第5話 運命のいたずら2


「………ど………して?あたしは、あんたたちの………あんたたちを倒しにきたんだよ?………どうして優しくするの?」



「………わからないわ。ただ貴女を守りたいと思ったの。」



そう言って月奈は優しく飛鳥の髪を撫でる。



癖のないまっすぐな髪を優しく、壊れ物でもあつかうかのように撫でつけていると、次第に飛鳥の体から余計な力が抜けていった。



「………ありがとぅ。」



とても小さな声だったが、飛鳥はそう月奈に告げた。

優しく髪を撫でるその暖かさが早くに死んだ優しかった母親を思いだしそうになって涙がでそうになるが、それを必死で耐える。



それに、こんなにいい人なのに狩らなくてはならないことが、辛くなってきてしまう。



「………あたしっ。」



自分に課せられた命令は必ず果たさなければならない。



そのことを思い出した飛鳥は瞳にうっすらと涙を溜めて月奈を見上げた。



「なぁに?」



優しく問いかけられ、言葉を発しようとする飛鳥だったが、ドアの開く音にビクッとなって、言うのをやめてしまった。



ドアを開け入ってきた人物はゆっくりと飛鳥に向かって進んでくる。



「ああ、やっと起きたのか。」



そう言って黒髪の青年、聖は飛鳥に近づいて行き、月奈のいた場所を奪う。



そうして、聖はやっと見ることが出来た飛鳥の金色に光る瞳をじっと見つめて、優しくほほえんだ。



「綺麗な瞳だな、飛鳥。」



そうして目を細めれば、青い顔をしていた飛鳥の顔が一瞬にして耳まで真っ赤に染まった。



そして口をパクパクと開け閉めして聖をただ呆然と見つめる。


あまりにも整っているその顔を聖は飛鳥にゆっくり近づけると、月奈がまだそばにいるにも関わらず飛鳥の赤い唇をその唇でかすめ取ってまた微笑んだ。



「綺麗だ………。」



飛鳥はその突然の行為に驚いてしばし硬直すると、先ほどまでの赤さよりもさらに赤く顔が染まる。



そして恥じらうかのようにうつむいてしまった。



「………ファーストキスなのに。」




などと呆然とつぶやくと、聖の笑顔が先ほどよりも深まったように感じた。


そしていつもそんな表情なんてしたことがない聖を月奈は見てしまって、二人に気づかれないようにため息を一つつく。



自分の主は少女が吸血鬼を狩るハンターだとわかっているのだろうかと、不安がよぎる。



人間と恋愛することに関しては月奈はどうでもいいと思っていた。



それどころか聖が早く誰かと本気の恋愛に落ちてほしいとも願っていた。



だけどこの少女だけはまずいのだ。



ハンターである飛鳥では非常にまずいのだ。



そう思い月奈は二人の仲をそうそうに引き離そうと考えたが、見たことのない聖のとろけた笑顔に少しだけ様子をみようと考えなおしたのであった。

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