第89話 手作りチョコ🎁

「もう知ってるのね……」

 顔を伏せたまま彼女が訥々とつとつと話し始めた。



「さァ~、実際に僕は、ネットを見てないけどねぇ……」

 肩をすくめ苦笑いを浮かべた。



 さっき飯野から余計な事を聞かされた。



「ン…… どんなに隠しても……

 どんなに過去を偽装いつわっても……

 今はネットで叩かれるわ」

 また彼女は小さな声で呟いた。



「うん……」その事は解っている。



「ほんの少しだけでも……

 幸せになるのが、そんなにいけない事なのかしら」

 顔を伏せたまま呟いた。



「ああ…… そうだね。ネットは悪意にまみれているから……」

 よほどの事がない限り一度、ネットに流れた事はなかった事には出来ない。



「知ってるでしょ。私……

 整形したンだ……」


「うン……、でもそんな事、構わないだろ」


 

「ううン…、私は綺麗でもなんでもないの」



「そんな事は関係ないよ……

 厳密に言えば歯の矯正だって整形なんだ。

 だったら芸能人やアイドルなんて、大多数が整形ッて事になるんだから」

 俺は無理して笑ってみせた。

 だが、少し哀しい顔に見えたのかもしれない。



「アキラさんは…… こう言う時……

 いつも困ったような笑い方をするわ」

 


「え……」困ったような笑い方……

 


「あの日もそうだった……」彼女は遠くを見つめた。

 夕陽🌇が紅く公園を染めていた。



「私は、当時、憧れていた男の子……

 飯野君の誕生日プレゼントに手作りチョコをあげたの……」



「うん……」

 不意に、あの日の事が脳裡によみがえった。






 ※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆







 あれは、小学校五年生の事だった。

 放課後の小学校の教室での事だ。



『飯野君…… お誕生日、おめでとう🎁』

 照れたように笑って田山イズミがプレゼントを差し出した。




「私は…… あの日、手作りチョコの入った包みを差し出した。でも彼は、受け取らなかった」



『はァ~、ブスからなんていらねェ~よ』

 小学生の飯野は手にした包みを放り投げた。



「そう言って飯野君は、そのチョコの包みを放り投げて捨ててしまったわ」



「うン……」やっと思い出した。


周囲まわりの男子たちもゲラゲラ笑っていた。

 私は泣きそうになっていると、アキラ君が近寄ってきたのよ」



『よォ~……、なんだよ。田山❗❗ 

 捨てるなら俺にくれよ❗❗』



「拾い上げてアキラ君は笑顔を浮かべたわ。

 その時の笑顔も少し困ったような……

 哀しい笑い方をしていた」



「そ、そんな事……」

 確かに包みを拾った瞬間、俺は困惑していた。

 





※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆

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