第21話 碧い晩餐
「茜ちゃん、私がいるから、もう学校で辛い思いはさせないよ! だから、安心して学校来てね!」
帰り際、撫子ちゃんはどんっ、と自分の胸を叩いた。
「ありがとう、撫子ちゃん。そのことなんだけどね、わたし、今はやらなくちゃいけないこと、いや、やりたいことがあるの。だから、まだ学校には戻れないんだ」
撫子ちゃんは、一瞬不安そうな顔をして、次に不思議そうな顔をしてから、合点がいったような顔をする。
「それってもしかして、茜ちゃんが元気になって明るくなった原因、だったりする?」
「…………うん! そうなんだ。わたし、最近ある女の子に会って、わたしの世界はガラッと変わったの。そして、わたしは他の人の世界も変えられるってことを知ったの。えっと、詳しくは言えないんだけど…………」
「うん、そっか、わかった! 私、待ってるね。またきっと、学校で二人で楽しくおしゃべりできる日を」
撫子ちゃんは満面の笑みをわたしに見せる。
「うん…………ありがとう! じゃあ、またね撫子ちゃん!」
「うん! またね、茜ちゃん!」
わたしたちは十字路で別れ、手を振りあいながら別れる。
「あ!」
撫子ちゃんが何かを思い出したように声を上げる。
「どうしたの? 撫子ちゃん?」
「その子に伝えといて! 茜ちゃんの一番の親友は私だからね! って!」
「!」
わたしは一瞬固まって、次の瞬間には自然と笑顔がこぼれていた。
「うん、了解! 伝えとくね!」
***
「その笑顔で帰ってきたってことは、どうやら仲直りは上手くいったようだね」
家に帰ると、アオイはコンビニで買ったと思われる食べ物や飲み物をテーブルに広げて待っていた。
「うん! ばっちりね! …………ところでこのたくさんの食べ物飲み物の数々は?」
「きっとアカネなら仲直りを成功して帰ってくると思っていたからね。今日の夕飯はパーっといこうじゃないかと思っておいしそうなものをたくさん買ってきたんだよ」
アオイはドヤ顔をしながら今にも唐揚げに食らいつかんと目を輝かせている。
「へー、そうなんだ。ありがとう! …………で、それを買ったお金は?」
「もちろんアカネの財布から出させてもらったよ。ボクは無一文だからね」
それがなにかと言わんばかりの態度をしながらアオイはずっと食べ物に視線を集中させている。
「ア・オ・イ~!」
わたしはガッ、とアオイの頭を掴む。
「わ、なんだいいきなり!」
もがくアオイを数秒間、握力で掴み続ける。そしてその後、パッと手を離す。
「…………まあ、今日は、許す…………」
アオイが背中を押してくれたことが、撫子ちゃんと仲直りできたことに大きく貢献してる。それは間違いないことだから。
それに、もしアオイと出会ってなかったら、わたしは撫子ちゃんと話すことは二度と…………。そう考えると、目の前に座っている銀髪の少女は、わたしの命の、いや、人生の恩人で、天使のように思えてくる。
「よし、じゃあさっそく食べようじゃないか」
「あ、わたしまだ帰ってきて手洗ってないから!」
「大丈夫、おしぼりをもらってきた。さあ、早く座るんだアカネ」
「もう、自分が早く食べたいだけじゃん! 仕方ないなあ…………はい、アオイ、手を合わせて…………」
「「いただきます!」」
袋に入ったおしぼりをあけながら、目の前で唐揚げをむさぼっている少女に目を向ける。
最初に会ったときは、その見た目と雰囲気にただただ魅了された。人形のようだ、とさえ思った。でも、いっしょにいるうちに、アオイの「人間味」を知った。
クールなようでいて、実は温かみがあったり、強いようでいて、きっとそんなに強くない。アオイがどんな問題を抱えているのはわからないけど、わたしは友達として、アオイの力に…………。
「アカネ? どうしたんだい? 早く食べないと冷めてしまうよ?」
アオイの声にハッとする。
「え? あ、うん。そうだね! いただきます!」
…………とりあえず、今は、
「あ、そういえば撫子ちゃんからアオイに伝言だよ! 『茜ちゃんの一番の親友は私だからね!』だって!」
「ん……どうしてボクにわざわざそんなことを言うんだい?」
「またまた照れちゃって! ほんとは『アカネの一番の親友はボクだ!』とか言いたいくせに!」
「そ、そんなわけないだろ! ボクは食べることに集中するからね! …………ムグ、ゲホッ、ゴホッ……!」
「ああ、一気に口に物を入れるから…………はい、水!」
この幸せな時間がいつまでも続いてほしいと、そうわたしは思った。
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