第5話 佐々昏さなと下校時間
――彼女と話していたらあっという間に昼休憩の時間が経っていた。残り……五分か……、
その後、彼女と一緒に昼休憩を終え、残りの授業も受け、下校時間となった。
「……やっとか」
大きくため息をして外を眺めると、部活で頑張ろうとする人や急いで走り去っていく生徒やゆっくりと歩いて帰ろうとしている者もいた。
この学校は部活に所属しなくても大丈夫らしい。
まあ、部活に入っておいた方が今後のためにもなると言うやつで、就職や進学の時に有利になるということだ。
まあ、ぼくには関係の無い事だからな。
だけれど、学校生活を楽しむなら入部すべきか?
それに、こんな時期に入ろうと思う人はさぞかしいないであろう。
本当にどうしよう。
決めることは苦手、決めると言うよりは選択するのが苦手だ。
例えで言うなら、ぼくの命か、親友の命、どちらかを選択しろと言われたら……、考えたくもないし、聞きたくもない。あの人からも曖昧主義と良く言われたものだ。
それに留学してる時も友人から言われたものだ……。
ぼくは、いったい何が……、
ふと、外を見たら恋人たちが喧嘩していた。
喧嘩するほど仲が良いと言うけれど仲が良いなら何故喧嘩するんだ。喧嘩するから仲が悪いんだろうと思っていた。
だが……、
……いや、そうじゃなくて……、
喧嘩して相手の悪いところを言い合って成長させる……こういうことなのだろうか。
……恋愛って本当にわからん。
ぼくは机に肘を着き、ため息をした。
「ねえ、翠くん。一緒に帰ろう?」
いきなり目の前に現れたのは佐々昏さんだった。少し驚いた。
ぼくの机の目の前でしゃがんで少し首を傾げ言ってきた。
気配を消すのが得意なのだろうか。
ニコニコとこちらを見てくる。
「いや、遠慮しておきますよ。すみませんけれど……」
「なんでっ!?」佐々昏さんは少し強めの口調で言ってきた。
「寄る予定も無いんでしょう?」
「まあ、無いと言ったら無いですけれど。ぼく、独りで居るのが好きなんですよね。それに、親友と帰りたいしな」
「……親友って誰なの?」
「……ぼく。自分自身。親友って付き合いが長い人のことを言うとぼくは訊いたんですよね」
「……それはさすがに無理があると思うけれど」
少し困惑した表情を見せこちらをチラチラ見てくる。
「そうですかね。ぼくはそうと思っていますよ」
よく見ると佐々昏さんの瞳にはもう涙が出ますよというアナウンスが流れた。これはぼくとしては見たくない光景だ。だから……でも、やっぱり。
「帰ってもやることないし、それに学校生活は三年間だ。今のうちに楽しまないといけませんからね……」
「楽しんでるようには見えないけど……?」
この女、よく見てるじゃないか。
「まあ、否定はしませんけど……」
そっぽを向いた。
「まあ、ここにいるのもあとわずかですからね……」
「え、転校するのー!」
「いや、転校じゃなくて留学です。ここのやり方だと留学の時は休学扱いになってしまいますからね」
「留学?なんで、もうしたんじゃ?」
「ここに来た理由は用事があって、戻って来たんです。その用事が済めばここにいる必要も有りませんからね。だから―」と、何も言えなかった。何故か佐々昏さんの前なのか、十全も言えなかった……。何でだろうと少し考えたが思いつかなかった。
「そう……なんだ」
「そうです。だから、今の時間を大切にしようと思い、学生の気分を思う存分残しておきたいんです……」
「だけど、そのまま何もせずに人を見てても何も意味が無いよ。まるで、傍観者みたいだよ」
……傍観者か。
「否定はしませんよ。よく言われましたからね」
数秒沈黙が続いた。
「なら、学生の思い出を作りたいのなら、何かに参加したらどうかなっ」と佐々昏さんは両手でパチンとやり、思考を整理したらしい。
「まあ、そうですね。悪くはありませんね」
「思い出ならやっぱり、部活や体育祭や文化祭、誕生祭かな」
……誕生祭?誰の誕生祭だろう……?
「その最後に言った誕生祭とはなんですか?」
「この学校が建てられた日に行う祭だよ。つまり、設立記念日みたいな感じかな」
佐々昏さんにも十全丸ごと分かってない口調で喋ったが、嘘を言っているようには聞こえなかった。
「ふうん」
それも来年、再来年もあると大変だなあ。
「ちょっと考える必要がありますね。何も分からないまま戦場に出たく無いですからね。つまり不慣れな人ほど気をてらうってことですかね」
佐々昏さんは腕を組みふむふむと頷いた。
「さあ、どうしたものやら」
手の平を太陽の方へ向け少し考えた。
「よしっ」と言い、立ち上がった。
「んで、話を戻しますと……、」
ぼくは佐々昏さんの方へと体を向けたが、佐々昏さんはぼくの行動に疑問となり首を傾げた。
「……元々ここに来る前、高校は決まっていたんですけれど、色々あって高校入学を拒否しまして、いや、入学拒否と言うか少しはいたから自主退学か……、それで留学をしたんです。それで日本に戻って……、もう一度試験を受けたんですよね」
「ってことは私の一個上ってこと?」
「まあ、そうなりますね。本当は二年生なんですけれど、何故か一年生の方へ送られたんです」
「先輩なんだ……これ、黙っておいた方がいいよね?」
「まあ、黙っておいてくれた方がありがたいです……。まあでも先生たちは知ってると思いますけれどね」
外を見たら先ほどよりも少し暗くなっていることに気づき、目線を時計に合わせたら十八時を過ぎていた。
そろそろ帰ろうかな。
窓を開けてたせいか枯葉が教室に入ってきて冷たい風がぼく達を冷やかしてきた。
「帰るか」 「私も!」
バックを持ち教室を出て、靴を履き学校を出た。
「ねえ、翠くんってどこに住んでるの?」
「すぐ近くですよ。一応、一軒家で結構目立つところに住んでますね。一人暮らしなんですけどね」
「え!? 一人暮らしー!? 凄くない!!!」
興味津々に目を光らせていた。
子供が当たりカードを出した時みたいに、はしゃいでいる。
「今はですけれど、ぼくを拾ってくれた人は今は海外にいるんです。だから、今は一人ですね」
「優しい人だね。その、翠くんを保護してくれたその人」
ニコッとぼくの方を見る。
「……そうですね。本当に優しい方です。その方にも感謝しないといけませんからね」
何故か涙が零れてきて、拾われた時の事を思い出した。
「――ねぇ、キミ。家に来ない?」
「――?」
「――あなたは誰ですか?」
「私は――あなたを助けるものよ……」
段々、声が訊こえ……
「――翠くん!」
「すみません。ちょっと昔のことが急に思い出してしまい……、」
「……翠くん……涙」
心配そうに不安気にこちらを見てきた。ぼくは首を振って「…………うん」と言い間を開けた。
「あの時の事を思い出したら何故か涙が出たんですよね」ぼくは説明しつつ涙を拭いた。
「私には分からないことだなー。両親にずっと育てられ、それが一般的常識だと思っていた。だけれど違う環境もあるんだなって……」
「だから、普通に育てられてきた人の気持ちはぼくには分からないんですよね」
「その、翠くんは私達のことを恨んだりしないの?」
「うーん。どうでしょうね。正直に言うと、恨む理由は無いので、ぼくが恨むとしたらこの世界の
それがどう言う意味に捉えるかは分からないけれど、多分分からないだろう。
「……うん?」首を傾げた佐々昏さんだった。
「――あ、ここになります」
ぼくは自分の家を指す。
彼女はぼくの家を見て目を大きく見開いた。
「え!でかくない。これ、やばいでしょっ!」
ぼくの方へ目線を変え指を指してる方向はぼくの家だった。
「一応、四階建てですね」
「あの、一人暮らしにはでかすぎない?」
首を傾げた。
「まあ、でかいですね。でかすぎて困ってますね。掃除が一番大変ですね」
「良いなあー! 一人暮らし出来て、もう自分の好きな時にやりたい放題じゃん!」
手をグーにして上下に動かす彼女。
「そうではないですよ」
「あ、気になるなら、家に来ます?」
「ねえ、それって私を誘ってるの?」
ニヤッとしていたが意味不明で無視をした。
「いや?」
「鈍感……」
何故か頬を赤くして何かを言ってきた。
「なんか言いました?」
「いや、何でもない!」
頬を膨らませプイッとした。
「どうします?」
「遠慮しておきます! じゃあ、私帰る!」
子供みたいにムキになって言う佐々昏さん。
「そうですか」
「家まで送りましょうか?」
「いや、いいよ。今日はありがとうね」
悲しげな表情に変わり、何かを求めていた感じがした。
「それはぼくのセリフです。ありがとうございます。今後ともクラスメイトとしてよろしくお願いします」
「クラスメイトじゃなくてもう、友達だよ」
ニコッと笑い、言った。
「友達か……、」
「じゃあ」
「さようならです」
ぼくは手を振って別れた。
佐々昏さんは急いで帰路の方へと向かって行った。見えなくなるまで手を振った。
ぼくが出来ることはここまでだと分かった。分かっていた。
……そうか、友達か、悪くない響きだな。けど、ぼくに相応しくない呼符だだった。
ぼくにとって初めての友達。
それに、何でそこまでぼくに優しいんだろうか。
はしゃいで、
笑って、
暴れて、
弾んで、
楽しんで、
喜んで、
怒って、
悲しんで、
謎が多すぎる。
佐々昏さなさん。
訊かせて下さい。
あなたはぼくにとって何ですか?
それにぼくにとってあなたはなんですか?
教えてください……。
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