第14話 帰路

 自分の家までボォーとしながら歩いていたら、ぼくの家の前で堂々と立っているお二人さんがいた。それは、楓さんに風華さんがだった。なんの理由でいたのかは知らないけれども適当に挨拶をする。

「どうも」

 ペコリと頭を下げる。

「よお」と風華さん。

「やあ」と楓さん。

 本名、鹿奈しかなかえで鹿奈しかな風華ふうか。二人は兄妹であり血縁者。楓さんが兄で風華さんが妹。本当はもう一人いるのだが敢えて今は言わないことにしよう。

 楓さんは大学三年生、現在進行形で大学に通っているらしい。そして、風華さんも大学二年生で楓さんと同じく現在進行形で大学に通っている。楓さんはぼくよりも背が高くザット百八十五前後の背丈だろう。スルッとしていてかなりのイケメン。やはり、彼女はいるのだろうか。それはぼくには分からないが、多分いるだろう。風華さんも同じく背が高くスタイリッシュな女性。それに、風華さんは美しいよりもカッコイイよりの部類だ。どこをどう見てもカッコイイ。そして、キレイな黒髪。

「どうもです。お二人が一緒にいるなんて珍しいですね」

「いや、そうでも無いさ。私たちは兄妹なんだからさ。一緒にいて当然みたいなものさ」

「そうですか。こんな場所で何をしているんですか?」

「「フフっ」」

「こんな場所と言ってもいい所だと私は思うがね。そうですよね?兄さん」

「あぁ、そうだな。ここは普通に良いところで悪いところは無い。それに、キミ……少年とも出会えた事だし、何か俺とキミとの縁が合ったんだろうな」

 そりゃあ、ぼくの家の前にいれば会うだろうに……

「………………………………」

「おいおい、そんなに引くなよ。少年」

「…………はあ」

「お礼を言いたくてさ。あの時のお世話ありがとうな。感謝している。あいつも相当喜んでさ」

「――そうですか。ぼくもあなたたちには感謝していますよ」

 本音を零す。そして、目を逸らす。

「それは、ありがとう。それでね。またで悪いのだけれどあいつのお世話してもらえるかな。日時は……月曜日と火曜日、朝の九時から十五時前後かな」

 月曜日、火曜日か。学校だな。……まあ、ぼくにとって学校に行くことについてはどちらでも構わないのだけれども、この歳、学生にとって学校へ行くことが当たり前だ。……どうしたものか。

「うーん。でも、学校があるんですけれど、も……」

「そうか、キミ、少年は学生だったな」とケラケラと笑う楓さん。

「――まあ、兄さん。学生の本文は勉強何ですよ――やっぱり難しいんじゃ……」

「いえ、あの子が困ると言うならやりますよ。あなた達には返しきれない程の貸しが有りますからね。良いですよ。構いません」

「ほう。貸しが有るのはお互い様だろう。少年」

「ぼく借りなんか作った事ないですけれども……?」

「――ふうん。あるよ。知らない間にキミはやっているんだよ」

「……そうですか」

「まあ、よろしくね」

「仰せのままに」

「そこまでかしこまらなくていいさ。学校の方は俺から連絡しておいてやるよ。一応あの学校とは縁が有るんでね」

 縁……縁って、あの学校と縁があるって、もしかして、楓さん。あの学校の出身校なのか。と言うか、それしか無いだろう。

「そうですか。それは、まあなんとも」

「結構驚いているようだね。まあ仕方ないよな。一応、俺たちあの学校の出身校なんだよ。風華もな。あいつもあの学校へ行かせようと頑張っている最中でな。そこでキミ、少年の手が必要って訳だよ」

「まあ、あの感じだと結構大変そうですよね」

「だろう?」

 ニヤニヤと笑う楓さん。それがどんな相手だと知っておきながらも笑い続ける。

「まあ、取り敢えずよろしく頼むよ。鍵渡しておくよ」

 楓さんはホイッとぼくに鍵を投げる。見た目は普通の鍵。クルリと回す感じの鍵。

「あの、ぼくが持っててもいいんですか?」

「いいんだよ」

 楓さんはぼくの肩をポンポンと叩く。

「そうですか。それでは大事に預からせて貰います」

「ウム」

「じゃあ、それじゃあ――そうだ。少年にとって些江さんはどんな人だい?」

 背を向ける楓さん。

「Lord《神》みたいな人ですよ」

ね」

 少しニヤリとする楓さん。

「じゃあ、それじゃあ」

 楓さんと風華さんはぼくに背を向けて家の中へと入っていった。

「どうもです」

 何となくお礼を言う。理由は無いが何となく、つい癖みたいなもので。まあいっか。 

 そして、ぼくも家の中へと入る。そして、鍵をかう。

 月曜日……火曜日か、あの子のお世話か。久しぶりだな。なんて言うのか。自分の子供みたいな感じだよな。あの子との触れ合い、馴れ合いが頭の中に浮かぶ。それは決して悪いことではなく良いことだと思う。

 ぼくは寝転がる。

 うーん。今から何をしようかな。明後日と明明後日は学校へ行かなくても良いし。と言うかこの年代の本文は学校へ行くこと……それが今では違う。なんとでも言い訳がつく。

「とりあえずさなちゃんに迷惑掛けたくないから電話でもするか……」

 今さっき寝転がってたのを辞め体を起こす。そして、スマートフォンを探す。

「うーん。何処へやったけな」

 携帯だから携帯しときなよって時代はとっくの前に終わったし。それに、携帯が出来た頃って機械と喋っている様に見えたらしい。今では普通な事で昔ではおかしなことか。いや、おかしなことが普通に見えてきていると言うことか。それは、ぼくたちがおかしくなったということか。と、携帯を見つけさなちゃんへと電話を掛ける。

 プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プツン。

「《はーい》」

 元気良く挨拶するさなちゃん。相手を確認せずに挨拶するなんて、もしも、それがぼく以外だったらどうなっていたのだろうか。

「どうも」

「《どうしたの?翠くん。翠くんから電話掛けてきてさ。何かあったのかな?》」

「そうだね。正解。何かあったよ。それについてさなちゃんに報告しておこうと思って電話したのさ」

「《ふんふん》」

「そう、ぼくさ。月曜日と火曜日訳あって休むことになったんだ。お隣さんとの事情でさ」

「《………………?うん?》」

「うん?」

 何故か話が止まる。

「《お隣さんと仲良かったんだね。翠くん》」

 さなちゃんは何故か声を低くして話す。

「……?うん。仲良いよ。それに、何度か助けてもらったからね」

「《ふうん》」

「うん」

「《それで、翠くんはお隣さんと何をス、ル、ノ、カ、ナ?》」

 何故か最後の方は途切れ途切れに聞こえてきた。それは電波が悪く通信が悪いと言う訳ではなく単純にさなちゃんが途切れ途切れに喋っているのだ。

「うん……?女の子のお世話だよ。二日間ね。お世話と言っても勉強を教えるだけなんだけれどね」

「《――えっ?なんて言ったの?もう一度》」

「うん?お世話だよ。二日間の」

「《いや、その、その前、の》」

 さなちゃんは狼狽したように台詞の調子を崩す。

「女の子の?……?」

「《――そこー!!!そこだよっ!翠くん!!》」

 無理矢理割り込み、いきなり声のトーンを上げ耳から携帯を遠ざける。

「そこ……?」

 ぼくは意味が分からず王蟲返しをする。

「《そこっ!何故女の子なの!》」

 ……知らねぇよ。て言うかそこかよ。ぼくは嘆息する。

「………………………………」

「《こほんっ》」と咳払いをするさなちゃん。「《そうっ!翠くん一人では心配なのです!》」

 人差し指を立てキラーンとしてそう。

「……ふん」

「《でっ!その日っ!月曜日と火曜日ですっ!この私が!翠くんの家に行きます!》」

「……………………………………」

「《黙らないでよっ!》」

 何故か、さなちゃんは怒る。…………?

「……いや、来るのは構わない。あー、構わないさ。逆にあの子も歓迎するだろう。だけれど、だけれども学校はどーするんだい?」

「《……あっ》」

 ……《あっ》じゃないよ。

「どーするの?」

 ぼくはさなちゃんを問い詰める。

「《ママに聞いてくるっ!》」

 携帯を何処かへ置き去り離れて行く。

 階段を下る足音が聞こえ徐々に聞こえなくなってきた。……と言うか本当に言いに行くんか。

 あの時、さなちゃんのお母さんと初めて面会したのだけれど、見た感じ話した感じ優しそうだった。

 本当――了承してそう。さなちゃんのことだから二日間ぐらい休養しても大丈夫だろう――成績良いんだし。さなちゃんの将来が楽しみだ。――おっ、この言い方だとさなちゃんの両親……父親になるな。決してそういう意味では無いけれど、友達として――友人として気になってしまう。聞いた話によれば《国語》、《數学》、《科学》、《日本歴史》、《コミュニケーション英語弐》の合計点数が四百九十六点だったらしい。……すげぇよな。普通に海外留学出来るレヴェルだよな。まあ、《コミュニケーション英語弐》の点数が百点なら尚更だよな。凄いものだよ。

「……………………………………」

 結構長く話しているな。……まあ、今後の人生に関わるものだからな。それでぼくのせいにされても困る。まあ、さなちゃんはしなさそうだけれど……それに、さなちゃんのお母さんはあの感じしなさそうな人だしな。と、勝手な偏見で気を許しているぼく。

「………………………………………………」

 ぼくは少し沈黙する。

 ………………………………音、音が聞こえる。それは一人の足音では無く二人の足音だ。一体誰の足音だろう。

「《――もーしもーし》」

「――もしもし」

「……で、どうだったの?まあ、分かりきって――」

「《うん、大丈夫だったよ。バッチグーってやつだよ!翠くん!》」

「……………………」嘆息するぼく。

「あの、さなちゃんのお母さんは本当に了解したの?何か、少し心配なのだけれども……ぼくはキミの、さなちゃんの保護者では無いけれども本当に大丈夫なの?将来の事とかさ」

「《私、頭良いもんっ!》」

 胸を張って言ってそうなさなちゃんを想像するぼく。

「……ならさ、悪いんだけれど、お母さんに変わってくれる?――いや、さなちゃんのことを信用していないって訳では無いけれどさ――ぼくのせいで――さなちゃんの人生を狂わせたくないからさ。ぼく一人のせいでさ。……だから、変わって欲しい……な」

「《うん。分かってるよ。翠くんが私のことを信用していることは。翠くんのことぜーんぶっ知ってるもんっ!だけれどね、例え、例え、私の人生が翠くんのせいで狂ったとしても歯車が動かなくなったとしても、ね。私は翠くんのせいにはしないよ》」

「……うん。ありがとう」

 ぼくはお礼を言った。

「《うん。じゃあ、変わるね》」

「《――どうも、おはようございます。さなの母です》」

「どうも、おはようございます。ぼくです。えーと、お久しぶりです」

「《そうねっ!と言うか一応、昨日会ったじゃない》」とさなちゃんのお母さんは笑う。

「……そうでしたね。それで、さなちゃんのお母さん。さなちゃんのお母さんは明後日のこと、どう思うのですか?」

「《――うん?私は別良いわよ。見た感じ成績も悪くなさそうだしね。それに、二日間休養しても良いと思い始めたところだからね》」

 ……?思い始めたところだね?今、さなちゃんのお母さんは今何て言ったんだ?ハッキリと聞こえなかった。

「――あの、さなちゃんのお母さん――」

「《その言い方喋りずらいわよね?だから、名前で呼んで貰えるかしら?》」

「………………名前ですか」

「《そう!名前よっ!》」

 両手でパチンっと叩く。

「……はあ」

「《ねぇっ!お母さんっ!何の話してるのっ!今っ!そんな話している場合じゃないよねっ!》」

 と、さなちゃんの声が少し怒りめで聞こえてきた。……ふうん。

「《あらあら、ごめんね。ツイねっ》」

「――それでお母さんとしてどうですか?」

「《そうね。さっきも言ったように良いわよ。本当に》」

「――そうで、すか。……分かりました」

「《――もうっ!良いでしょっ!変わってよっ!ママっ!》」と、さなちゃんの声。

「《あらあら、もう、さなったら、分かったわよう》」とさなちゃんのお母さんの声。

「《ごめんね。お母さんが》」

「いや、大丈夫だよ」

「《なら良かった……》」と一安心するさなちゃん。「《――うん。それで、話戻すけれども、その、って何才なのかな?》」

「……うん……。確か、五、六才だったような」

「《……ふうん》」

「――うん。それでさ。さなちゃん」

「《うん?何かな》」

「さっき、《構わない》とは言ったのだけれども、どうして、ぼくの家に来たがるの?――いや、攻めている訳では無いのだけれどさ。なんでかのかなーって思ってさ」

「《――えっ?……えっ、と……そ、の……》」

 何故かさなちゃんは狼狽をする様に途切れ途切れに話す。

「うん」と頷くぼく。

「《一人で心配かなーって思って何となくぅ?》」

「そう。まあ、明後日宜しくね」

「《うんっ!任されたよっ!》」

「じゃあ、時間は後でメールで送るから。それじゃあ。あと、……ありがとう」

「《……うん。いえ》」

 とプチリと切れる。

「…………………………」

 疲れたな。

 ぼくは携帯の電源を切りポケットの中へ入れる。

 ふう……とため息を吐く。



 さあ、終言そのものが終わりそうだから――始めようとするか。


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