第14話 狂戦士
「フォーーーーーーーッ!!!」
元司祭もとい、
耳を
厄介な、この猿野郎、睨みといい咆哮といい、こちらの行動を阻害してくる特殊能力が多い……これでは折角向上した俺の身体能力が半分も発揮できないではないか。
その隙を突き巨人猿がその巨大な右の拳を俺目がけて放ってきた。
「イングリット、ごめん!!」
「きゃっ!!」
俺は彼女を思いきり突き飛ばし、俺自身は反対方向へ飛びのく。
今まで俺たちが居た場所の床に奴の拳が叩きこまれ、床板が四散する。
「あっ、あぶねぇ!!」
あんなのを食らったら確実に即死コース……ミンチにされてしまう。
俺はまだしもイングリットは普通の人間、彼女に攻撃が中る事があってはならない。
「ほら、こっちだ!! エテ公!!」
そこで俺は彼女から巨人猿を引き離すため、再び祭壇のある広間の方へ走り出す。
「キイイイッ!! 私を猿呼ばわりしましたね!? あなたには更に惨たらしい死に方をプレゼントしますよ!!」
俺を追いかけまわしながら巨人猿は両手を交互に使ってパンチを繰り返す。
部屋の床は次々と破壊され穴だらけになっていく。
「ガアアアアッ!! グアッ?」
巨人猿の放った攻撃を俺が横っ飛びで避けると勢い余って奴の拳が壁にめり込む、しかし思いのほか深く突き刺さってしまい腕が抜けなくてもがいている。
「チャンス!!」
「キュアアアッ!!」
俺が振り下ろしたミドルソードが奴の前腕に切り込んでいく、しかし半ばで剣が止まてしまった。
「くそっ!! 骨が硬い!!」
剣が奴の腕の骨に中った事で逆に俺の腕が痺れる、まるで鋼鉄の棒を思いきり叩いてしまった感覚だ。
とはいえ巨人猿の右腕に深手を負わせてやったぞ、あれでは自慢の拳も思いきり放てまい。
「グウウウッ……やりますね……ではこれでどうです?」
怯んだと思われた巨人猿が俺に向き直ると、左手にはカタリナが掴まれていた。
しかも頭部を鷲掴みにしており、彼女の身体がブラブラと揺れている。
「あぐああああっ……」
微かにうめき声をあげるカタリナ……まだ生きているが瀕死の状態だ。
「カタリナ!!」
「おっと、動かないでくださいね……そうでないと……」
「きゃあああああっ……!!」
巨人猿が右手の人差し指をカタリナの腹の傷口にねじ込んだのだ、カタリナの悲痛な叫びが部屋中に響く。
「ほう、まだ生きているのですね、もう一本行きましょう……」
「あああああっ……!!」
中指もカタリナの腹の中に突き込む……メリメリと肉が避ける鈍い音が聞こえてきて俺は表情を歪める。
「やめろぉ!!」
既にカタリナの瞳には精気が感じられない、これではもう助からないだろう。
こうなってはカタリナにはもう人質としての役割は無いに等しい。
だからと言って割り切って攻撃に転じられるほど俺は冷徹にはなれなかった。
「動かないでくださいね、この少女をいま返して差し上げます」
そう言うと巨人猿はカタリナの身体を俺目がけて投げつけてきやがった。
虚を突かれてまともに頭から飛ばされてカタリナの頭突きを腹に受けてしまい、彼女と絡み合う形で背中から壁に激突した。
「くっ……野郎……どこまでも残忍で卑劣な奴め……」
「どんな手を使っても勝てばよいのですよ、そんなことも分からないのですか?」
下卑た笑みをその醜い顔に浮かべながら俺たちに近付いて来る巨人猿。
「さよならです、これで私の教団の秘密はこれからも守られる」
奴の放った左拳がカタリナごと俺の身体を叩き潰した……貴重な死亡回数を最初のミッションで早速失う事になるとはツイてない。
俺の意識はここで途絶えた。
「くそっ、どうなっている?」
蘇生直後、俺は辺りを見回す……イングリットはどうなった? しっかり逃げられただろうか?
しかし俺の目に飛び込んできた光景は予想を遥かに超えたものだった。
「ウワアアアアアアッ……!!!」
咆哮を上げ出鱈目に巨人猿に立ち向かっている者がいる……あれはカタリナじゃないか!!
俺と一緒に巨人猿の拳でミンチになったんじゃなかったのか?
しかしよくよく彼女の目を見ると白目を剥いており、とても正気には見えない……何だこれは?
「ヒイイッ……これは一体何なのですか!? この化け物は何なのですか!?」
カタリナの怒涛の攻撃に身体を縮めただ耐えている巨人猿……だがな化け物はお前も同じだ。
とは言え一応同意はする、カタリナのあの様子はまるで
我を忘れただ相手を殲滅するまで戦い続けると言われているあの……。
しかしカタリナの華奢な体格からは想像できない力強さはどこから来るものなのだ? 攻撃を受けている巨人猿の手足は見たところ骨折している、ありえない方へ曲がっていたのだ。
剣ですら断ち切れないほど強靭な奴の骨を叩き折るとは最早まともな人の力とは思えない。
「ヒイイイッ!! 止めて!! 止めでぇーーーー!!」
「ウガアアアアアアアッ!!」
唸り声をあげカタリナは首の後ろから両肩にかけて巨人猿を腹が上になる様に担ぎ、首と脚に腕を掛け力を込めた、所謂アルゼンチンバックブリーカーというプロレス技だ……所でプロレスってなんだ?
物凄い力が掛かり、巨人猿の身体が中心から上に向かって折れ曲がっていく……既に奴は泡を吹いて気絶していた。
それでも容赦なくカタリナは力を籠め続け、とうとう真っ二つに巨人猿の胴体を裂いてしまったのだ。
死体から溢れ出る鮮血をカタリは頭から浴びても嫌悪感を表すこともなく立ち尽くしている。
だがまずいぞ、もし彼女が狂戦士ならこの後も誰かれ構わず戦いを仕掛けてくるはずだ。
「助けて……」
イングリットが俺の方へとおぼつかない足取りで歩いてくる、何てタイミングの悪さだ……そう思っているうちにカタリナの顔は俺たちの方へと向いていた。
「ひっ!! あれは……カタリナなの……?」
血染めのカタリナを見て驚きの声を上げるイングリット。
「遅いぜ、もっと早く気付いてくれ……今の彼女は普通じゃない……」
どうしてこうなった? 俺の頭はこの超展開に付いていけなかった。
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