第26話 紺色の相棒
その後、わたしたちは週末まで特訓をし、ついに秋津くんがチームメイトのみんなに送った約束の日である日曜日、集合場所であるグラウンドの脇にわたしたちはいた。
「あと30分もすればみんなが来るはずだ」
「うん。とりあえず、わたしたちは全員がそろった後にバーンと登場する感じでいいかな。そうしないとカオスになっちゃいそうだし…………」
「おう。なんか、緊張してきたな」
「わたしも緊張してきた…………。ところでまだ聞いてなかったけど、秋津くんはどんな文章でみんなをここに呼んだの」
「あ、ああ。見ていいぞ」
わたしは秋津くんのアカウントでログインしているアプリを開く。
『野球部、日曜午後2時に〇〇グラウンドに集合! 俺からの、最後のメッセージがある! p.s.全員グローブとミットを持ってくること!』
「ええと…………きっと驚いただろうね、みんな……」
「いや…………結局言いたいことは直接言いたいっていうか、そうするべきだと思って…………」
「そっか……うん。秋津くんがそう思うならたぶん、それできっと、いいんだと思う」
わたしは手に握っているボールをぎゅっと握る。
「わたしの頑張りが重要なわけだ」
「ああ、頼んだ、伏見」
「シュウヤ、アカネ。どうやら一人目が来たらしい」
「!」
わたしたちは隠れつつグラウンドの方を見る。
「大和……俺の後輩だ。髪、伸びてるな。まあ、3年もたってるから当たり前だけど……」
また一人、グラウンドに現れる。
「八坂……俺と同じクラスだった。あんなに変わって…………」
秋津くんは懐かしさを感じつつも、寂しそうな表情(カオ)をする。
「すごい…………。続々と集まってくる。」
グラウンドはガヤガヤし始め、人はどんどん増えていく。
「22、23…………24人。秋津くん……!」
「全員、来てくれたのか。本当に……!」
秋津くんは目を細める。
わたしはふー、と息を吐いて緊張を解く。今までは対面するのは一人か二人だった。でも、今回対するのは大人数だ。心臓の音が速くなる。
「アカネ。そろそろ約束の時間だ」
「うん…………」
「よろしく頼んだ! 伏見」
「うん…………」
大丈夫。わたしならできる。
「行くよ、二人とも」
***
ザッザッ…………。
わたしたちはグラウンド歩いてグラウンドに向かい、立ち止まる。
「皆さんが、秋津くんの元チームメイトの皆さんですね」
わたしは精一杯の強気で話し始める。
「お前らか? 秋津の名をかたって俺たちをここに呼び出したのは。どういうつもりだ?」
「そうだ! どんな手を使ったのか知らないが、先輩のふりをして呼び出すとか、ふざけてるとしか思えねえ!」
「っ…………」
わたしはヒートアップする怒号にひるんでしまう。
「みんないったん落ち着け!」
その時、一人が声を上げる。
「江古田……」
他のチームメイトに、その人はそう呼ばれた。そっか、この人が、秋津くんとバッテリーを組んでた相棒、江古田紺さんなんだ。
「君たちはどういう目的で朱也の名前を使って俺たちを呼びつけたんだ? 説明してくれ」
わたしは、ここに至るまでの経緯を話した。わたしとアオイが死者の未練を断ち切る
「そんな話、どうやって信じろってんだ?」
「だいたいお前らには秋津が見えてて俺らには見えねえっていう理屈がわからねえ!」
またわたしに向かって敵意が飛んでくる。
「わたしの……話を…………」
私の声は20人の声量にかき消されてしまう。江古田さんは難しい顔をして黙りこんでいる。アオイは苦虫を嚙み潰したような顔でわたしの横に立っている。必死に叫ぶ秋津くんの声は、チームメイトのみんなには届かない。
だめだ。やっぱり大勢相手じゃ、敵わない。一体どうしたら。どうしたらいいんだ。わたしは泣きそうになる。悔しいっ! あんなに頑張ったのに、わたしは…………。
「君たち待ってくれ! その子たちの話を聴いてくれないか!」
その時、後ろから声が聞こえる。
「…………父さん」
そこにいたのは、秋津くんのお父さんとお母さんだった。
「どうして…………」
わたしは自信のなくなったか細い声で問いかける。
「こんなこともあるかもってね。アオイさんに言われて来てみたのよ」
お母さんが答える。アオイは口の端に笑みを浮かべる。
「江古田くん。みんな。私達も最初は信じられなかったが、この子の言っていることは本当だ。私達は確かに朱也と会話をしたんだ。どうか話を……聞いてやってくれないか?」
お父さんが頭を下げる。
「頭を上げてください…………おじさんに頭を下げられたら、聴くしかないですよ」
江古田さんの言葉をきっかけに、他の人たちも静かになる。
「秋津くんのお父さん……ありがとうございます。」
わたしがお礼を言うと、お父さんは笑顔で返す。
「でも、おじさんの言葉だけじゃ俺たちは信じられない。何か、証拠を見せてくれないか?」
江古田さんが言う。
「はい。江古田さん、わたしの球を受けてください」
周囲がざわつく。わたしはまっすぐ江古田さんを見る。
「わたしはこのために一週間、秋津くんに教わりながら必死に練習してきました。わたしの球を受けて何も感じないのであれば、帰っていただいて構いません!」
江古田さんは少し考えた後、息をふう、と吐く。
「いいだろう。君の球、受けてみよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます