第12話

 いつも通り夕飯を食べ、お風呂に入り、ちょっとテレビを見て、十一時と少し早いが寝る。

 とりあえず健康に過ごそうと心がける。



 ・・・・・・・・・・



 息子が部屋に行ったことを確認し、話し始める。


「ねぇ、あなた……」

「ん? どうした?」


 椅子に座り、テレビを見ながらお茶を飲んでいる夫に声をかける。

 机を挟んだ向かい側に自分も座る。


「理央の事なんだけど……」

「珍しいな、母さんが理央の事で相談だなんて」


 そうなのだ。理央はなんの問題もなく今まで育ってくれた。

 成績も悪くないし、自分らとの関係もだ。


 ほんとに悩みがないのかと不安になるぐらいに。


「そうなのよ。最近……といっても新学期になって理央が登校した日から少し違和感があるのよ……」

「違和感?」

「えぇ、あの子、いつも家ではジャージを着ているじゃない?」

「着ているな」


 服を選ぶのがめんどいとのことで家の中で理央は、ほとんどジャージを着ている。

 別にそれはいいのだ。外出するときはしっかりとした服を着てくれる。


「さっきの夕飯の時に気づいたのだけど、こう……服の袖を手を隠すようにするあれ……」

「萌え袖?」

「そうそれ、今までやっていなかったのに急にやり始めたの……」

「確かにそんな感じだったような……でもそれぐらいなら……」

「それだけかと思ったら、さっき理央がソファに座ってテレビを見ていたじゃない?」

「うん」


 バラエティ番組をただ見ていただけ。いつも通りだ。

 ただ……。


「なんで内股なのかな……って思ったの」

「内股?」

「えぇ、それだけじゃないの。笑うときとか両手で口を押さえているのよ……」

「つまり?」

「なんか……全体的に女の子っぽくなってない?」


 些細な変化だから気にしすぎなだけかもしれない。

 だが、今まで目立った変化がなく、すくすくと育った息子が少しでも変わるとこう……違和感を覚えるのだ。


「女装の趣味とかできたんじゃないのかって……」

「なるほどなぁ。今まで普通に育ってくれたから逆に心配だなぁ」

「そうなの。なにか悩みとかあるんじゃないかって……」

「まぁ、しばらくは様子を見てみたら? 深く関わりすぎるのも良くないし」

「……そうね。しばらく、そうするわね……」


 たしかに、いきなり決めつけるのはよくない。

 しばらくは様子見をしよう。


「相談、聞いてくれてありがとね」

「どういたしまして」


 そう言って二人は、微笑み合った。



 ・・・・・・・・・・



「いってきまーす」


 朝になり、仕事に行くまで多少の時間があるので、その間に朝ご飯に使った食器を洗っていると玄関から息子の声が聞こえてきた。


「いってらっしゃーい」


 それに声だけで返事をする。

 ……そういえば、前は顔ぐらい出して言っていた。


 最近は制服に着替えに行ったらすぐに学校へ行ってしまう。

 ……心配しすぎだろうか。


 頭からそれを振り払い、食器を洗い終える。

 仕事へ行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る