第46話 碧の過去

 ―――

 ボクは18年前、ロシア人の父と日本人の母の間に生まれた…………らしい。

 というのも、ボクが生まれて間もなく父と母は離婚して、ボクはそれ以来母と日本で暮らしていたからだ。離婚の理由を母はボクに話そうとはしなかったが、態度から察するに不倫とか、そういうことなのだろうと思っている。


 ボクたち家族はせまいアパートで二人きりで生活していた。母はそんな、たった一人の娘を愛する…………ことはしなかった。

 特に、母はボクの容姿が気に食わなかったようだ。見るたびに父を思い出させるから。


『その髪の色、目の色、すべてが気持ち悪い! ずっとあなたと一緒にいなくちゃいけないと思うと吐き気がするわ!』


 「気持ち悪い」は、ボクに対する母の口癖。母はパートで稼いだお金でボクを養うのがぎりぎりの生活で、ストレスの向く先はいつもボクだった。


『あおいちゃんって、なんでみんなとちがうの?』


 幼稚園でいっしょに遊んでいた友達の無垢な一言は、ボクの心に刺さってずっと抜けなかった。母のボクに対する態度もあり、ボクはしだいに自分の見た目が嫌いになって、それから、自分自身が嫌いになっていった。

 それでも、ボクは耐え続けた。鏡はできるだけ見ない。周りの視線を感じないように下を向いて歩くようにした。


 しかし、小学3年生のある日のこと。


『碧ちゃんの髪ってきれいだよね! 眼も透き通ってて宝石みたい! いいなあ、私も碧ちゃんみたいな見た目に生まれたかったなあ…………!』

…………生まれたかった…………?』


 ボクは、気がついたらその子を殴っていて、静まり返った教室にその子の泣き声だけが響いていたことを覚えている。

 その子に悪意がなかったことはわかっていた。わかっていたからこそむしろ、許せなかった。何も知らないくせに、と心の中は怒りでいっぱいになっていた。


 この一件でボクは別の小学校に転校することになった。


『お前のせいで私は向こうの母親に何度も何度も頭を下げて、赤っ恥かかされたのよ! いるだけで目立つんだから、学校では大人しくしてなさい!』


 母はボクの味方ではなかった。むしろこの一件の後、母のボクに対する態度はより厳しいものになっていった。

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