第9話 戯れの仲
休憩時間も充分だと思い、リビングへ行き時計を見た。家を出るまで二時間後だから、まだ時間はたっぷりとあった。
そして
暴れて、
狂って、
はしゃいで、
笑って、
飛び跳ねて、
喜んで、
さっきまでの表情とは違い、可愛い女の子の様に見えた。
「へー、ここから眺めると何かいいね!」
ぼくは声がする方を見ると三階へと上がっていた。
「お庭もでか!やばすぎー」
佐々昏さんの顔が笑っていた。本当に子供みたいだな。こんなことで幸せな気分になるなんてなんか良いな。
ぼくにとって幸せはなんだろうか……
「ずるいなあ」
頬を膨らませこちらを見てきた。まるでその頬の部分をつついたらさぞかし、割れますよって伝えてるようなもんだ。
「うん……?ぼく自身、庭でやることは読書する時しかいませんからね」
「私、あまり読書しないからなあ」
少し怪訝そうな表情でうんと一人で頷く。
「案外、良いものですよ。そして、読んでいる時がまさに最高の気分になりますね。何て言うんだろう。現実逃避ですかね」
「ふーん。そう言えば
彼女はぼくの言ったことを無視してくるりと回りぼくに質問してきた。
「――え?」唐突の質問にぼくは一瞬にして刹那に答えた「――可愛い女の子ですよ?」
ぼくは本当のことを伝えた。
誰もが思うこと、
可愛い以外に感想は無い、
最初あった時、
彼氏がいるかと思ったが、いなかったらしい。
その時は結構驚きだったが、
今もだけれど。
「ふーん。それだけ?」複雑な気分になる佐々昏さんに疑問が残った。
「それだけです」
「ふうん。そう言えば翠くん。その大きな荷物はなんなのっ?」
リビングに置いてあった荷物に目をやり、一階に降りてきた佐々昏さんは興味津々に荷物の方を指を指した。
「あれは
「ふーん。中見ても良い?」
複雑な顔をする佐々昏さん。
「良いですけれど、食べ物しか入ってませんよ?」
「あー!!それ、前から気になってたけどその敬語辞めてよねっ!」
何故か指を指されながら怒られた。
「…………」
「一応私の方が下なんだし、それに学年は同じだからタメ口で良いのにっ!」
頬膨らませる佐々昏さんの顔を見てぼくはうんと頷いた。
「――分かった……」
ぼくはふと留学中の時に言われたことを思い出した。
有難い言葉に、ぼくは今でも感謝している。あいつのお陰で変われたんだから。と一安心していたら佐々昏さんは荷物の中を見ていた。
「うわ、お米とお肉とお野菜と飲み物と栄養食品とお菓子、その他諸々。その些江さんは結構多く届けてくれるんだね」
顔の表情がこわばっていたが徐々に顔の表情が曇っていく。それにぼくは疑問と思った。
「まあ、それで毎日料理をして作ってますから―ね―」あっ、ヤベッと思い言葉を失くした。
「す、すごい。私、料理やったことあるけど失敗してやってない。と言うか挫折して辞めた」
ガックリする佐々昏さん。
「ふふっ」と笑うぼく。
「何で笑うのよ」
佐々昏さんはムキになってこちらを見る。
「完璧な佐々昏さんでも苦手分野があるなんて知らなかったし、それに佐々昏さんのダメな点も知れて驚いているんだ」
案外ドジっ娘で可愛い女の子じゃないか。
佐々昏さんの顔が赤く染まっていて、プイってした。
「あ」
何かを閃き、さっきまで怒ってた表情から変わり、ぼくの方を見た。
「……その今日、友達とパーティーするんだけど、翠くんも来る?」
パーティー?パーティーってあれか?大人数でやる祝い物か?……いや、合っているはずだ。
うーん。だけれども何故ぼくを誘うとするのだろうか。
それともぼくの知っている人か?それは無いな。うーん。ならどうして?
「別にそれは構わないけれど、いきなり知らない人を呼ばれたら怒るんじゃない?」
「私は知ってるよ?」
「……いやそうじゃなくて佐々昏さんの友達――」
「―あ」
ぼくの言葉を遮り、《本当に忘れてました》の表情を浮かべ、口をポカンと開けた。まるで、図星だったかのように数秒空気が止まっていた。
「た、多分、いいと、思ゆ。と、隣のクラツだから、大丈夫だ、と思う」
何故か佐々昏さんは
それに……理由になってないことに気づいてないのも……?
「……そう」
「んで、そうなんだけど……」
彼女はムズムズ仕出しその言いにくそうに顔が赤くなった。
「翠くんの家でやりたいんだけど」
「……は?」
普通は佐々昏さんの家かその隣のクラスメイトの家でやるのが定番なのかと思ったんだけど。ここはそうじゃ無いんかと、ぼくは納得してしまった。
……間違って納得してしまった。
「……一ヶ所なら」
「うん?何かな?」
瞳を大きくして顔を近づけてくる佐々昏さんにぼくは耐え切れず目を逸らしてしまった。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………お手上げだ。
「……庭でなら?」
正直、ここで断って面倒事を起こしたくないから、それに庭でなら構わないと思った。
「うん!その予定だよ!やったー。なっちゃんと
佐々昏さんは一人で興奮し、騒いでいた。本当に笑ってはしゃいでいるように見えた。
その、四名がぼくの家に来る人なのか……、どういう人なんだろう。少しばかり気になった。
ぼくは赤の他人には興味を示さないが、今回パーティーに参加する出澄くん、駿我くん、彩華ちゃん、なっちゃんは全く持って赤の他人では無くなるであろう。
多分、今後関わっていく人達なのだろうと思った。
「うん、分かったよ」
「もう時間だから行こっか」
「そうだね」
「そう言えば翠くん。なぜ私のこと佐々昏さんって呼ぶのっ?呼び捨てでいいよっ?」
「いや、特に理由は」
「呼び捨てで良いのにっ」
何故か、名字で呼ばれることを嫌ったのかムキになっていた。その理由はぼくには分からず、首を傾げた。
「いや、それはちょっと」
数秒、躊躇わった。
「――だったら、さなちゃんで」
何故、ちゃん付けしたのかはあの少年もしていたからである。ただ、それだけで。なんの意味も無い。
「呼び捨てでいいのにっ」
後ろに手をやり顔を膨らませ笑顔を見せてきた。
それは本当に喜んでいる様子に伺える。
「……流石に誤解を生むから拒否」
「うん?」
「…………」ぼくは少し黙り込み、話を続けた。
「その隣のクラスメイトのなっちゃんと出澄くんと駿我くんと彩華ちゃんってどんな方なの?」
こんなぼくでもその後関わる人だからつい気になってしまったのでさなちゃんに聞いた。
特に深い意味は無く何となく、念のためだった。
「簡単に自己紹介するとなっちゃん
「そっか、優しい人たちなんだね」
その、四名。出澄くんに駿我くんに彩華ちゃんになっちゃんのことを聞いたが、あまり想像のつかない人達だった。
けっして、さなちゃんの紹介文が悪いという訳ではなく。ぼくの処理能力が遅すぎて鈍くて限界が来てリミットが来てパンクした。
「うん!」
「あ、そう言えば、朝食のお礼で」
チョコレートを渡した。チョコレートと言うよりは板チョコだけれども。なんでこのタイミングで渡したかは知らないがなんとなく今だと思い今渡した。
「チョコレート?」さなちゃんは首を傾げる。
「さっき、中を見ていた時にさなちゃんの目が光っていたから欲しいのかなって」
「うん、大好き。ありがとう」「――ね、学校にサボろうよ」
前かがみになり後ろへ手をやりこちらを見た。
「良いと思うけど、今回は反対かな。流石に二日目でずる休みをするのは……」
ぼくにとって学生という肩書きの優先順位はそれほど低くもないけれど、決して高いというわけでもない。さなちゃんの意見を賛成しようとしたが、二日目で不登校は流石のぼくでも抵抗があった。
「もう……分かったよ。学校へ行くよ……」
思ってたよりも無邪気なさなちゃんに驚いた。
当初よりも遥かに違って見える。
「うん」
ぼくとさなちゃんは学校へ向かい、何もなく普通に学校へ着き、いつも通り螺旋階段を上り歩いた。その時、ぼくはふと思った。
前までは嫌だったのが今では極普通に歩いていることに気がついた。慣れというものは怖いものだ。
初心の心忘れべからずはここで使う言葉なのかもしれないとうんうんと頷くぼく。その隣で首を傾げるさなちゃんだった。
「そう言えば、ここの階段は何で螺旋階段になってるんだ?」
さなちゃんは疑問気にこちらを向き首を傾げた。
「たしか、ここの校長が螺旋階段に憧れて?好み?でこの学校に作ったらしい」
まともな理由だけれども何かおかしな点がある。
「校長の趣味か……」
「その、趣味が生徒たちに反響が及んでここの入学希望者が多くなったらしいよ」
「へぇ……」
ぼくは真っ先にぼくはお断りだが、家から近いから嫌でもここになると言うやつだ。
「じゃあ、さなちゃんはなぜこの学校に入学したんだ?」
「んっ?家から近いからだよ」
だろうね。と言う表情が浮かんだ。
「そう言うもんだよね。やっぱり家から近い方が楽でいいよね」
「だよね!だよね!やっぱり長く寝れるのが一番だよね!」
「……うん。そうだね」本当は否定する予定だったがこの流れで否定すると会話のキャッチボールができないと思い肯定してしまった。
「うん?なにか変だよ?翠くん」
さなちゃんは首を傾げる。
「それはいつものことだよ。それがぼくのアイデンティティってもんさ」
なにを言っているんだ、ぼくは……と少し有耶無耶になる。
「ふうん」少し怪訝そうに見るさなちゃん。
「――あっ、ちょっと待ってジュース買ってくる」
さなちゃんは走って自動販売機へ向かう。
そしてお金を入れる。
「うん。じゃあぼくはこれで失礼するよ」と言いたいがぼくは言わなかった。そこまで鈍感なキャラクターでも無いし冷酷で無慈悲なキャラクターでも無い。
「―うん。待ってるよ」と言ってしまった。
さなちゃんはニコニコと笑いぼくの方へ来た。
右手にオレンジジュース。左手にコカ・コーラ。なんとも言えない組み合わせだ。さなちゃんって本当にジュース好きなんだな。二つも飲むなんてそれほど喉が乾いていたのか。「――これあげるっ!」とさなちゃんは左手に持っていたコカ・コーラをぼくに向けてきた。
「――え?……うん?」
「いいよ!あげる!」
「じゃあ、ありがとう」
ニコッとハニカムように笑っていた。
ぼくはさなちゃんが左手に持っていたコカ・コーラを右手へ移し替えた。
そして蓋を開け口元へ近づけ少し飲む。
最初のプシューと言う音には何度もやられ嫌な思いでしかないので毎回、口元へ近づけるか少し開けプシューと鳴った瞬間に蓋を閉めると言うやり方で事故を回避していた。
そしてやっぱり美味かった。原料は今でも謎とされているがスゲェもんを使っているんだなと判断する。
あいつなら、あいつなら多分、分かるかもな。電気が通っているところななんでもお分かりのあいつなら……
「
「うん?誰?」
「前にいた。知り合いさ。頭が良くてずっとパソコンの画面と一緒にいるヤツなんだよね」
「――ふうん?」
「ロサンゼルスにいた時のチームメイトみたいなものだよ。まあ、突然ぼくがいなくなって困っているとは思うけれども、連絡取れない以上謝れないんだよね……」少し俯くぼく。
「だったら戻ったらどうなの?土日とかに?それだったら――」
「――悪いけれどダメなんだ。必要最低限、ロサンゼルスの方には来たらダメだとか」
「うん?なんか、それおかしくない?些江さんは早く戻ってきて欲しいんだよね?だったら、何故ロサンゼルスに戻ったらダメなんだろう?」
あ、そういえば。と思い浮かんだが一瞬にして消え去った。
「えっとね。些江さんからはこう言われているんだよ。学生生活を少しでも楽しみなさい。とね。ぼくは最初何を言っているのだろうと思ったけれどだんだん分かってきたんだよね。何故か」
「ふうん」複雑な顔をするさなちゃん。
「あっちから連絡がこれば話すことが出来るんだけれどね」
「電話番号教えたの?」と首を傾げるさなちゃん。
「――いや?教えてないけれども?」
本当は電気が通っているところなら情報が取り出せれるなんて言えない。言ったら、逆に迷惑を掛けることになる。それに、《それって犯罪じゃない?》とか言われそうだしな。
「――なんでも知っているんだ。凄い人なんだね」
「まあね。ぼくが尊敬している一人さ。あいつには当分適わないよ。何やっても。あいつが十年寝て、ぼくが十年勉強したところで勝てれないしな。本当にすごいヤツだよ」
「翠くんよりも頭良いんだね〜」
何故かさなちゃんはニコニコと笑う。
「うん……そうだね」
ぼくはあいつに当分勝てれない。何をやっても何をしても勝てれない。
――それは、
――ぼくにとって、
――カノジョは、
――なりたかったものかもしれない。
――けれど、なれなかった。
――逆の立場から思考してみよう。
――カノジョにとって、
――いや、
――光にとって、
――どう見えていたのだろう
――本当に、終言なんだよ。
……全くだよ。
本当に今すぐにでも会いたいよ。おまえと……、今何しているんだろうな……
「……大丈夫?翠くん」
肩にポンポンとやり不安そうに見てくるさなちゃん。
瞳の奥にはぶるぶると震えていた瞳孔。そして、ものすごく綺麗な蒼色。
「大丈夫だよ。なんか急に会いたくなってね。まあ、当分会えないのだろうとは思うけれど、また会いたいな……」
「――いつかきっと会えるよ!」
両手でパチンッと鳴らした。
「そうだね。そうだよね」
ぼくはあいつに会えることを願って頷いた。
そして、ぼくは少しばかし昔のことを思い出していた………………。
「……………………………………………………………………………………」
「――どうしたのっ?翠くん」
「――あ、ごめん。職員室に行く用があるから行ってくる」
本当は一人になりたくて突然思い出した言い訳。だけれども、職員室に行く用事は本当だった。
半信半疑みたいなもので、半分本当で半分嘘だった。
「うん、分かった。じゃあ」
手を振ったのでぼくも手を振り返した。
クラスは同じだからすぐに会えるんだが何か悲しげにぼくの方を見るさなちゃんに同情は少しも出来なかった。
ぼくは足を進ませ職員室へと向かう。
「暑い……ぼくはアザラシなのだろうか」
まだ五月だと言うのに何故ここまで暑いのだろうか、疑問で疑問でしょうがない。考えるだけで頭が痛くなる。夏って嫌だな。そして冬も嫌いだ。何なら春夏秋冬、一つ一つ嫌いかもしれないな。
呟きながら職員室へ向かった。ここの学校に職員室が三組もあるとか聞いてねぇぞ。とため息を付いた。
職員室へ入ったら
「あの、一里塚先生。おはようございます」
メガネを外しこちらを方へ向き両目をパチパチさせ目を擦る。「んんー」一里塚先生は唸る。
「いーちゃん。おはよう。んで何かな?」
…………昨日、あなたが呼んだんだろう……。ぼくは少し肩を竦めた。
「昨日、学校に着いた時、先生のところに来てねと言ったじゃないですか」
「――あっ」……おい。
「悪いね、忘れてたわ。ごめんね。生きてるか確認のために来てもらったのよ」
口を手で抑えて笑い、手をひらひらさせながら言う一里塚先生。
「…………」
「あ、そうですか」
「ぼくは教室へ向かいます。それでは」
「バッハハーイ。バイバーイ!」とぼくに向かって言ってきたのか、ぼくはスルーし、職員室を後にした。
やることも終わったし、役目も果たしたし、その足でそのまま教室へ向かうか。
「……今日は六時間もあるのか。長いな……」と呟く。
ぼくは今日の予定表を見てため息をした。ずっと六時間だということに絶望を感じた。
なれてナレテ慣れてなりまくるしかないのか。
ぼくはまたもや螺旋階段を登り教室へと足を運んだ。
そして席に着く。
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