第4話 運命のいたずら

彼女は考えていた。



何故自分が仕えてきた主人がこの少女のことを自分に見ていろ。と言ったのか。



同族でもないただの人間。



確かに容姿は優れているかもしれない。



だけれども彼女は人間であり、吸血鬼ではない。



それなのに何故主人はこの少女を連れ帰ってきたのか。



それを思うと嫌な予感がしてきてよけいに月奈の眉間の皺が濃くなっていく。「はぁ。」



もう一度深くため息をついたときだった。



「ん…ぅ?」



わずかな身じろぎをして飛鳥は瞼を完全に開いた。



そしてみなれない女性をみつけ、問いかける。



「だれ?」



女はその瞳に一瞬とらわれた。



なんて澄んだ瞳をしているのだろうかと………。



「………私はこの邸に仕える月奈よ。」



意志の強そうな飛鳥の瞳に捕らわれながらも月奈は言葉を発する。



「邸?ここはどこ?」



周りを見てみればシンプルながらも、どれも最高級品のようで、かなりのいいものばかりだと思う。



飛鳥は芝生に寝転がっていたのになぜここにいるのか不思議に思い、月奈に問いかけるように言葉を発した。



すると月奈は少しばかり困ったような表情を浮かべる。



「ここは霧生邸よ。貴女が庭に寝ていたから聖様がここに貴女を運んできたのよ。」


「霧生…邸?聖…霧生の…邸?」



「え?ええ、そうよ。」



眉間に皺を寄せ、深く考え込むように右手を口に当てる仕草に月奈は、


(何故そんなことをするのだろうか。

なにか自分は変なことを言ったのだろうか。)



と戸惑った。



しかしながら、それに気取られないように、確かめるような飛鳥のつぶやきに平然と肯定の返事を返す。



するとみるみる飛鳥の白い陶器のような顔が青くなっていく。



「どうかしたの?」



月奈はその様子に彼女の具合が悪くなったのかと驚いて、顔をのぞき込みながら優しく問いかける。



カタカタと飛鳥の肩がせわしなく震える。



それでもやっとの思いで言葉を口にした。いや、言葉が勝手に口からでていた。



「あたしって………バカだ。………バカだ………どうしようもないバカだ………。まさか倒さなきゃなんないやつに捕まるだなんて………。あたし………あたし………。」



プライドが許さない。



敵に捕まってしまっただなんて。


よくよく考えてみれば、寝ていた場所は霧生聖の敷地内だ。



彼を倒すためにやってきたのにその目的を忘れ、眠ってしまった。


挙げ句の果てには聖にあっさりと捕まえられてしまった。



飛鳥はそんな自分に腹が立つと同時に、情けなさを感じた。



「………よくわからないけれど、そんなに自分を責めないで?」



月奈はそう言って飛鳥の体を優しく抱きしめる。


月奈は内心複雑だった。



この少女は自分の主を倒そうとしてここにいる。



本当ならばそんな存在は始末しなければならない立場にいる月奈だ。



しかしながら、震えて泣きそうになっている少女を見てそうすることが出来ないことに戸惑っていた。




そして慰めようとしている自分に混乱する。

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