第44話 終わらない旅路
「私が不死身に……」
困惑するイングリット。
しかしその表情も長く続かず、次第に笑顔になっていく。
「ちょっと驚いたけど私は嬉しいです……」
「何でだ!? お前はもう死ねない身体になったんだぞ!? それが嬉しいなんて……」
「だって、これで私もずーーーっとアクセルさんの側に居続けられるんですよ? こんな嬉しい事は無いじゃないですか」
「イングリット……」
俺たちはしばしお互いの瞳を見つめ合った。
「はいはい、ご馳走様……なってしまったものはしょうがないわ、私が責任をもってあなたたちの不死を解く研究をしましょう……ところでアクセル、私を不死化させたあの薬はどこから手に入れたのかしら?」
「知り合いに生命の種の情報収集を頼んでいたんだよ、お前が二つ同時に試練を押し付けるから俺が戦争を終息させる試練をやっている間に調べてもらっていたんだ」
「それで?」
「一週間前に調査結果が俺の元に届いたんだが、届けられた封筒にこの木箱が入っていた……瓶と一緒に入っていた紙切れには『不死薬……死にかけた生者に使用するとその者を不死にする』って書いてあってな、色が俺の記憶にある薬と同じだったんでもしや……と思ったんだ」
薬瓶の入っていた木箱をライムに見せる。
「これはやっぱり……」
木箱の裏側に刻まれた『シトラス』という文字を見て一人納得していた。
「あんた、シトラスに会ったの?」
「いいや、ところでそのシトラスって人物は何者だ?」
「私の弟子よ……五百年前くらいだったかしら、この森の中で野垂れ死にしそうだったから助けてやったんだけど、自分の名前を忘れていたから私が名前を付けてやったの、それから勝手にここに居ついてね……私に師事したいって言いだしたから勝手にしたらって言ったのよ」
「いい加減だなぁ……」
「うるさいわね」
「じゃあそのシトラスはお前と同じ魔女なんだな?」
「魔女……って呼んでいいのかしら、あの子は男よ?」
「えっ!? それじゃあ
「何よ
「どういう事だ?」
「男は魔力量で女には敵わないの、そこであの子は薬や呪いで自分の身体を女に作り替えたのよ……それからね、錬金術において非凡な才能を発揮しだしたのは……」
そこまでやるとはな、そのシトラスって奴の信念というのか執念というのかは分からないが余程ライムに認めてもらいたかったのだろう。
だがそこまでの腕ならもしかしたら……。
「なあ、シトラスはお前から見て魔女としてはどうなんだ? その実力は」
「悔しいけど私の元を離れる時点で私と同等かそれ以上の才能の片鱗を見せていたわね……あの子が今も研究を続けているなら私なんて簡単に追い抜いていることでしょう」
「ならよ、シトラスを探し出して不死を解く研究をしてもらおうぜ!? その方が早いかもしれない!!」
うん、我ながら名案だ。
「あんたね、師匠である私が弟子のあいつに頭を下げろっていうの!? それは私のプライドが許さないわ!!」
「何をそんなに怒ってるんだよ?」
「怒ってないわよ!!」
思いきり怒ってるじゃないか。
だがこの事から考えるにもしやライムとシトラスは仲が悪いのではなかろうか?
いや俺の勘だがライムが一方的にシトラスを敬遠しているように感じる。
そうでなければシトラスが尊敬し敬愛するライムの元を離れるとは考えづらい。
だがライムがここまで嫌がっているなら俺のやることは一つ。
「じゃあ俺がシトラスを探し出して話しを付けて来る!! お前は今まで通りここで待ってろ!! いいな!?」
「ちょっと、勝手に話しを進めないでよ!! 仕方ないわね、私も行くわ!!」
「おっ? どういう風の吹き回しだ? 引きこもりのお前が森の外へ出ようだなんて」
「引きこもりとは失礼な、私もシトラスの奴に直に会って言ってやりたいこ事が山ほどあるのよ!! あんたがシトラスを探し出してここへ連れて帰ってくるまで待ってられないわ!!」
「そういう事かよ、いいぜ一緒に行こう!!」
「私も一緒ですよね?」
「カタリナも!!」
「当たり前だろう!! みんな一緒に来い!!」
まさかこんな展開になるとはな、永く生きていると予測不能の事態がよく起こる。
少し前までは不死の身体に嫌悪感を持ちつつもそれを利用して生きてきたが、これからは少しは前向きに生きていけそうな気がする。
「なあ、今だから聞くが試練の期限と死亡回数制限って結局どういう意味があったんだ?」
前々から気になって居たことをライムに尋ねる。
「あーーー、あれね……あれには全く意味は無いわよ」
「はっ?」
「あんたの願いをサラっと叶えちゃったら面白くないでしょう? それなりに苦労をしてもらわなくっちゃ」
「なんだよ、やっぱり魔女ってのは基本的にサディストなんだな」
「まあね……って誰がサディストですって!?」
自覚がなかったのか……。
これで俺の不死に纏わる冒険は取り合えず一区切りだ。
これからはまた新たな冒険に旅立つことになるだろう。
どんなに困難で長い旅になるかは分からないが心配はしていない。
なにせ俺たちには時間が使い切れない程あるのだから。
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