第2話 約束の日
一週間が過ぎ、約束の日がやってきた。私は両親とともに、招待状の指示に従って待ち合わせ場所へ向かった。
そこは、レストランの最上階にあるレストランだった。ウェイターに名前を言うと、席へ案内された。重厚感のあるテーブルが置かれ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。スペースも十分で、隣の人の会話が聞こえるということもなさそうだ。大きくとった窓からは、外の景色がよく見える。これからどんな話が聞けるのだろうと、期待と不安の入り混じった気持ちでテーブルに向かった。そこには初老の男性と若い男性が、二人並んで座っていた。初老の男性が言った。
「どうぞおかけください。私は西園寺重ともうします。重と書いて、かさねと読みます。どうぞよろしく」
「よろしくおねがいします」
私は、重さんと隣の男性を見比べる。孫ぐらいの年齢の青年は、すらりと背筋を伸ばしカッコよくスーツを着こなしている。
「こちらは孫の響です。早速ですがお願いがありまして。孫の響は今年大学を卒業したばかり。一緒にあるミッションを達成してほしいのです」
「どのようなミッションですか? それから何のために?」
「お聞きになるのは当然ですな。日本各地にあるうちの別荘に行っていただくとわかります。最近建てられたモダンな建物から、明治時代に建てられたかなりの年代物のものまであります。そこで、家の孫と謎を解明して頂きたい」
「解明できたら、どうなるのですか?」
「その時は、うちの孫と結婚してください。実はな、私は若い頃、君のお爺さんと約束をしていたのです。うちの孫が大学を卒業したら結婚させようと」
「えええっ!」
私は面食らってしまった。
「今どきそんなことがあるのですか? 親が決めた人と結婚するなどということが!」
「まあ、もちろん、ミッションをやり遂げた後に、お互いに熟慮の上決めて構わないんだけどな」
「ちょっと、私そんな話初めて聞きました。祖父からは何も聞いていませんでした……」
「うちの孫にも最近話したばかりなのですが、面白そうだからやってみる、といっている。なっ、響」
今まで一言も言葉を発しなかった響という名の男性が、初めて口を開いた。
「いいよ。丁度退屈していたんだ、やってみようじゃないか? 失敗しても、別に困ることはないし……」
「そんな簡単に決めてしまっていいんですか?」
私は、俯き加減で、目だけを響さんの方へ向けた。
「よし、話は決まった! 早速はじめにここへ行ってもらおう。出発は一週間後、いいな、響、めぐるさん」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
随分せっかちなお爺さんだ。まだこちらが返事をしていないのに、決めてかかっている。隣で話を聞いていた父親が言った。
「面白い話じゃないか! 私も今まで聞いたことはなかったが、爺さんの遊び心に付き合ってみてもいいんじゃないか? 危険はないんでしょう、西園寺様?」
「少々の冒険は覚悟しなければなりませんが、命の危険はないと思います」
「ほら、やってみたらどうだ」
こんな軽い人だったかなと、ちらりと父親の方を見ると真面目な顔をしている。
こんな突拍子もない話、普段の自分だったら引き受けないところだけれど、今は高校を卒業してバイト中の身、時間はあるし、西園寺さんの少年のようないたずらっぽい瞳もハードルを下げてくれた。それに、私だって失敗しても困ることはないし……
「わかりました。やってみます」
「そうか、では響をよろしくお願いしますよ」
こうして出会った二人は、これから奇妙な旅を始めることになった。
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