第6話
立ち去るおじさんの後ろ姿を見届ける。
そして視線を移す。
おじさんが渡してくれたものは、手のひらサイズでコンパクト。
デザインもやっぱりコミカルでおもちゃみたいだ。寝ているような顔が描かれている。
「説明書がついてるわね」
「説明書?」
彩が説明書が裏についているのを見つけ、剥がして読み上げる。
「えーっと、『これは【メタ吐露ン】と言います。聞けば大抵の事を教えてくれるはずです。時折、メタい事もいうけど。おじさんより』……だって」
「めたとろん?」
「メタ吐露ン」
説明書を見てみるとまぁまぁふざけた名前をしてた。説明少なっ。
そう思っていると、彩が顔が描かれている所の鼻の部分を押す。
押すと同時に目を開くメタ吐露ン。
………………。
……待ってもそれ以外なにも起きない。
「なんなのこれ」
「大抵の事教えてくれるって書いてあったし聞いてみる?」
「僕にまかせろ」
奏太が名乗りあげ、メタ吐露ンに色々問いかける。
「メタ吐露ン、おーい」
「ハイ」
「わっ」
「うへ……大丈夫?」
電子的な声と返事をした事に少し驚き、彩の方へ抱きついてしまった。不思議と恥ずかしさはあまり無い。
「ごめんね、彩?」
「いいってことよ……」
「……? ありがと」
なんか彩、いつもと違う……。
視線を少し動かす。奏太の目が冷めてる気がする……。
奏太は目を逸らし、メタ吐露ンに呼びかける。
「おまえは、なんでも知ってるのか?」
「ハイ、オオヨソノ事ハ知ッテイマス」
「これあれじゃない? 流行りのAIスピーカー的なやつでは?」
「確かに似てるわね……」
形は違えど、やることはその類のものにそっくりだ。
「じゃあ聞くわね。あのおじさんの本名は?」
「スミマセン。ヨクワカリマセン」
「ぶっ壊してやろうかしらこのポンコツ」
「なんでキレてんだよ……」
彩がそれを壊そうとする。もちろん、人の力では壊せない。
それを止める奏太。
「あ、ねぇねぇ」
「ハイ」
僕も聞きたいことがある。
「俺って元の姿に戻れるの?」
「…………」
「ねぇ、こいつ今、露骨に目を逸らしたわよ」
「ぶっ壊してやろうか」
奏太がそれを上下に振る。
メタ吐露ンがアワアワ言う。無駄に高性能では? あれ。
「いつ、戻れるのかなぁ……」
「……なぁ、理央は元に戻りたいのか?」
「そりゃ戻りたいよ。今のままじゃ色々と迷惑かけちゃうかもしれないし」
「……そうか」
奏太が少し悲しい顔をする。彩も心無しか、悩んだ顔をしていた。
「ま、いいわ。とりあえず帰りましょ?」
「おう」
「え、あ、うん!」
彩が足早に歩く。それに奏太と僕がついて行く。
早く、元に戻りたいな。
・・・・・・・・・・
そうだったのか……。
僕は今のままでもいいと思っていた。
けど、理央がそういうなら、手助けしないとな。
・・・・・・・・・・
理央が女の子になってくれればうれしい。
けど、理央がそれを望んでいない、というより戻りたいらしい。
私は理央の思いを汲んでやりたい。それと同時に、私の思いも叶って欲しいとも思う。
この話をあまり続けたくない。
帰る意思を示し、道を進む。
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