第88話 夕暮れ🌇

 俺は昔、よく遊んだ公園へ向かった。


 かつて何度か、田山イズミも来ていたのを見た事があった。




 街に夕暮れ🌇が近づき、子供たちや保護者の母親がスレ違うように自宅へ帰って行った。




 『海が見える公園』だ。

 かすかだが汐の薫りが漂ってきた。



 さして広くない公園を探し回った。




「あ……❗❗」

 公園の片隅にブランコが設置されてあった。

 ひとりの女性がブランコに乗っているのが見えた。



「あ、彼女は……」間違いない。エリカだ。

 いや、田山イズミなのか。


 今は、どっちでも良い……



 急いで俺はブランコに乗る彼女の元へ駆け寄った。

 


「ふゥ~…… どこ行ってたんだよ」

 出来るだけ明るく振る舞った。



「……」彼女は顔を伏せたまま、かすかにブランコをいでいた。

 ギィーギィーと小さな音が響いた。



「フフ…、でも良かった…… 見つかって」


「……」彼女は視線を落とし、こっちを見ようとしない。



「心配したよ…… 急に居なくなるから。

 電話にも出ないしさァ~……❗❗」

 俺も隣りのブランコに腰掛けた。

 ギィーッと錆びた音が響いた。


「ヤベェ~、オレじゃ重すぎか」すかさず立ち上がった。


 やはり子供用なので七十キロ近い僕が乗るには無理があった。

「ブランコが、壊れて子供が怪我でもしたらヤバいからな」



「……」エリカもブランコを止めた。


 

「こんなに小さかったンだな…… 

 ブランコッて」

 それだけ僕の身体が大きくなったのだろう。


 僕はエリカの乗るブランコの鎖を掴んだ。


「さ、一緒に帰ろう……」笑顔で右手を差しべた。



「……」エリカは無言で首を振った。

 


「今夜はカレーを作ってよ。エリカの……

 いや、田山イズミさん特製のカレーを」


「……ッ❗❗」

 彼女の身体が、かすかにビクッとした。



 街灯に止まった蝉の声が聴こえた。



「ふぅ~……」彼女は大きく息を吐いた。


「もう知ってるのね……」

 顔を伏せたまま彼女は訥々とつとつと話し始めた。





 ※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆∠※。.:*:・'°☆

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