第8話 何も無いぼく

休憩時間も十分だと思い、リビングへ行き時計を見た。

家を出るまで二時間後だから、まだ時間はたっぷりとあった。

そして佐々昏ささくらさんはまるで宝物を探す子供みたいに……。

暴れて、

狂って、

はしゃいで、

笑って、

飛び跳ねて、

喜んで、

さっきまでの表情とは違い可愛い女の子の様に見えた。

「へーここから眺めると何かいいね!」

ぼくは声がする方を見ると三階へと上がっていた。

「お庭もでか!やばすぎー」

佐々昏ささくらさんの顔が笑っていた。本当に子供みたいだな。こんなことで幸せな気分になるなんてなんか良いな。

ぼくにとって幸せはなんだろうか……

「ずるいなあ」

頬を膨らませこちらを見てきた。まるでその頬の部分をつついたらさぞかし、割れますよって伝えてるようなもんだ。

「うん……?ぼく自身、庭でやることは読書する時しかいませんからね」

「私、あまり読書しないからなあ」

少し怪訝そうな表情でうんと一人で頷く。

「案外、良いものですよ。そして、読んでいる時がまさに最高の気分になりますね」

「ふーん。そう言えばすいくん。私のことどう思う?」

彼女はくるりと回りぼくに質問してきた。

「え?」唐突の質問にぼくは一瞬にして刹那に答えた「可愛い女の子ですよ?」

ぼくは本当のことを伝えた。

誰もが思うこと、

可愛い以外に感想は無い、

最初あった時、

彼氏がいるかと思ったが、いなかったらしい。

その時は結構驚きだったが、

今もだけど。

「ふーん。それだけ?」複雑な気分になる佐々昏さんに疑問が残った。

「それだけです」

「ふうん。そう言えば翠くん。その大きな荷物はなんなのっ?」

リビングに置いてあった荷物に目をやり、一階に降りてきた佐々昏さんは興味津々に荷物の方を指を指した。

「あれは些江さえさんから送られてきた食料品です。ぼく一人では何も出来ませんからね。最低限、洗濯や家事は出来るんですけれど食事の買い物は苦手なので、些江さんが送って来てくれているんですよ。まあ、料理は全部、ぼくがするんですけどね」

「ふーん。中見ても良い?」

複雑な顔をする佐々昏さん。

「良いですけれど、食べ物しか入ってませんよ?」

「あー!!それ、前から気になってたけどその敬語辞めてよねっ!」

何故か指を指されながら怒られた。

「…………」

「一応私の方が下なんだし、それに学年は同じだからタメ口で良いのにっ!」

頬膨らませる佐々昏さんの顔を見てぼくはうんと頷いた。

「――分かった……」

ぼくはふと留学中の時に言われたことを思い出した。

有難い言葉に、ぼくは今でも感謝している。あいつのお陰で変われたんだから。と佐々昏さんは荷物の中を見ていた。

「うわ、お米とお肉とお野菜と飲み物と栄養食品とお菓子、その他諸々。その些江さんは結構多く届けてくれるんだね」

顔の表情がこわばっていたが徐々に顔の表情が曇っていく。それにぼくは疑問と思った。

「まあ、それで毎日料理をして作ってますから―ね―」あっ、ヤベッと思い言葉を失くした。

「す、すごい。私、料理やったことあるけど失敗してやってない。と言うか挫折して辞めた」

ガックリする佐々昏さん。

「ふふっ」と笑うぼく。

「何で笑うのよ」

佐々昏さんはムキになってこちらを見る。

「完璧な佐々昏さんでも苦手分野があるなんて知らなかったし、それに佐々昏さんのダメな点も知れて驚いているんだ」

案外ドジっ娘で可愛い女の子じゃないか。

佐々昏さんの顔が赤く染まっていて、プイってした。

「あ」

何かを閃き、さっきまで怒ってた表情から変わり、ぼくの方を見た。

「……その今日、友達とパーティーするんだけど、翠くんも来る?」

パーティー?パーティーってあれか?大人数でやる祝い物か?いや、合っているはずだ。うーん。だけれども何故ぼくを誘うとするのだろうか。

「別にそれは構わないけれど、いきなり知らない人を呼ばれたら怒るんじゃない?」

「私は知ってるよ?」

「……いやそうじゃなくて佐々昏さんの友達――」

「―あ」

ぼくの言葉を遮り、《本当に忘れてました》の表情を浮かべ、口をポカンと開けた。まるで、図星だったかのように数秒空気が止まっていた。

「多分、いいと思う。隣のクラスだから大丈夫だと思う」

……理由になってないが。ぼくは敢えて無視をした。

「……そう」

「んで、そうなんだけど……」

彼女はムズムズ仕出しその言いにくそうに顔が赤くなった。

「翠くんの家でやりたいんだけど」

「……は?」

普通は佐々昏さんの家かその隣のクラスメイトの家でやるのが定番なのかと思ったんだけど。ここはそうじゃ無いんかと、ぼくは納得してしまった。

……間違って納得してしまった。

「一つだけなら……」

「うん?何かな?」

「庭でなら良いよ……」

正直、ここで断って面倒事を起こしたくないから、それに庭でなら構わないと思った。

「うん!その予定だよ!やったー。なっちゃんと出澄いずむくんと駿我すいがくんと彩華さいかちゃんに連絡しとく!」

佐々昏さんは一人で興奮し、騒いでいた。

その、四名がぼくの家に来る人なのか……、どういう人なんだろう。少しばかり気になった。

ぼくは赤の他人には興味を示さないが、今回来る出澄くん、駿我くん、彩華ちゃん、なっちゃんは全く持って赤の他人では無くなるであろう。

「うん、分かったよ」

「もう時間だから行こっか」

「だね」

「そう言えば翠くん。なぜ私のこと佐々昏さんって呼ぶのっ?呼び捨てでいいよっ?」

「いや、特に理由は」

「呼び捨てで良いのにっ」

何故か、名字で呼ばれることを嫌ったのかムキになっていた。その理由はぼくには分からず、首を傾げた。

「いや、それはちょっと」

数秒、躊躇わった。

「――だったら、さなちゃんで」

何故、ちゃん付けしたのかはあの少年もしていたからである。ただ、それだけで。なんの意味も無い。

「呼び捨てでいいのにっ」

後ろに手をやり顔を膨らませ笑顔を見せてきた。

それは本当に喜んでいる様子に伺える。

「流石に誤解を生むから拒否」

「うん?」

「…………」僕は少し黙り込み、話を続けた。

「その隣のクラスメイトのなっちゃんさんと出澄さんと駿我さんと彩華さんってどんな方なの?」

こんなぼくでもその後関わる人だからつい気になってしまったのでさなちゃんに聞いた。

「簡単に自己紹介するとなっちゃん事白柳夏未しらやなぎなつみちゃんとは幼馴染みで優しい人で誰にでも優しい人っ。そして岸城樹駿我きししろきすいがくんはリーダー的な人材で頼りになる人で困った時は聞きに行ってるっ。早代乃出澄さしろのいずむくんは信頼出来る人で中学からの知り合いで力持ちっ。弐華井彩華にしろいさいかちゃんはもの静かで話しかけずらい娘だけど、喋ってみると会話が弾み友達なったっ。優しよっ」

「そっか、優しい人たちなんだね」

その、四名。出澄くんに駿我くんに彩華ちゃんになっちゃんのことを聞いたがあまり、想像のつかない人達だった。

けっして、さなちゃんの紹介文が悪いという訳ではなく。ぼくの処理能力が遅すぎて限界が来てリミットが来てパンクした。

「うん!」

「あ、そう言えば、朝食のお礼で」

チョコレートを渡した。チョコレートと言うよりは板チョコだけれども。

「チョコレート?」

「さっき、中を見ていた時にさなちゃんの目が光っていたから欲しいのかなって」

「うん、大好き。ありがとう」

「ね、学校にサボろうよ」

こちらを見た。

「良いと思うけど、今回は反対かな。流石に二日目でずる休みをするのは……」

ぼくにとって学生という肩書きの優先順位はそれほど低くもないけれど、決して高いというわけでもない。さなちゃんの意見を賛成しようとしたが、二日目で不登校は流石のぼくでも抵抗があった。

「もう……分かったよ。学校へ行くよ……」

思ってたよりも無邪気なさなちゃんに驚いた。

当初よりも遥かに違って見える。

「うん」

ぼくとさなちゃんは学校へ向かい、何もなく普通に学校へ着き、いつも通り螺旋階段を上り歩いた。その時、ぼくはふと思った。

前までは嫌だったのが今では極普通に歩いていることに気がついた。慣れというものは怖いものだ。初心の心忘れべからずはここで使う言葉なのかもしれない。

「そう言えば、ここの階段は何で螺旋階段になってるんだ?」

さなちゃんは疑問気にこちらを向き首を傾げた。

「たしか、ここの校長が螺旋階段に憧れて?好み?でこの学校に作ったらしい」

まともな理由だけれども何かおかしな点がある。

「校長の趣味か……」

「その、趣味が生徒たちに反響が及んでここの入学希望者が多くなったらしいよ」

「へぇ……」

ぼくは真っ先にぼくはお断りだが、家から近いから嫌でもここになると言うやつだ。

「じゃあ、さなちゃんはなぜこの学校に入学したんだ?」

「んっ?家から近いからだよ」

だろうね。と言う表情が浮かんだ。

「あ、悪い。職員室に用があるから行ってくる」

「うん、分かった。じゃあ」

手を振ったのでぼくも手を振り返した。

クラスは同じだからすぐに会えるんだが何か悲しげにぼくの方を見るさなちゃんに同情は出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る