第9話 聞き込み
商店街には、土産物店、洋品店、食料品店などが軒を連ねていた。途中には空き地があり、取り壊された所もあるようだった。
「もう、お店で聞くのは無駄だな」
出るのはため息ばかりだ。私たちは店で聞くたびに答えを聞き出せず失望し、あてもなく商店街を進み、しまいには店は途切れてしまった。
「とうとう駅まで来てしまいました」
駅には観光案内所があった。
「入ってみませんか? この辺のことが詳しくわかるかもしれません」
そこでマップをもらい、周辺を見てみた。響さんは、ある一点を指さした。
「この先の公園に行ってみましょう。おじいさまが子供のころ遊びに行っているかもしれません」
子供が行きそうなところは、はずせない。
「ここの公園、動物がいて、飼育係もいるから、その中に爺さんのことを知っている人がいるかもしれない」
響さんは、さっきよりは幾分元気になったようだ。まだまだ訊いていないところはありそうだ。
「きっと、この中に御爺様に会ったことのある人がいるかもしれません」
私は、自分に言い聞かせるように言った。入り口にある事務室の戸をノックした。中から、日焼けした飼育員さんが出てきた。
「こんにちは」
「こんにちは、ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
響さんは、かいつまんで人探しの話をした。
「うちの係員で、そういう名前の人はいませんね。子供のころの知り合いなら、以前ここで遊んでいるかもしれないけど、職員にはいませんよ」
「ああ、そうですか。ありがとうございました」
ここにも手掛かりはなかった。
「せっかく来たから、動物でも見ていきましょうか」
「そうだな。僕も子供の時以来だから一回りしよう」
公園は、動物がいるため閉園時間まであと少しだった。汗を拭きながら、速足で歩いた。サル、ペンギン、タヌキ、鳥類などの檻を過ぎ、最後は亀を見た。
「あと、どこを探せばいいんだ! はあ」
運動神経の良い響さんだが、少し短気なところがあるようで、既に諦めかけているようだ。
「ビーチに行きますか? 海の家はどうでしょう」
「行ってみるかあ。日が暮れる前に」
私たちは、閉演時間と同時に海へ向かった。海の家が数件立ち並んでいた。
「あっ、響さん。あそこの家年配の人がやってますよ!」
「ほんと、おじいさんがいる。行ってみよう!」
二人は、砂浜を転びそうになりながら走った。
「おじさん、カンタさんを知りませんか!」
私はもうやけくそになっていた。
「五十歳から六十歳ぐらいの人です。引っ越してしまって、もういないかもしれませんが」
少し年齢に幅を持たせて質問した。意気が上がってゼイゼイしている。おじさんは、何事かと面食らって私たちを見ていた。
「おいおい、落ち着けよ。人探しかい。カンタさんていう人を探しているの?」
「はっはい、ご存知ですか?」
おじさんは、じっと考えている。
「うーん、訊いたことないなあ。御免よ」
私は、はーっと、ため息をついた。もう喉はカラカラになっていた。
「仕方ない。ここでかき氷でも食べようか」
響さんは、冷たいものが好きなようだ。まあ、この暑さだから仕方ない。
「それは、よい考えです。了解です」
私は、額の汗を拭きながら海の家に入り、椅子に腰かけた。響さんは、じっと考え込んでいる。
「響さん、このミッションどうして参加したんですか。なんか、妙な話だと思いませんか?」
私は、響さんの顔を覗き込む。
「ああ、退屈だったし、面白そうな話だから参加してみようかなと思った。君もそんなつもりでしょ?」
やっぱりな、と思う。
「あっ、私の場合は、別荘なんて泊まったこともないし、それだけでもすごいなと思ったんで……」
これ以上話すと惨めな気持ちになりそうで、言葉が出なくなった。
「ミッションがクリアできなかったらどうなるんでしょうね?」
のんびりとかき氷を食べていた響さんが、こちらを覗き込む。
「僕たちは他人に戻るんじゃないの? だってミッションがクリアできたら婚約するんだから」
何食わぬ顔でかき氷を食べ続けている。やっぱりそういうことか。私とこの人が婚約するなんて、現実的じゃないような気がする。かき氷は疲れた体に優しかったが、私の気持ちを現実に戻した。
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