誰にも渡さない

代永 並木

第一話

何も見えない、目を開けているのに真っ暗で何も見えない

電気をつけようと動こうとするが動けない


「何だこれ? ……縛られてるのか?」


恐らく椅子に縛り付けられている

両手が背もたれの後ろで縛られている

なぜだ?

記憶を探る……意識を失う前何をしていたのかを思い出そうとする


「おや? 起きましたか」

「誰だ!」


誰かの声がして俺は叫ぶ


「さて、誰でしょうか」

「これはなんのつもりだ?」

「ふっふふ〜、なんのつもりでしょうか?」


顔は見えないが笑っているのがわかる

まじで誰だ?

声の主の事が分からない

声からすると少女だろう

そして自分がなぜこの状況にいるのかも全く分かっていない


「私は正真正銘貴方の知人です、そして貴方を誘拐しました。何故? それはですねぇ」


誘拐犯は勿体ぶる

知人?聞いたことがある声だが誰か分からない


「早く解放しろ」

「すぐ解放するんじゃ誘拐した意味ないでしょ? 馬鹿なんですか? 馬鹿ですよね? 馬鹿ですね」

「ウザイ」

「それは酷い、よっとお邪魔しますよ〜」


足に何かが乗る

足に体温並の熱を感じ声が近くに聞こえる


「何してる?」

「何でしょうか?それより少しうるさいです」


足に激痛が走る


「ぐっあ……」

「少し静かにしてください。わざわざ口をフリーにしたのはその為じゃないんですよ〜」


感覚からして恐らく刺された

刺したのはナイフのようなものだろう


「はいはーい、黙りましたね……では」


耳元に息がかかりくすぐったい

突如口が塞がれ口の中に何かが入ってくる

固体だ

口を塞いでいた何かが離れ声がする


「さて、何が入ったでしょうか?」

「……チョコか?」


これ自体は恐らく食べたことは無いが似たような食べ物を知っている


「正解でーす。チョコレートです」

「……今日は確か」

「バレン〜〜タイ〜〜ン〜〜で〜す!!」


ハイテンションで喋っている

誘拐犯の身体が動く度振動で傷口が痛む

最後の記憶から日は経っていないようだ

いや、まぁ1年経ってるって言われたらあれだが


「で?」

「で? とは冷たいですねぇ。まぁいいですが……好きです付き合ってください!」

「断る」

「ですよね〜でも貴方に拒否権は無い」


いきなり声が低くなる

急に悪寒が走る


「今の状況分かってますよね? 別に悪くない提案だと思いますけどねぇ……私見た目結構良いって評判なので、それに私が浮気する事ないですし」

「いきなり誘拐してナイフ刺してくるような奴とは付き合いたくないんだが」

「誘拐したのは親衛隊の目を欺くため、刺したのは痛みって記憶し易いのでこの出来事を忘れないように……脳裏に刻む為、そうすれば貴方は恋人を作れない。痛みとこの恐怖で」


一生自分以外の恋人を作らせないためかよ怖いなぁおい……それより親衛隊って確か


「お前、結か?」

「気付かなかった?」


結とは天羽結という同じクラスの人気者

男子人気ランキング第1位、学校一の美女

俺は結とは中学時代からの知り合いで仲良いかと言われたら仲良いと思う

中学時代から人気だったが高校に上がってから親衛隊なる者達が現れた

俺が結に気づかなかったのは口調とテンションのせいだ、結は敬語を使ってはいたが語尾を伸ばすことは無くこのレベルのハイテンションで話す所を見たことがなかった


「はいはーい、時間ですのでまた後で、気が変わっている事を祈りまーす」

「おい、解放しやがれ」

「嫌でーす」


俺の上から降りて歩いていく

扉を開いた音がしたので叫ぼうとすると何かが頬を掠める

真後ろが壁だったらしく壁に頬を掠めた何かが突き刺さる


「解放? しないよ貴方を誰にも渡さない」


また低い声で言う、学校の時ともさっきまでの声とも違い恐ろしい恐怖を覚える声だ

結は部屋から出ていく

静寂が部屋を包む

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰にも渡さない 代永 並木 @yonanami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ