第12話 教団の裏の顔
「禊ぎから戻りました」
「そうか、入れ」
ブルックと門番のやり取りの後、修道女たちは門から町の中へと通された。
変装している俺も彼女たちに続く。
何ともあっさり町の中に入ってしまった俺、逆に拍子抜けしてしまった。
ただのんびりもしていられない、ブルックが司祭とやらに新しい修道女と名乗ってしまった俺の事を問い合わせる前に行動を起こさなければならないのだ。
路地を歩いているところで俺は列から離れ建物の間に身を隠した。
そして変身布と変身マスクを脱いだ。
修道女が単身で街中をウロウロしていては逆に目立つだろうからな、必要な時はまた変装すればいい。
折角街中に入ったんだ、まずは状況の確認から始めよう。
積んである木箱を足場に民家の屋根に上る。
そして町の中心に目をやるとやたら立派な教会が見えた。
複雑で精巧な細工を施された聖母や天使を象ったレリーフが軒先を埋め尽くし、壁や屋根は至る所に金をあしらった装飾が施されている。
そして極めつけは派手派手の額縁に収まった法衣を着てニヤニヤしたおっさんの巨大な肖像画が掲げられている、きっとあれが司祭というやつだな?
いかにも金がかかっていそうだが、俺に言わせれば成金趣味……悪趣味としか言いようがない。
生きているうちに往来に肖像画や銅像が立つ奴にろくな奴が居ないとよく俺のばあさんが言ってたっけな……随分昔に聞かされた話しだが俺もそう思うぜ。
しかもあれでは完全に富と権力を私が独占していますよ、と公言している様なもの。
うん? 教会の前にある広場が騒がしいな、物凄い人だかりが出来ている。
教会の正面の扉が開くと先ほどの肖像画に描かれた人物本人、司祭が現れた。
両手で観衆をなだめる司祭、程なくして広場は静寂に包まれた。
静まるのを確認したのち、司祭はおもむろに口を開いた。
「人間は欲深い生き物です、食欲、性欲、睡眠欲、物欲、独占欲に支配欲……どれも際限がありません
それでは我らが信じる神は救いの手を差し伸べてはくれないでしょう
そこで私をはじめ我が教団は皆さまの我欲を抑えるお手伝いを申し出ます
神に認められし我が教団に財産を寄付するのです、さすれば身の丈に合った生活に必要な分の衣食住をお約束しましょう
さすれば神もお喜びになり、天に召されたのち神の寵愛を受ける事が出来るのです!!
さあ、皆さんも我らと共に神に一歩近づきましょう!!」
やれやれ、こんな搾取目的の見え見えな演説に引っ掛かる奴が居るのかねぇ。
って、ええっ? 広場中から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いている?
今の演説の異常さに信者は何も感じないのだろうか?
いや、俺自身には理解不能だが得てして信仰とはそういうものなのだろう。
神の名のもとにあって司祭の発言は絶対……命令さえれれば命をも差し出すだろうし、お布施を募れば生活に困っていても喜んで差し出す……それが信者。
こんな身体なのもあって俺は神も仏も信じない……もし存在するというなら今すぐ俺を元の身体に戻してみろってんだ、今すぐ死ぬ事が出来る身体に。
おっと、少し感情的になった……一通り町を見て分かったが、ここの司祭は俺が一番嫌いな種類の人間の様だ。
今一度協会に目を移すと俺が紛れ込んできた修道女の一団が到着したようだ。
広場を突っ切り、観衆をかき分けて教会の中へと入っていく。
イングリットは教会の中か……。
さっき外でイングリットを連れ出せれば速攻でミッションクリアだったのだが流石に上手くいかなかった。
イングリットが教団に何の疑問も抱いていないなら、あの時点で取った大声を上げて俺を拒絶するという行動は至極当然であり、完全に功を焦った俺のミスだ。
俺が情報を買った野盗のリーダーが言っていた、この教団からは良い噂を聞かないと。
こうなったらイングリットが知れば嫌気がさす程の教団の闇を暴くしかない。
ついでに他の修道女たちも開放できれば御の字だ。
そうと決まればやることは一つ、教会に潜入して秘密を探ってやる。
俺は屋根から下りると辺りを警戒しながら教会目指して歩き出した。
教会の裏手へ来た、この手の施設には立派な表門とは別に荷物の搬入や人目に付きたくない要人などが通る裏口が必ずあるものだ、後ろめたい活動をしているのなら尚更な。
裏口とはいえ当然警備もいる、しかしそこに立っているのは一人だけ。
これはチャンスだ、俺は再び変身布と変身マスクを身に着けた。
「ねぇお兄さん、こんな所で一人で警備なんて大変ね」
「えっ、修道女が何故ここに? 君たちがこんな所に居たらブルック様にお仕置きをされてしまうよ?」
ブルック様とはあの修道女のお局様だな、あの女も教団内ではかなり高い地位にあると今の会話から推測される。
それはそうと番兵は相当焦っている、これは人が来たから焦っているのではない、女が来たから焦っていると俺は分析する。
汝、姦淫する勿れ……だったっけ? きっと戒律だとかなんとか言いくるめられて女に触るどころか会話も禁じられているのかもしれない、それなら一丁揺さぶってみるか。
「私も男の人と会っちゃダメなんて戒律にうんざりしているのよ、少しお話ししましょうよ?」
瞳を潤ませ甘えた声で門番に密着して人差し指で番兵の胸にしなをつくる。
俺は自分の演技力のありったけを注いで可愛らしい女を演じた。
はたから見たらライムが男に言い寄ってるみたいに見えるだろうな、許せライム。
「いいい……いけません、こんなことが司祭様に知れたら私はどんな厳罰を受けるか……」
なるほどなるほど、司祭は女も独り占めしていると見える。
そうでなければ司祭の目の届かない場所でなら手を出して来そうなものだが、顔を紅潮させ股間の男性自身が反応しまくっていてもそうなのだからよっぽどなのだろう。
「そんな事、気にしちゃだめ……よっ!!」
「ぐはっ……」
俺は強烈なボディーブローを門番の腹に叩き込み気絶させる。
そして手足を縛り猿ぐつわをして近くの茂みに男を引きずっていった。
これでよし、俺は変身したまま裏口から教会の敷地に入った。
教会の壁に張り付き窓から中の様子を伺う……中では修道女たちが三人、着替えをしていた。
はらりと着ていた服が床に落ちる。
又かよ!! 今日は何かとこういったシチュエーションに遭遇するな。
だがこれは仕方がない事なんだ、教団の悪事を暴くため仕方なくやっているんだ。
改めてのぞき込むと……あれ? 三人の中の一人はイングリットじゃないか、それに一緒に居たカタリナって子もいる、もう一人は知らない子だな。
顔に気を取られているうちに彼女たちの着替えは終わっていた。
しかし何と言えばいいんだこれ、彼女たちは純白の布を纏っているのだが半分透けていてしかも服と呼ぶには生地の面積が極端に少なすぎる。
ボディーラインも強調され、これではまるで遊女ではないか。
「まさか私たちが
カタリナというブロンドショートヘアーの娘が上気した顔でイングリットの腕に抱き付く。
「そうね、沢山の修道女の中から選ばれたんですものこの上なく名誉なことだわ」
イングリットも恍惚とした表情を浮かべる、これから起こる事に対して期待に胸を膨らませている様だ。
「
もう一人の少女は手を合わせ涙を流し始めたではないか。
だがそれはきっと違う……これは司祭の欲望を満たすためだけの淫靡な儀式だ。
これは是が非でも阻止しなくては……これはミッション達成のためだけではない、人とて絶対に防がなければならない事だ。
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