第10話 見知らぬ少女を探して

 「さて、改めて言うけどアクセル、あんたへの最初の試練は『絆の水晶』に映った少女を探し出して私の元へ連れてくること、分かった?」


「分かった分かった、そう何度も言われなくても分かったって」


 何故かライムはしつこい位試練の内容を俺に告げてくる。

 あれか? 大事なことは二度言う的なやつ。

 だが2回や3回できかないんだよなこの念押し。

 まあこいつの場合深い意味がない場合もあるし俺の気にしすぎかもしれない。


「私の祠から出た瞬間からミッション攻略期限のカウントと死亡回数の制限が始まるから注意するのよ」


「おう」


「では健闘を祈ります」


 俺の身体を芝生から生えた蔦がまるで鳥籠状に包み込み、俺ごと地面に沈み込む。

 そして再び地面に浮上した時には最初にライムに連れてこられた蔦の壁の前に居た。

 要するに外に出たのだ。

 確かこの蔦から祠までそれなりの距離があったはずなのに一瞬で移動とは……ライムの操る術は未だ計り知れないものがある。

 半年間過ごす間にライムから、自分は『蔦の魔女』と呼ばれていた事があるとか言ってたっけ。


 おっと、こんな所で時間を取られるわけにはいかない、一刻も早く行動に移らなければ。

 半年の期限は今回のミッションの為だけではなくこれから出されるであろう新たなのミッションの期限も含まれる。

 始めのうちに少しでも時間を稼いでおかなければ。

 死亡回数の方は今回は人探しなのだからそうそう減るものでは無いだろう。


 しかし全くの情報なしというのには参ったな……隣の村はレッサーデーモンの時の騒ぎのほとぼりが冷めていない場合があるから立ち寄れない。

 かといって更に西の町や北の町を闇雲に彷徨うのも得策ではない。

 もしかすると俺が拠点にしていた街に少女が居る可能性も捨てきれない……これは困ったぞ。

 とにかく情報が必要だ、どこか手近な所に情報を持った人間が居ないものだろうか……暫し腕を組んでウロウロしながら考え込む。


「あっ、あそこに行けばもしかしたら」


 一つ思いついた場所がある、恐らく十中八九その目当ての人物はそこに居るはずだ。

 俺は東に向かって歩き出した。




 レッサーデーモン騒動の村に立ち寄らず更に東へと進むと鬱蒼と樹々が茂る林道がある……そう、俺が冒険を始めてすぐに通った林道だ。

 そこへ足を踏み入れしばらく進むと、脇の茂みから何かが飛び出してきた。


「おいお前!! 命が惜しければ金目の物を置いていけぇ!!」


 目の前に現れたのはモヒカンの痩せ男だった。


「よう、久しぶりだな元気だったか?」


「ゲーーーーッ!! お前はあの時の!!」


 目の玉が飛び出そうな勢いで驚くモヒカン。


「何なんだお? 大声出しでぇ」


 続いて現れたのは禿げた太っちょだ。


「相変わらずの体型だな、少しはダイエットした方がいい」


「ブヒィィィィ!! お前はぁ!!」


 デブ、お前もか。


「おやおや、また会ってしまいましたか……出来れば二度とお目に掛かりたくはなかったんですがね?」


 リーダー格の男も出てきた、今日は行商人スタイルではなく見るからに野党といったいでたちだ。


「こっちもさ、ただそうもいかなくなってね……なあお前たち、俺と取引きしないか?」


「取引き……ですか?」


 リーダーはピクリと眉を動かす、意外といった表情だ。


「俺は急ぎある人を探していてな、銀貨を三枚出す、情報を売ってくれないか?」


「ほう、そういう事ですか……いいでしょう、但し報酬は倍にして頂きますがよろしいですか?」


「分かったよ、それでこの人物なんだが……」


 リーダー格の男に銀貨六枚を渡した後、俺は懐から一枚の紙を取り出す……それには件の少女の姿が克明に記されていた。

 この紙はライムが植物から生み出したもので、描かれた少女は俺が『絆の水晶』を持った時に現れた映像をライムが術で転写したものだ。


「へぇ、随分と綺麗に描かれているじゃねぇか、じゃなかった描かれていますね……どこの誰なんです?」


 肖像画をのぞき込んできたモヒカンは俺が怖いのか途中から敬語に切り替えた。


「分からない、今ある情報はこの絵だけだ」


「そんなので分かるかお、いえそれだけじゃ分かりませんお」


 デブ、お前もか。


「手掛かりになるのはこの服装ですかねぇ……どこかで見たような気がするんですが」


「頼む、思い出してくれ」


 リーダーは更に食い入るように肖像画を見る。


「おや? この胸元についているバッジ、北にある町の修道院の物ですねぇ……この服装も修道女だと考えれば辻褄が合う」


「そうか!!」


 やるじゃないか野盗ども、ダメ元でお前らを頼って良かったぜ。


「恩に着る、これはボーナスだ取っておけ」


 俺はリーダーに向かって金貨を一枚放り投げた。


「こんなに……?」


 リーダーは突然の事に動揺している。


「それだけお前らの情報は俺にとっては重要だったってことだ、取っておけ」


「そうですか、それならこちらも追加情報を……北の町は修道院があることからも分かる通り大変信心深い町民が多く住んでいます

 ただ、あまりいい噂を聞かない教団です、くれぐれも町民の信仰心を否定したり貶したりすることが無いように……ご自分の命が大事ならね」


「そうか、ありがとうよ……これからも情報を頼むぜ!! またな!!」


 そう言い残し俺は急いで森を抜ける、目指すは北にある信仰心が高い人間が集う町だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る