第3話 茜色の決意

「ボクは、幽霊ってやつが視えるんだ」

「へ……?」

「正確には、見えるだけじゃない。話せるし、触れる」

「はあ……」

「そもそも人は死後、あの世に行くことが決まっている。これがいわゆる成仏というやつさ。でも、この世に未練を残して死んだ人間は幽霊になってこの世にとどまる」

「ほう……」

「そんな未練をもった幽霊たちの話を聞いて、彼らの未練を断ち切り成仏させるための手伝いをする。それがボクの仕事、魂清請負人ソウルパージャーだ。そして、その仕事をアカネ、キミに手伝ってもらいたい」

「へー……そうなんだ…………」


 いやいや、いきなり話がジェットコースターなんですけど! 幽霊が見える? 成仏する手伝いをする? もしかしてこの子そういう妄想が好きなタイプの美少女? もしかしてわたし、やばい子に魅入られちゃった?


「まあ、今のキミを見れば混乱しているのはわかっているさ。でも、ボクが今話したことは事実だし、それをキミに手伝ってもらいたいというのも本当だよ。どうだい、アカネ?」


 アオイはそのとても綺麗な目でまっすぐに見つめてくる。冗談で言ってるんじゃなさそう。だとしたら、アオイが自分の妄想を本気で信じてる痛い子か、もしくは、今の話が事実ってことだけど……。そうだとして…………。


「アオイ……ちゃんの言ってることが事実だとして、どうしてわたしなの? 人手が足りないなら他に幽霊が見える人とか、そっち系の人に頼めばいいんじゃ……。わたしは幽霊なんか見えないし、なんなら信じてないし……」

「アオイでいい。アカネ、キミを選んだのは、キミのような社会と関わりが少ない人間が魂清請負人(ソウルパージャー)にはふさわしいからだ。幽霊の存在はできる限り秘密にされていなければならないし。キミは友達や家族とあまり縁が無いように見える。それに…………」

「それに?」

「いや、なんでもない。あと、別にさっきのはキミの悪口を言っているわけじゃない。ただ、そういうふうに見えたってだけだ」


 ……別に、わたしが社会と隔絶されてることはわかりきってることだ。いまさら指摘されたところで何も感じない。感じないし。


「さあ、どうだいアカネ? ここから飛び降りて死ぬか、ボクを手伝うか、それとも……死にもせず、ボクの手伝いもせずに元の生活に戻るか? 今、ここで決めてくれ」

「あ……」


 アオイの顔を見て、つい声を漏らす。わたしはこの表情(かお)を知ってる。だって、わたしがそんな表情(かお)をして生きてきたから。不安。表面上は取り繕っていても、わたしにはわかる。アオイは不安なんだ。わたしが誘いに乗ってくれるか。


 アオイはもしかしたら、わたしとは真逆のように見えて、けっこう似た者同士なのかもしれない。…………もとよりわたしはアオイに出会った瞬間に、死ぬことをやめてる。でも、死なずに元の生活に戻るのもまっぴらだ。だから、そんなの、問われるまでもない。


 アオイの誘いに応じた瞬間、彼女の表情は初めて和らいだように見えた。わたしはその顔をきっと、忘れることはないだろう。

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