最終話 また会えた

 あたしはリリアン、16歳……世界で知らない人がいないってくらいの大企業、アルバトロス商会の社長令嬢よ。


 社長令嬢と言っても本当はパパとママとは血が繋がっていなくて養女なんだ。

 時々陰口を叩かれる事もあるけれどあたしは気にしていない。

 だってパパもママもアタシの事を実の子のように愛してくれるんですもの。


 ただ子供の頃、あの貧しくて何もない場所からあたしを連れ出してくれたお兄ちゃんの事を忘れられない……アクセルさんは今もどこかで冒険をしているのかしら。

 だとしたらあの頃に比べてダンディなおじさまになっているのかな?

 一緒に居たキャスリンお姉ちゃんと結婚してたりして。

 

 子供の頃の夢は冒険者になる事だったけれど、それはあの土地から出たいという願いを叶えるためだったんだよね。

 今のように安定して恵まれた生活を送っているとその夢を叶えようとは思わなくなっていくものね。

 あの時アクセルさんに付いて行ったのなら、また違った人生を送っていたんだろうな。


「お嬢様、まもなく東の島国に着きますぜ」


「そう」


 あたしのお目付け役、ツルツル頭のブービーが到着を知らせに来た。

 言い忘れてたわね、今あたしはシーファントム号に乗って海を渡っているのよ。

 お父様の貿易のお仕事に無理矢理ついて来たのだけれど、船の上は案外退屈なのね。

 プールサイドでビーチチェアに寝そべっているのも飽きたし、カジノは興味がないし、何か他に刺激的な事は無いのかしら?

 そんな事を考えているうちに船着き場に船が到着したようね。


 これは東の島国に期待するしかないわ、聞けばあたし達が住んでいる王国とは全く異質な文化が発展していて、この国に来たすべての者はその素晴らしさに魅了されその文化の虜になってしまうとまで言われているらしい。

 興味半分、怖さ半分……あたしは上陸の第一歩を踏み出す。


「わあああっ……何これ!?」


 建物は全て木と紙で出来ていて、独特な三角屋根が連なる。

 国民はみんなキモノと言われる色鮮やかな民族衣装を纏い、不思議な草を編んだ靴や木の板にひもを掛けた靴を履いて街中を歩いている。

 

「何なの一体、こんなの見た事無い……」


 独特の文様や柄はとても私の好奇心をくすぐった。

 このキモノという服、王国に持って帰ったら流行らないかしら? 

 生地だけでもいい、これで洋服を作れば斬新な物が出来るに違いない。

 きっと大儲け出来るはず、ってなんで商売の事を考えているのあたし? 

 ダメだわ、これはそう、パパの病気が移ったのよ。

 あたしのパパは商売の天才で新しい商売を始めては次々と成功を修め財を成しているの。

 そのパパに付いて回るうちにあたしにも商売根性が芽生えてしまったのねきっと。

 将来はあたしがアルバトロス商会の次期社長になるのだからそれもまたアリなのかもしれないけれど。


「お前!! いい加減にしろ!!」


 なぁに? 天下の大来で大声を出して……あら、女の子がこちらに向かって走って来るわね。


「いつまでも食べないで残しておく君が悪いんだよ!! このたこ焼きはボクが頂いたーーー!!」


 何このお人形のように可愛い女の子は。

 髪を頭の両側にお団子のように丸め、大きく赤い瞳……キモノは他の女性たちとは違いミニスカートのように短かった。

 あのファッションはイケる!! きっと王国でも流行るわ!!


「シトラスてめえ!! 俺が最後まで楽しみに残しておいたたこ焼きを食いやがって!!」


 男の人があたしの横を物凄い速さで通り過ぎた……あれ? あの男の人、どこかで見た気がする……。


「ちょっと!! たこ焼きならまた買えばいいじゃないですか!!」


 走り疲れてヘロヘロになってアタシの横で立ち止まる女性……彼女にも見覚えが……。


「あっ!! キャスリンさん!?」


「えっ? あなたは?」


 思わず声を掛けてしまったキャスリンさんと思しき女性はあたしの顔を見ても微妙な表情だ、もしかして私が成長してしまったから分からないのかしら?


「リリアンです!! アルバトロス経済特区で一緒に居たことがありますよね!?」


「あっ、キャスリンは私の双子の妹なんですよ……ごめんなさいね」


「そっ、そうなんですねこちらこそごめんなさい」


「いえいいのよ、それじゃあね」


 彼女は再び走り始めた。

 しかしこんな事ってあるのね、こんな初めて来た国で知り合いの双子のお姉さんに会うなんて。

 いまの女性もアクセルさんの知り合いなのかしら?

 でも変ね、どうしてあの人は私の知ってる若い頃のキャスリンさんと瓜二つなのだろう?

 私がキャスリンさんと会ったのは八年前なのに歳を取っていないのは不自然だわ。

 

「まったく……ガキな所は成長しないわね」


「パパはあれでこそパパなんだよ」


 あら、この二人の少女は大陸の人の様ね……小さい子の方が落ち着いた雰囲気で私と同じくらいの子が子供っぽいってのも不思議な感じだわ。


 それはそうとあたし、この国のファッションに感銘を受けたわ。


「決めた、私はキモノの貿易とキモノと洋服を融合させた新しいファッションを考えるわ!! さっそくパパに話しに行こう!!」


 善は急げ、あたしはパパを探して走り出した。


「ブービー!! パパ知らない!?」


 あたしは船着き場から船の上に居るブービーに向かって叫んだ。

 

「社長ならシーファントム号の応接室でお客様とお話し中ですぜ」


「分かった!! ありがとう!!」


「あっ!! ちょっと待ってくだせぇ!! 大切なお客様なんで……」


 ブービーの話しを最後まで聞かずあたしはシーファントム号の応接室のドアを開けた。


「パパ聞いて!! あたしね……」


「こらリリアン、お客様の前ですよ、まずはご挨拶なさい」


「ごめんなさい、こんにちは私はリリアンです……」


「ハハッ、お前は変わってないな……」


 目の前の男性が優しい笑顔を湛えあたしを見つめている。

 あれ? この人は……さっき街ですれ違った?


「よう、久しぶりだな!! 元気だったか!?」


「アクセルさん!? どうして!? どうして十年前と姿が変わってないの!?」


「ああ、俺、不死身だから年取らないんだわ」


 何だか凄い事をさらりと言いながらアクセルさんは笑った。






                       END

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不死者(アンデッドマン)は安らかに眠りたい 美作美琴 @mikoto

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