったの?」

「まだ、探している最中。これが終わったら見つかるといいけど」

「探す手伝いをするよ。僕は、今まで何かに無我夢中になることが、カッコ悪いことだと思ってた。余裕のあるところを見せたかっただけなんだろうな。でもそれじゃ、いけないんだよな」


 響さんは海のかなたの水平線へ視線を向けている。初めてこんな話をして、また少し距離が縮まったような気がした。


「なんとなくわかります。、夢中で何かをして失敗するのは、誰でも怖いですから」

「よーし。これからもっと大胆になろう」

「その意気です」


 均整がとれていて、少し日焼けした響さんは、次第にまぶしく魅力的になってきた。ひょっとすると、そう見えたのは私の心の変化だったのかもしれない。


 海の家で着替えをし、コテージへ引き返した。

 夕食を済ませ、ソファで二人きりになると、響さんは私の肩に手を回し、再び私の唇にキスをした。


「さっきのはお礼のキス、今のは本心から」

「あっ、そう言うことなの……」

「仲良くなったから……」


 響さんの手は、腰から下、スカートに伸びてきて。


「ああ、ちょっと今は、そんな気分じゃないし。御免なさい」

「突然こんなことしちゃって、あせったかな。これ以上触らないから安心して」


 響さんは今度はおでこに軽くキスして、その日はそれぞれの部屋へ引き上げた。


         ―♦―♦―♦―♦―♦―

 翌日、執事の早坂さんが、私たちに言った。


「会長から次の指示が来ました。お読みします」


『二つ目のミッション、ご苦労だった。次は、箱根の山荘へ行くように。その山荘に江戸時代の小判が隠されている。今の貨幣価値に直すと数億円になるだろう。それを見つけ出すのが今回のミッションだ。ただし、山荘の壁や、床、家具などは一切傷つけてはならない、調度品も価値のあるものだからだ。出発は一週間後だ』


「あら、また一週間後。良心的ですね」

「準備もあるからね。しかし、江戸時代の小判なんて隠してあったのか」

「江戸時代の小判一枚、どのくらいの値段なのかしら?」


 響さんは、スマホで検索している。


「一枚、数十万円から二百万円ぐらいまであるらしい。作られた年代や種類にもよるようだ。金の含まれる割合が違っている」

「今回は、大変なミッションね」

「お宝さがしか。面白そうだな」


 響さんはまたもや面白がっているが、人里離れた山荘で宝探しをするなんて、スリルもあるが怖くもあった。


「一週間後にまた始めよう」

「了解です!」


 私たちは、荷物を引っ張りコテージを後にした。

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