第13話

 学校が終わって午後四時。


「ねぇ理央、今日は服を見に行かない?」

「服? いいけど、なんで?」


 部活などには特に入っていないため、学校が終わればほとんど自由だ。

 しかしなぜ服を……と思ったので彩に聞き返した。


「理央の今の状態、かわいい服とかきっと似合うと思うの!」

「そう、かなぁ」


 はたして自分は似合うのだろうか、という不安を覚える。


「だいじょうぶ。今着ている制服も十分似合ってるから」

「それ理由になってるかなぁ……」


 まぁ、予定とか特にないから行くけど。



 ・・・・・・・・・・



 昨日も来た商店街に到着。

 いつも通り活気に満ちあふれている。


 ただいつもと少し違うのは……。


「この店、初めて見た気がする……」

「そりゃそうよね、理央、服にあんまり興味ないもんね」


 普段、あまり立ち寄らない所へ来た。

 女性用の物が多く、以前の自分だったら立ち寄らない所だろう。


「とりあえず、見てみましょ」

「う、うん」


 彩に手を引かれ、店内へ。

 辺りを見渡せば、様々な種類の服が。


「へぇ……女性用のパーカーとかTシャツとかってあるんだね」

「今までどんな生活してきたのよ……」

「あの服達は男女共用かと……」

「合ってるけど違う気がする……」


 そんな話をしていると、彩が手近な服を一つ手に取る。

 それを俺のに合わせるようにくっつけてくる。


「ほら、こういうのすっごく似合う!」

「そう、かなぁ……」


 彩が取ったのは、シンプルな黒のワンピースだ。

 鏡で見ると、合わせただけだが自分をかわいいと思ってしまった。


「いい、と思う……」

「でしょでしょ! 他には……」


 今度はデニムシャツを持ってきてくれた。そしてジーンズ。


「着てみる?」

「え、うん」


 言われるがまま試着室へ行って着替える。

 試着室内にある鏡を見て思う……いいな、これ。


 クールな印象があり、仕事ができる女性みたいだ。

 彩にも見せてみよう。


「どう?」

「うん……すごく……いい」


 褒めてくれた彩はめっちゃ写真撮ってくる。

 ……案外、悪い気はしない。


 むしろ、ほかの服も着てみたいなという気持ちになってくる。


「ね、ねぇ彩。ほかの服とか」

「待ってて! 持ってくる!」


 そう言って彩は足早に店内を駆け巡っていった。

 ……待ってる間、自撮りをしてみる。


 まさか、自分をかわいいと思う日がくるとは思わなかった。

 服に対しても、ちょっとだけ興味が湧いてきた。


 それともう一つ。

 今、店内を駆け巡っている彩。


 服を選んでいる時など、とても笑顔だ。

 さっきからずっとそんな感じで、彩の新しい一面を見れた気がした。


 今まで俺や奏太に合わしていたのかもしれない。

 男に戻っても、たまにはこうやって一緒に服を見に来るのも、悪くないかもしれない。


 そう考えていると、彩が帰ってきた。


「どれ着……どうしたの?」

「いや別に、どれ着ようかなー」

「これとかどう?」


 日が暮れるまで、それは続いた。



 ・・・・・・・・・・



「楽しかったね!」

「うん、楽しかった」


 少し遅くなってしまったので、彩を家まで送っている途中だ。

 彩の家は俺の家とは反対方向にあり、学校と商店街はちょうどその間にある。


「理央、もうすぐ八時だけど帰らなくて大丈夫?」

「俺は大丈夫。それに女の子一人で帰るのも危ないだろうし」

「理央も今は女の子みたいなもんだよ」

「たしかに……」


 とかなんとか話してると彩の家の前に。


「送ってくれて、ありがとね」

「どういたしまして。またね」


 今日も楽しかった。

 また明日もこんな風に過ごせたらいいな。


 そう思いながら、来た道をもう一度歩んでいると前の曲がり角から人が。


「かわいいねぇ、お嬢ちゃん。今から遊びに行かない?」


唐突に、そう言われた。

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