第3話 佐々昏さなとぼくの昼休憩

 キミはいったい何もの何だい?教えてください。

 名前を持たない人をなんと言うか、それはぼくには分からなかった。

 誰にだって名前はあるはずだ。

 物にだってあるはずだ……、

 ならぼくは一体……何者なんだい?






 ぼくは佐々昏ささくらさんがいる屋上へと向かい、扉を開けたら佐々昏さんがいた。

 佐々昏さんだ……

 ぼくは、

 今日、

 今、

 この時、

 一瞬、

 佐々昏さんのことを美しい思いました。


 ……――多分。


「あ、キミ遅いよー」

 頬を膨らませてぼくに怒ってきた。

「まあ、色々とありまして……」

「どうせ、男子達に目をつけられて追いかけられそうになったでしょ?」

 ニヤつきながらぼくの方を見た。

 はい、そうです。と言わんばかりに良くご存じで。

「……まあ」

「まさしく、因果いんが応報おうほうだね」

 クスクス笑う佐々昏さんだった。

「……そうですね。因果の誤り、post hoc ergo propter hoc.ですね」

「うん?その、英語みたいなの何なの?ポスト……ホック……エルゴ……プロプテ……ホック……」カタコトで言おうしとしたが上手く言えずガックリとして、佐々昏さんは首を傾げた。

「えーと、ラテン語です。日本語に直すと前後ぜんご即因果そくいんが誤謬ごびゅうですね。つまり、自業自得です」

 説明しつつ、佐々昏さんの隣に座り間を空けながら座った。

「空いてるよ?」

 ポンポンとやり、ぼくの方を見た。

 いや……、拒否したい。

「……いや、まあ、ちょっと――」

「じゃあ、私が」っと。

佐々昏さんはなんの躊躇ちゅうちょも無く、ぼくの隣に座り、間もなく、くっついてきた。

「ラテン語か……私全く分かんないや、うーん何て言うんだろう、こういうの得意なの?」人差し指を顎の部分にやり疑問気に首を傾げる。

「……いえ、そう言う訳ではありません。まあ、その昔に英語、中国語、ラテン語、ポルトガル語、イタリア語は覚えさせられましたからね。あれは本当に大変でした。今はそんなには覚えてないんですけれど、やっぱり日本に滞在していると、ほぼ日本語しか使いませんからね」

 佐々昏さんはポカーンと口を開いていた。

「す、凄いとしかもう言えないよ」

 目を光らせて、《あなたは神様ですか!?》と言う表情で近づいてきた。

「あ、ありがとうございます」

「うんうん。あっ、その話変わるんだけれど、キミの弁当の中身美味しそうだね」

「食べます?これ全部ぼくが作ったやつです」

ぼくは弁当を佐々昏さんの方へ近づけた。

「もう何も言えないよ……」と数秒動きを止めぼくの方を見た。「あっ」と言い目を覚ました佐々昏さん。

「良いの?その、減っちゃうよ?それに途中でお腹空かない?」何故か佐々昏さんに心配されるぼく。

「草食なので大丈夫ですよ」

「……そう。なら」と言い、たまご焼きを取って口へと運んだ。

「うんん!?美味しい!やばい……」

「何回も挑戦していたら美味く出来ました。もう一ついります?」

 美味しそうに食べていたのでもう残り一つを佐々昏さんに譲ろうとしたが、佐々昏さんはんーんーと言って首を横に振った。

「あ、お礼にこれあげる」と言ってタコさんウインナーが弁当箱の中へと置かれた。

「ありがとうございます」

「キミ、本当に何でも出来るんだねー。弁当も作っちゃうとか本当に凄いよ。女子なら兎も角、男子だからね。男子が弁当作るとかカッコ良すぎだよ」

 佐々昏さんは足をパタパタさせながら言った。

「佐々昏さんも練習すれば出来ますよ」

「うーん。私料理するの苦手なんだよね。何て言うんだろう、料理に構わず飽き性何だよね私」

「ぼくもそうでしたよ。苦手でした。男何だから作ってるのが恥ずかしいって思ってましたから。それに、ぼくも飽き性何ですよね。だけれど癖が付いちゃって自然に作ってるんですよね」

「癖かー」佐々昏さんは手を伸ばした。

「余計なお世話になるかもしれませんが、料理が出来る女子だと良いお嫁になれますよ。それに佐々昏さん、美人ですし」

 佐々昏さんは少し戸惑い顔が赤く染まっていた。食べ物が熱かったのだろうか、多分違うだろう。

「なら、キミのお嫁さんになる!」

「――え?」

「冗談だって!真に受けないの!」

 佐々昏さんに背中をポンポンと叩かれた。本当に冗談だったらしく満面な笑みで言った。

「あ、いや。そう言う訳では……」

 本当は真に受けてませんってことは言えない。けど、少しだけ抵抗したい気持ちがあった。

「嘘でも正論を持ってこない!」

「あ、はい」あれ、ぼく怒られている……?

「あれ、ぼく。今説教されてます?」

 佐々昏さんに問う。

「説教したつもりは無いけれど?」

「……そうですか」

「私、何か悪いことしたかな?私的にしていないつもりだったんだけども……?」

 うん……?何故か、心配されてこちらを見てくる佐々昏さん。いや、そう言う訳では無いが、あの、こちらをそんなに見るの辞めてほしいんですけれど。一応、ぼくも男ですから……その辞めてください。けど、本人には言えない。言えなかった。

「いえ、こんな感じ久しぶりだなって思いましてね」

「……うん?」キョトンと首を傾げる佐々昏さん。

「あまり気にしないで下さい。単なる終言しゅうげんに過ぎません」

「……うん?しゅうげんって何?」

「あ……此処では使わないんだ。……まあ簡単に言うと終わった事実ですかね。まあ、あっち側で勝手に造られた言葉ですけれどね」

「あぁーだから聞いたことの無い言葉だったんだ」

 あっさりと納得したようだ。

「……多分?」とぼくは終言抜きで答えた。

「頭いいねー。凄いよー」

「うーん。だけれど佐々昏さんも頭が良いって聞きましたけれど、それにこのガッコ一の優秀美人だとか」

 一里塚先生が言っていたことを少し変えて佐々昏さんに言った。

「うん……」と少しうなる佐々昏さんだった。

「その呼称みたいなの嫌なんだよね。私だって好きでその呼ばれ方されている訳では無いし」

 少し不満そうに愚痴る佐々昏さんだった。それはその人にしか分からない感想に過ぎなかった。その言葉を一般である人に聞かれたら、さぞ恨まれるであろう。

 だが、少しばかりその気持ちは何となく分かった気がする。

「その気持ちは分からなくも無いですけれど……」

 否定したい気持ちがあるが出来なかった。

「……ありがと」ニコッとこちらを見てきた。

「あっその、キミは私が料理出来たら何かしてくれる?」

うん……?

「ぼくに出来ることがあれば何かしますよ」

「やったー」と言い両手でパチンと音を鳴らした。先ほどの曇っていた表情が明るくなった。

「約束だよ!絶対!」

 本当に子供可のように喜んでた。それはテストで良い点数を取ったらご褒美をあげるよと同じことだ。

「はい、約束です」

「そう言えば、何ですけれど佐々昏さんって何が作れるんですか?」

「うーん。目玉焼きぐらい?それとおにぎりかな」

 これは……と少し沈黙した。

「が、頑張りましょう」

「キミ!低学レヴェルかと思ったでしょー!」

 グイグイ押し寄せてくる佐々昏さんだった。

「いや、そのなんて言うか、凄いなあと初めての人にここまで言えるとは思わなくて、それに異性に向かって……」

「私だって恥ずかしいよ。友達に話すのにも苦労するんだからさ」

 少し顔を赤らめて答えた。

 だったら何故ぼくに普通に話したんだ。と少し思考した。

 だが、分からなかった……。

「……そ、そうですか」

「うん……」佐々昏さんは横目でぼくを見る。

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