第4話 下級悪魔
「俺様の使い魔を傷つけたのはお前か?」
奴は上空から俺に睨みを利かせてドスのきいた声で問いかけてきた。
頭の角、吊り上がった真っ赤な目、口に収まりきらない鋭い牙、背中から生えた骨ばった翼、醜悪な紫色の肌……人型をしているが人間とは明らかに違う異形の骨格と体格。
おいおいどうするよ……まさか相手がレッサーデーモンとはな。
レッサー(下等、下級)と名が付いているがとんでもない……
奴らはそんじょそこらのモンスターとは比較にならない程知能が高くて狡猾で魔力も攻撃力も高くおまけに空も飛べる、ドラゴンなどと比肩する高位の魔物だ。
ここの所この近辺で出現した話を聞いたことがなく、そもそもソロの冒険者の俺は冒険者ギルドのクエスト依頼書に奴の名前が書かれていたら一瞬でスルーしていたことだろう。
つまり俺にはレッサーデーモンに対する知識が殆ど無いのだ。
おまけに先ほど林道で野盗に絡まれた時に装備品の入ったリュックを置いてきてしまった。
おかげで今の俺の武器は腰に差したミドルソードだけ……せめて目くらまし用の煙玉や回復用のポーションは欲しかったところだな。
だが無いものねだりをしていてもしょうがない、奴に目を付けられた以上逃げるのは難しい、ここは戦うしかない。
「ああそうだ、あんな薄汚い蝙蝠が軒下に居るのが目障りなんでね」
俺はこちらの動揺をひた隠し堂々と言い放つ。
「大した度胸だな、それにその言い分、見たところよそ者のようだが俺様が誰だか分かるか?」
自分の持って生まれた種族としてのブランド力を押し出してきたか……仮にレッサーデーモンと分からなくてもあの見た目の魔物が強いと思わない人間はいないだろう。
「う~~~ん、そうだな……蝙蝠の親分だろ?」
俺はわざと奴を怒らせるようなことを口走る、この目の前の奴がどんな性格か見極める為に。
考えられるパターン……まずは侮辱されて激昂するタイプ。
プライドが高くとにかく自分を下に見られるのが大嫌い。
得てしてこのタイプは我を失い大暴れする。
だが攻撃は激しくなるが付け入る隙も大きくなる。
もう一つは分析はタイプ。
こちらは逆にこちらの行動や発言の裏の意味を読み取り冷静に対処してくる厄介な相手だ。
このタイプだった場合は確実に相手を責めていき、終始主導権を握ったまま仕留めるだろう。
さて、目の前のコイツはどちらのタイプだ?
「フフッ……この俺様を見て強がりを言えるとは大したタマだなお前は」
奴の口角がぐにゃりと不気味に吊り上がる、どうやら笑っているようだ。
またしても後者か、つくづく俺は運が悪いらしい。
だが待てよ、未だ対戦したことのない高位の魔物だ……もしかしたら不死身の俺を殺すことが出来るのではないか? ここで俺が死ぬ事が出来るならわざわざ手間をかけて『
そんな考えが一瞬頭の中を過ったが、俺は積極的に死を望むところまで達観していないと思い立つ。
少なくともこの村の住人はこのレッサーデーモンに生活を脅かされて困っているのは紛れもない事実。
やれるだけの事はやろうと心に決めた。
俺は腰からミドルソードを抜き、正面に構えた。
「ほう、無謀にも俺様に戦いを挑むか……丁度暇を持て余していたところだ、相手をしてやろう」
レッサーデーモンが長い爪の右人差し指を俺に向けると、どこからか集まってきた大量の蝙蝠、奴の使い魔が一斉に俺に向かって押し寄せてきた。
「くっ……!! こいつら、数が多い!!」
出鱈目に剣を振り回すだけで数十匹は切り落とせたが、視界がすべて埋まるほどの蝙蝠の群れだ、次第に俺の身体に取り付き、次々と肌に牙を立ててくる。
「あぐっ!! くそぉっ!!」
遂に全身を蝙蝠に覆われてしまい、背面から地面に倒れ込んでしまった。
身体のありとあらゆるところから一斉に血を吸い上げられ身体が干からびていくのを感じる……寒い。
「何ともあっけないな、もういい戻れ」
半ば拍子抜けといったレッサーデーモンは蝙蝠たちに指示を出し呼び戻した。
一斉に俺の身体から蝙蝠たちが離れる、恐らくはミイラの様に干からびた俺の身体が横たわっているはずだ。
「ひいいいっ……!!」
その様を見てパン屋の店員が腰を抜かし失禁してしまった。
悪いね驚かせてしまって……しかし俺ももう意識を保っていられない、どうやら死ぬようだ。
何百何千回と経験してきたが死ぬこの瞬間は慣れないものだな。
次の瞬間完全に俺の意識は途切れる、しかし……。
「何だ……この男の身体は……?」
ドクンドクンと脈打ちながら俺の身体が潤いを取り戻していく。
その様を目の当たりにし驚愕するレッサーデーモン。
程なく俺の身体は血を抜き取られる前の状態に完全回復した。
「あーーー、良く寝た……」
わざとらしく大あくびをして上体を起こす……やはり使い魔如きの攻撃では俺は死ねないみたいだな。
「お前……何者だ?」
先ほどの余裕綽綽の態度から一変、レッサーデーモンに焦りに似た感情が芽生えたのが分かる。
俺が今までレッサーデーモンと戦ったことが無いのと同様に、奴も見た目はどこからどう見ても人間なのに独りでに蘇生する者と出くわしたことが無いのだろう。
そういう意味では俺の方が心に余裕が持てるというものだ。
とはいえ俺にはレッサーデーモンを倒せるだけの実力も奇跡の力もない。
実は状況は最初とほとんど変わっていなかったりする。
さてどうしたものか……俺は苦笑いを浮かべた。
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