第20話 ここをキャンプ地とする

 日がやや沈みかけたころ、丁度ほどほどに開けた土地を見つけた、今日はここをキャンプ地とする。


 ここまで南に来ると潮の香りが強くなる、海が近い証拠だ。

 道中を歩きながら拾った、薪に使えそうな木の枝や乾いた草などを使い火を起こす。

 これで夜から早朝にかけての冷え込む時間帯に暖を取れるし料理だってできる。


「料理は任せてください、これでも私の作る料理は修道院では美味しいって評判だったんですよ!!」


「そうか、じゃあ任せるよ」


 リュックから鍋やナイフ、お玉、へらといった調理器具とコショウや塩といった調味料の入った小瓶を取り出す。

 材料は旅立つ前に街で仕入れた野菜や肉を持ってきた。

 これでイングリットにスープでも作ってもらおうか。


「あれ? ところでカタリナは……」


 いない? まずいな、あの三歳児くらいの知能しかない彼女を野放しにするのは。

 俺は慌てて周囲を探し始める。

 足あとがある……あいつめ、森の中に入っていったな? 


「おーーーい!! カタリナ!! どこにいるんだ!?」


「ウガッ?」


 がさっと音をさせて正面の茂みから顔を出すカタリナ。


「なんだ、ここに居たのか心配させやがって……」


「ウ……ガァ……」


 どこかはっきりしない態度で中々茂みから出てこようとしないカタリナ。


「うん? おい、何か隠してるな? 見せてみろ」


 俺がカタリナの身体を隠している茂みを手で避けると、俺の目にとんでもないものが飛び込んできた。


 熊だ……カタリナの背中に大きな熊が背負われていた。

 当然だがすでに死んでいる。

 そしてよくよくカタリナを見てみると右肩から胸にかけて服がボロボロに裂けており、右の胸の膨らみが露出していた。


「ちょっと!! おまえ、一体何をしていたんだ!?」


「ウガッ!! ウガーーーーッ!!」


 カタリナの胸から顔を背けながら俺はカタリナを問い詰めるが、当然言葉が話せない彼女から説明があるはずもなく……。

 じゃあ何をしていたんだ? 俺は想像力を巡らせてみる。

 カタリナは熊を背負っている、という事は熊を仕留めたという事だ。

 では何故こちらに運んでくる? ただ狂戦士の本能のまま戦って熊を倒したのならそのまま帰って来るよな普通。

 えーーーと……もしや、これはカタリナなりの食料調達なのではないか?

 俺たちが忙しそうにキャンプの準備をしているのを見て自分なりに手伝いをしようと思ったのかもしれない。

 親の背を見て子供は育つというが……これがそれにあたるのだろうか。

 という事はカタリナは少しづつ知能が発達しているという事だな、少し前ならぼーーーっと突っ立ってるだけだったのだから。


「よくやったな、えらいえらい」


「ウウウン……」


 俺が頭を撫でると気持ちよさそうな声を出し頭を押し付けてくる、もっと撫でろと催促している様だ。


「帰ろう、イングリットが待ってる」


「ウッガーーー!!」


 熊の重量など何のその、カタリナは上機嫌でキャンプの方へ向かって走り出した。

 しかし熊肉か、少し癖があると聞くがスープに入れて大丈夫だろうか?




「出来ましたよーーー!! さあ召し上がれ!!」


 自身満々の顔で料理の前で両手を広げるイングリット。

 野菜いっぱいのスープにボリュームのあるハンバーガーが食卓に並ぶ。

 ハンバーガーまで作ってくれたのか、だがこの挟まっている具材は何だろう?


「頂きます!!」


 まずは気になっているハンバーガーにかぶりつく……美味い!! これは肉だが持ってきた豚の肉ではないような……まさか熊の肉か?

 

「どうです? 熊肉バーガーのお味は?」


「美味いよ、思っていた臭みもなく、スパイスも効いていて食欲をそそる」


「えへへっ、ジビエは調理にちょっとしたコツがあるんですよ、しっかりとした素材の下処理と調味料の工夫次第でここまでの料理になるんです」


 目を瞑り身体をのけ反らせ鼻息を荒げるイングリット、自称で料理が上手と申告する奴は大抵美味くないと落ちが付くものだが、彼女は違った様だ。

 旅の楽しみにおいて食事はかなりの割合を占めるので、飯が不味いとテンションが下がってしまうからな。


「ガツガツ!!」


 カタリナも夢中で食らいつき、あっという間に熊肉バーガーを平らげてしまった。


 お次はスープを口に含む……これも美味い、よくもあれだけの粗末な素材からこれだけコクのあるスープを作ったものだ。

 それからは至福の時間……俺の舌と腹は大変満足したのであった。


「フーーーーッ 食った食った、ご馳走さんイングリット」


「お粗末様でした」


 食器を片付けながらイングリットがほほ笑む、俺とカタリナの食べっぷりに彼女も満足したのだろう。


「よし、そろそろ寝ようか……イングリットはずっと寝てていいぞ、火の番と野生動物の警戒は俺たち不死身組がやるから」


「ウガッ」


 カタリナの服は破れてしまっているので俺の着替えを代わりに着せている。


「いいのですか? それでは休めないでしょうに」


 そしてそのカタリナの破れた服を繕いながら心配そうな表情のイングリット。


「不死者を見くびってもらっては困りますな~~~なんて、本当に大丈夫だからお前は安心してお休み」


「そうですか? 確かに今日はたくさん歩いて疲れましたが……」


「さあさあ、横になって」

 

 イングリットを横たえさせ、毛布を掛けてやる。

 次第に彼女の瞼が意思に反して下がっていく、今日は少し無理をさせたからな、ゆっくり休んでくれ。

 そうこういっているうちに彼女はスゥスゥと静かに寝息を立てていた。




 翌朝、今日も朝からいい天気だ……。


「朝飯を食ったら早速出発だ!!」


「はい!!」


 イングリットの美味い飯を食った後、俺たちは三人組が待っているはずの南の岬目指して出発した。

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