第44話 最後の依頼人
授業をこなし放課後、部活に行く撫子ちゃんたちと別れたわたしは家への帰途についていた。
学校でのことを早くアオイに伝えたい。わたしは無意識のうちに早歩きになっていた。そうだ、明日はやっぱりアオイも学校に連れていこう! リボンを見たところ1年生だった気がするから後輩だけど、みんないた方が楽しいし。
考えているうちにわたしは家にたどり着きドアを開けようとする。
「あれ? 鍵がかかってる」
チャイムを押しても反応がない。しかたなく鞄から鍵を取り出してドアを開ける。
「アオイー、ただいまー…………」
リビングは暗くて、アオイの姿は見えなかった。
「出かけてるのかな? 依頼の準備もあるとか言ってたし…………ん?」
わたしは机の上に書き置きを見つける。
「えっと、なになに? 『午後9時、学校の屋上に来てくれ アオイ』…………。これ、今日の依頼人と会うってことだよね…………? なんで公園じゃないんだろ? 時間も遅いし…………」
わたしは、何かいつもと違う雰囲気を感じる。でも、アオイがそう伝えてきたなら行ってみるしかない。わたしは9時まで待って、また今帰ってきた道を戻って学校に行くことにした。
***
午後9時前。わたしは学校の正門前まで来ていた。
「よっ!」
この時間になると生徒も職員も残ってないので、わたしは閉鎖された門を飛び越えて敷地に入る。そして。
「お、空いてる空いてる」
一階の窓で空いてるところを探して建物の中に忍び込む。…………自殺しようとした日に使った手と同じだけど、あの時は切羽詰まってたから何も感じなかったのに比べて、今は別の意味でハラハラしている。見つかったら怒られるよなー、これ。
階段を登る。あの時は、まるでそれしか進む道がないかのように思えた、階段。あの時のわたしは、死ぬことしか頭の中になかった。
でも、今は違う。アオイに出会って、いろんな人の後悔を知って、わたしは前向きになれた。前に進む勇気をもらった。失った居場所も今日、取り戻せた。
だから、今度はわたしが、この先にいるであろう後悔をもった人に、勇気を与えてあげたい。
「よし…………」
心を落ち着かせて、わたしは屋上に出る扉を開ける。
「…………あれ? 誰もいない…………?」
パッと見た感じでは誰も見えなかった。
「アオイー? アオ…………うわ!」
わたしがアオイを探してキョロキョロしていると、急にアオイが目の前に現れた。
「アオイ…………どこに隠れてたの? おどかさないでよもー」
わたしはさらにあたりを見回す。
「あれ…………? えっと、依頼人の人はどこ?」
「目の前にいるよ」
「え? 見えないけど…………」
「いいや、目の前にいる」
「えー? どこにもいな…………。 !」
目の前って…………。まさか。いや、でも…………。
「今、キミが考えているとおりだ、アカネ」
わたしは目を見開く。
「ボクが依頼人のアオイ…………久米川碧(くめがわあおい)だ」
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